今年(2023年)に入り、複数の中小私鉄で「乗務員不足により減便」という事態が起きています。
バスやトラックでは、ドライバー不足は以前から叫ばれていました。しかし、鉄道でも同じことが起きるとは、正直思いませんでした。
いや、将来的にはそういうこともあるよなぁ……と私も漠然と想像はしていました。が、それは20年後くらいのイメージで、2023年に起きるとは考えていなかったです。
ただ、私の先読みも甘かったでしょうが、3年にも及ぶコロナ禍で鉄道会社の経営状況が一気に悪化した影響も少なからずあると思います。
減便していない会社も乗務員確保に四苦八苦
今のところは減便していなくても、実は乗務員の台所事情が火の車で、乗務員の確保に四苦八苦している会社もあります。
何かのツテがあれば、他社に勤める人間に対しても引き抜き行為……とまでは言いませんが、接触しているケースもあると聞きました。たとえば、自社の社員に対し、「他の会社に免許持ちの知り合いいない? ウチに来てもらえないか聞いてみて」という具合。
特に、気動車(ディーゼルカー)で運行している鉄道は、人材確保に苦労しているようです。というのは、気動車は「免許持ち」が少ないからです。
鉄道車両にはいろいろな種類があり、車両ごとに免許が違います。これは自動車の世界と同じ。普通乗用車・バス・トラックでは、それぞれ必要となる免許は異なりますよね。
多数派なのが「電車の免許」で、これは私も持っています。「気動車の免許」となると少数派。電車免許オンリーの私がその気になったとしても、気動車は運転できません。中途採用で即戦力を確保しようにも、そうした壁があります。
さらに、地方ローカル線を運営しているような中小私鉄だと、どうしても給与水準が低い。そのために採用が難しい面もあります。
大手でも人手不足が深刻な会社がある
乗務員が足りなくてヤバいのは中小だけかというと、そうでもありません。私の情報の範囲だと、大手でも、「もーヤダッ仕事きつすぎ。この会社ではやってられない」と退職者が続出して乗務員の足りない事態が起きているところがあります。
ではどうするかというと、所定の仕事にプラスアルファ、つまり時間外労働(残業)で余分に乗務してもらうことで、なんとか回しているそうです。
ただ、それをやると、ただでさえシンドイ仕事がさらに大変になり、それがまた退職者を生む悪循環に陥りかねません。
乗務員は一朝一夕では養成できませんし、頭数さえ揃えればいいというものでもないため、想定を超える数の退職者が出ると、すぐには手を打てないのが現実です。“回復”するまでは、残っている乗務員で頑張るしかないため、仕方ない話ではありますが……。
「カムバック制度」や「退職者の相互受け入れ」で人材流出防止
また、近年になって、退職者の出戻りを受け入れる「カムバック制度」を設けた会社もあります。
ただ、その会社が嫌になって退職した場合は、乗務員が戻ってきてくれる可能性は低いでしょうね。退職したのは、それだけの理由があったはずで、出戻ったからといって理由が消えているわけではないからです。
昔は「去る者は追わず」だったんですが……。それだけ人手不足が深刻ということです。
人材流出防止といえば、大手鉄道会社同士で、退職した社員を受け入れる取り組みもあります。
たとえば、東京の鉄道会社Aで勤めていた人が、家庭の都合等で大阪へ転居するとします。この場合、大阪の鉄道会社Bが受け入れてくれるというものです。
(もちろん、A社とB社の間でキチンとやり取りが行われたうえでの入社)
本人もキャリアを活かして次の職を見つけられるし、業界としても人材流出を防げるメリットがあります。
このへんは、大手 → 大手の転職が難しい雰囲気のあった昔とは、状況が変わってきましたね。以前は、転居のために都市圏の大手鉄道を退職する場合、鉄道の仕事を続けたければ、転居先の近くにある中小私鉄を転職先にするのが一つのパターンだったと思います。
もしかすると、こうした取り組みが、中小私鉄の人材確保に影響している可能性もありますが……。
もはや「アンタの代わりはいくらでもいる」時代ではなくなった
こうした乗務員不足は一時的なものなのか、それとも社会構造等の変化によって、今後は恒常的なものと化していくのか?
各社とも、コロナ禍で経営悪化したダメージが噴出した面はあるでしょうから、一時的な現象との解釈も可能です。ただ、人手不足は社会全体の問題になってきていますから、やはり今後は常に乗務員不足を見据えての対応が求められるでしょう。列車の自動運転実験なんかも、その一環です。
先ほども書きましたが、昔は「去る者は追わず」だったんですよ。「やめたい? ハイハイどうぞ。アンタの代わりはいくらでもいるから」という雰囲気で。
しかし、もはやそういう時代ではなく、会社側が「乗務員を繋ぎ留めておく努力」をキチンとしなければいけなくなったのは間違いありません。
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