現役鉄道マンによる鉄道雑学のブログ

趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職等で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

現役鉄道マンがリニア鉄道館で運転シミュレーターをやってみた【後編】

こんばんは、現役鉄道マンのKYSです(^^)

先日、JR東海のリニア鉄道館で、運転シミュレーターを体験してきました。
今回は、そのレポの後編です。前編は↓こちら。

blog.kys-honpo.com


今回は、いよいよ列車を発車させるところから書きますね。

 

いざ出発! 1区間目


最初の駅は、いわゆる待避線からの発車。
手元の時刻表によれば、制限速度60km/hのポイントを渡るようだ。
そのため、マスコン2ノッチで55km/hまで加速し、ポイントに入っていく。

列車の運転のことをよく知らない人は、ここでいきなりフルに加速してしまい、60km/hの速度制限に引っ掛かってしまうのだろう。
駅を出発して早々の罠というわけだが、


もちろん私はそんなミスはしない(キリッ)


列車の先頭がポイントを渡っても、加速するのはまだ早い。
列車の最後尾がポイントを抜けきっていないからだ。

列車は6両の設定。在来線は一般的に1両20mだから、20m×6両=120m。
この距離を走らないうちに60km/h以上に加速すると、やはり速度制限に引っ掛かってアウトである。


もちろん私はそんなミスはしない(キリリッ)


しばらくして、間違いなく120mは進んだと判断してから、マスコンを操作して本格的に加速を始める。


さて、何km/hまで加速すればいいのかわからん!


皆目見当がつかないが、まあ85km/hくらいにしておこう。

鉄橋を渡っていると、反対線路には対向列車の前照灯(ヘッドライト)が見えた。列車のすれ違いだ。
特急列車のようないでたちだったが、なにせ雪の夜という悪条件なので、よくわからなかった。
JR東海のシミュレーターなので、おそらく383系電車「しなの」か、キハ85系気動車「ひだ」「南紀」あたりではないだろうか。

このくらいの速度でええんかな~? と疑問に思いながら走っていると、前方に↓の図のような信号機が見えてきた。

f:id:KYS:20190918194603p:plain


これは「場内信号機」だ。

駅を「家」にたとえれば、場内信号機は「門」に相当する。
場内信号機が見えたということは、すなわち駅が近いということだ。

雪で滑ってオーバーランしたらシャレにならない。少し速度を落としておこう。
ブレーキハンドルを操作してブレーキをかける。
が、シミュレーターなのでブレーキの衝動を実際に身体で感じるわけでもなく、ブレーキの効き具合がよくわからない。
雪で滑っているのかどうかもわからない。
ブレーキをかけているという感覚がまったくないのだ。

それでも、速度計の数字が落ちていくので、ブレーキが効いていることが確認できた。


さあ駅、いつでも出てこい!
バッチリ停めてやる (・∀・ )ドキドキ


……と身構えていたが、いっこうに駅が見えてこない。
夜の線路を走っているのだから、駅の明かりが見えるはずだが……。

おかしいと思いながら走っていると、駅の明かりではなく、また信号機が見えてきた。

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先ほど、場内信号機は「家」でいうところの「門」だと説明した。
しかし実は、「門」は一つとは限らない。
広い駅または配線が複雑な駅だと、「門」が複数あったりする。
駅に遠い方から、第一場内、第二場内、第三場内……という具合だ。

どうやら、私が最初に見たのは第一場内信号機、そして今見ているのが第二場内信号機らしい。
つまり私は、第一の「門」で駅が近いと思って速度を落としたのだが、実際には第二の「門」が存在し、まだ駅まで距離があったということだ。

ちょっと複雑な説明になったが、まあアレだ。一言でいえば


騙された


なまじ知識があったための悲劇である。

ようやく駅の明かりが見えてきた。早めの位置からブレーキを掛ける。
映像の流れ方を見ると、あまりブレーキが効いている感じがしない。
これが雪仕様なのかと少し焦りながら、ブレーキを強くする。
ゆっくりとホームに進入していき、停止位置にはピッタリ停車できた。

まだ駅まで距離があるのに「もう駅が近い」と騙されて速度を落としてしまったこと、雪で滑ってオーバーランしたらいけないので、早め早めのブレーキを意識したこと。
これによって、到着が予定時刻より20秒も遅れてしまった。

うーん、最初から20秒も遅れていては先が思いやられる。

2区間目


2区間目も90km/hくらいで走ることにする。
結果的には、このくらいの速度で正しかったようだが、ブレーキでつまづく。
やはり雪で滑るのが怖かったため、早め早めにブレーキを掛けたのだが、そのせいでグダグダになってしまい、この時点で30秒遅れになる。

