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並行在来線の長万部~函館間 JR貨物は引き受けてくれる?

北海道新幹線の札幌延伸時に、並行する函館本線の小樽~長万部間は、廃止される見通しとなった。(2022年3月26日のニュース)

札幌まで新幹線が延伸すると、並行する在来線の小樽~函館間は、JR北海道の手から離れることになります。そのうちの一部・小樽~長万部間は鉄道を廃止し、バス転換されることが事実上決定しました。

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札幌延伸時(2030年度を予定)

長万部~函館間は貨物列車が通っている大動脈

このたび廃止が決まった小樽~長万部間については、本記事では触れません。今回考察したいのは、長万部より南側──長万部~函館間をどうするかです。

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本記事の焦点は「経営分離」と書かれている長万部~函館間

新幹線が札幌延伸すれば、函館~札幌を結ぶ特急も廃止されます。函館市街地と新幹線を結ぶ函館~新函館北斗間は、それなりに利用客がいるでしょうが、それより北側はガチなローカル線になります。現在でも、特急を除く普通列車の本数は、上下線それぞれ指で数えられる程度です。

じゃあ函館~新函館北斗間は残すとして、あとは廃線でいいんじゃね? と思う人もいるでしょうが、話はそう簡単ではありません。長万部~函館間はJR貨物の貨物列車が通るからです。札幌という北海道の一大拠点と本州を結ぶ大事な路線です。

ようするに、長万部~函館間は旅客営業的には微妙かもしれませんが、物流的には大動脈なのです。この区間は絶対に維持する必要があります。

沿線自治体が長万部~函館間を引き受けてくれるかは不明

「長万部~函館間は貨物列車のために維持する必要がある」と書きましたが、具体的には、どこかの会社が所有(と保守管理)しなければならないということです。では長万部~函館間、どこの会社が所有してくれるのか?

JR北海道が引き続き面倒を見ることは100%ありません。長万部~函館間は、新幹線が延伸したら経営分離というのは決定事項ですから。

今までの例では、新幹線が開業すると、沿線自治体(県や市)が出資する第三セクター鉄道が作られ、並行在来線を受け継いでいました。

しかし、今回は話が微妙でして……。新幹線が札幌延伸すれば、長万部~函館間の著しい不採算は明らかなので、沿線自治体がこれを引き受けてくれるかは不明です。

長万部~函館間をどうするかは案が複数あって ①三セク鉄道化 ②バス転換 ③函館~新函館北斗間は三セク鉄道・あとはバス転換。どれを採用するかは、まだハッキリ決まっていないようです。↓のリンクから会議の資料や議事録が閲覧できます。

もし沿線自治体がバス転換して、鉄道いらねぇという話になった場合、どうするか?

貨物列車は通さなければいけないので、貨物専用線として残す手も考えられます。旅客列車は運行しないけど、沿線自治体が出資して三セク鉄道を作る。線路設備だけを保有・維持して、貨物列車から通行料(線路使用料)をちょうだいする案です。

しかし、貨物列車オンリー・旅客列車ナシだと、地元住民としては鉄道の恩恵をまったく受けられないことになります。“部外者”の貨物列車のためだけに、設備維持費が発生する。そんな鉄道に自治体が出資するかは怪しいです。

JR貨物が路線を引き継ぐことはないと予想

一番明快なのは、長万部~函館間をもっとも使用するJR貨物自身が所有者になる(=難しく言えば第一種鉄道事業者になる)ことです。実際、「JR貨物に引き受けさせるべき」と結論している記事もあります。

しかし、JR貨物は首をタテに振らない可能性が高いです。なぜかというと、線路を自社所有するとコストが大幅に増えるからです。

ここでおさらいしておくと、JR貨物は、自前では線路を持たずに他社線──JR旅客会社や三セク鉄道を通してもらい、その見返りとして通行料(線路使用料)を払う形態が一般的です。

この通行料ですが、アボイダブルコストというルールによって割安な金額に設定されています。国鉄民営化の際、JR貨物は経営基盤が弱いことが予想されたため、通行料の支払いが軽くなるように配慮されたからです。
(→アボイダブルコストルールの説明はこちら

逆に言うと、線路設備所有者たるJR旅客会社や三セク鉄道からすれば、自社線に貨物列車を通すのは割が合わないことを意味します。通してあげても、割安な通行料しか徴取できないので。貨物列車が走れるように、設備レベルを維持する負担の方が大きいわけです。
(→三セク鉄道には、採算割れを補うための貨物調整金という補助金が出る)

もっとストレートに言ってしまえば、JR貨物は自前で線路設備を持たず、他社の線路を借りて運行しているからこそ、コストが抑えられていると。

自前で線路を保有するとコストが上がるJR貨物 まず引き受けない

もし長万部~函館間の線路をJR貨物が所有するとなったら、この区間ではアボイダブルコストルールの恩恵を受けられなくなり、運行コストは確実に上がります。

また、自社所有となれば保守管理も自前で行わなければなりません。保守管理の実務はJR北海道に委託する手もあるでしょうが、いずれにしてもコスト増は確実。

あくまで個人的な印象ですが、JR貨物という会社、線路設備関係のコストが増えることに関しては、ものすごく嫌がります。悪く言うわけではありませんが、「他社が所有している設備を安く借りたい」「自分で持つのはヤダ」という姿勢が強い感じでして……。まあ、ずっとそれでやってきたので無理もありませんが。

ですので、JR貨物が長万部~函館間を引き受けることは、私の感覚では「ない」と即座に切り捨てるレベルです。もしそういう打診をしたら、めちゃくちゃゴネると思います。

しかし、長万部~函館間の線路がなくなると貨物列車が通せず、JR貨物は困ることも事実。落としどころを見つけなければいけませんが……。無理やりJR貨物に持たせて、その見返りとして補助金を出す? でもそれだと、今度は他の鉄道会社が「ズルい! 所有する見返りの補助金ってなんじゃ!?」と怒りそう。

非常に困った話ですが、次回に続きます。

(2022/3/28)

続きの記事はこちら 長万部~函館間の並行在来線 貨物列車の運行をどう確保する?

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