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「あらゆる路線に入線できる」を目指すJR貨物の新型機関車

少し前ですが、JR貨物絡みの面白い情報が出ていました。

JR貨物は、新型ディーゼル機関車の導入を計画しているようです。ディーゼル機関車、つまり架線がない路線でも運転できるものですね。電気機関車と違い、非電化のローカル線にも入線できるため、より広い範囲で活躍できます。

現在、JR貨物で使用されている代表的なディーゼル機関車は、DF200です。

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2023年現在、北海道や東海で運用されている

これが導入から20~30年ほど経って老朽化してきたので、置き換えようとの構想。

「あらゆる路線に入線できる機関車」がコンセプト 迂回運転を想定か

その新型機関車ですが、コンセプトとして、「あらゆる路線(※)に入線できること」を掲げているようです。これは災害時などの迂回運転を想定しているのでしょう。

(※正確には、「当社が第1種及び第2種鉄道事業免許を有する全線区、及び乗り入れを認められた他鉄道事業者の線区」と書かれている)

貨物列車の迂回運転。東日本大震災のときに、通常は貨物列車の運行をしない区間を経由し、被災地へ燃料を届けたことは、多くの人が知っていると思います。

同様に、2018(平成30)年の西日本豪雨で山陽本線が寸断された際、山陰本線を迂回して貨物列車が運転された実績があります。

普段は貨物列車が運転されていない路線でも、災害時には迂回経路になることがあるわけです。

迂回運転を行うときは機関車の仕様が問題になる

しかし、迂回運転時に問題になるのが機関車。

貨物列車が普段運転されていない路線とは、つまりローカル線である場合が多いです。ローカル線は線路のスペックが低く、重い機関車が走れるような強度を備えていません。

重い車両が走らないのに線路を丈夫に作ったら、オーバースペックで経費のムダですからね。

ようするにローカル線には、あまり線路へ負担を与えない、軽い機関車(※)しか入線できません。使用できる機関車はかなり限られます。

(※専門用語では「軸重の小さい機関車」と表現する)

これでは、災害時の迂回運転を行いたいときに融通が利きません。“普段使い”ができ、なおかつ迂回運転にも使える機関車があると便利です。

というわけで、「あらゆる路線に入線できる機関車」とのコンセプトが出てきたと推測されます。具体的には、ローカル線でも重量が問題にならない設計にするのでしょう。

会社ごとに仕様が異なるATS すべての装置の搭載は困難

ただ、重量問題さえクリアすれば「あらゆる路線に入線できる」かというと、そうではありません。

新型機関車が開発され、そのうち1両を選んだとします。この1両を北海道から九州、全国どこの路線でも走らせられるかというと、それは難しいと思います。

なぜか? ATSという保安装置の問題です。ATSとは、赤信号の行き過ぎや、制限速度オーバーのときに、自動でブレーキを掛けてくれる装置です。

貨物列車は主にJR線を走りますが、実はATSの仕様がJR旅客会社ごとに異なります。同じ会社内でも、路線によってATSのタイプが違う場合もあります。

ATSは、「地上側の設備」と「車両側の機器」がタイプ一致していないと使えません。車両は、走行する路線に対応したATSを搭載する必要があります。

同じ形式の機関車でも、搭載されているATS機器が違えば、入れる・入れない路線が変わってくるわけ。

交通系ICカードみたいなもんですね。現在は相互利用が進み、どの種類のICカードでもだいたい全国で使えるようになりました。が、昔は「そのICカードが使用できるエリア」が存在しており、エリア外に出ると、そのカードは使用不可能でした。

たとえばICOCAはJR西日本エリアでのみ有効で、JR東日本やJR東海の路線では使えなかった。「エリア」と「カードの種類」が適合しない場合はダメで、互換性がなかったとも言えます。

ATSも同様です。「エリア」と「車両に搭載するATS機器」が合致しない場合は入線不可能。そして、車両に機器を積めるスペースには限りがあるため、全国すべてのATSに対応できるだけの機器を搭載するのは大変です。

そのため、新型機関車がロールアウトしても、配属箇所によって搭載するATS機器が異なるはずです。たぶん。本当の意味で「あらゆる路線に入線できる機関車」にはならないでしょう。

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