3区間目


ここまでの2区間で、ブレーキの感じはおおむね把握した。
また、次の駅までの距離がわからないとはいえ、駅がどこにあるかを見落とすこともなさそうである。
駅が近づくと、暗闇の中に明るい光が出てくるので、わりと遠くからでも発見しやすいのだ。

というわけで、要領をつかんだ3区間目は、遅れを取り戻すべくガンガン飛ばすことにした。
駅を出発し、めいっぱい加速を続ける。
1~2区間目は90km/hくらいしか出さなかったが、この3区間目は100km/hに到達しようとしていた。

そのとき……

ピンポーン
ピンポーン

んっ? この音はまさか……と思って運転台の表示灯を見ると、点灯していたのは……

【パターン接近】 


やっべえええええ((((゚Д゚;))))


あわててブレーキを掛ける。
だが、雪のせいなのか速度低下が思わしくない。

ピンポーン
ピンポーン

恐怖のベルが鳴り続ける。
肝を冷やしながら、常用最大ブレーキ7ノッチで速度を下げ続ける。

そして……ピンポーンは鳴り止み、【パターン接近】表示灯も消えた。

いったい何が起きたのか、さっぱりわからない人が多いだろうから説明しよう。

さっきのピンポーン音および【パターン接近】表示灯は、ATS-PTの速度照査パターンに接近したときの警報である。
かみ砕いて言うと、「このままだと、あと数秒で制限速度をオーバーするよ。速度を下げなさい」という警報である。

視界が悪かったので気付くのが遅れたが、実はこのとき、私の目の前には左カーブが迫っていた。
100km/h近くで走っていたが、おそらくそのカーブの制限速度は90km/hか85km/hだったのだろう。
そのため、「このままだと速度オーバーする!」と判断したATSが、運転士である私に「速度を下げろ!」と警報を発したのである。
私があわててブレーキを掛けたのはそのためだ。

こんなことは、本職の運転士でなければ知らない。
いや、ATS関係の装置は鉄道会社によって仕様が異なるから、本職の運転士でも知らない人は知らないはずである。
ぶっちゃけ、今のシチュエーションになれば、10人中9人は何が起きたのか分からないうちにATSの非常ブレーキがかかっていたであろう。

なんとか九死に一生を得た私の前に、駅の明かりが近づいてきた。
ブレーキを掛ける。いい感じで停止位置に近づいていき、ブレーキノッチ4→3→2→1の綺麗な形で停車。
我ながら上手いブレーキだった。

4区間目


3区間目であわや即死の爆走をしたが、それほど遅れは縮まらず、結局20秒遅れで発車。
いよいよ最後の4区間目。

さっきのピンポーンで懲りたので、無理に遅れを取り戻そうとはせず、無難な走りに徹することにする。

特にトラップもなく、最後の駅が見えてきた。
フィニッシュブレーキは綺麗に決めたかったが、最後の方でちょっとブレーキが足りなくなり、追加ブレーキをする羽目に。
停止位置自体はピッタリだったのだが、少し汚い終わり方になってしまったのは残念。

結局、30秒遅れで終着駅に到着した。
初見の線路を、しかも雪の夜という悪条件で走ったことを考えれば、上出来の部類だと思う。
ブレーキハンドルを非常位置に入れ、逆転ハンドルを中立にする。

私「すみませーん、終わりました」
係員「はい、ありがとうございました。……停止位置ピッタリですね」

ピッタリじゃなかったら逆に問題である。
そう思いながら椅子から立ち上がる。
後ろで見ていたはずの妻と甥っ子はいない。
途中で甥っ子が「トイレー」と言い出したため、妻も一緒に行ってしまったのだ。

いい年こいたオッサンが、一人でシミュレーターに没頭している姿は、周りのチビッ子たちにはどう映ったのだろうか。
そんなことを思いながら、私はスタンプラリーの台紙を取り出す。
「メンドくさいから全部よろしく~」と妻に丸投げされたスタンプラリーをコンプリートしなければならない。

まあこのくらい、仕事での理不尽に比べれば可愛いものだ。
そう自分を納得させて、私は歩き出したのであった。

(完)

まとめ


いかがでしたでしょうか?
途中で肝を冷やした箇所もありましたが、雪の夜をなんとか無事に完走することができました。

ただ……自分で言うのもなんですが、本職である私だからこそ30秒遅れ程度で済んだと思います。
一般人が『達人編』に初見で挑戦したら、完走自体がなかなかに難しいはずです。
自信が無ければ、素直に『見習い編』『練習編』を選ぶのが無難だと思います。

今回の記事はここまでです。次回は息抜きネタで。