現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

記事のクオリティには自信あり! 鉄道関係の記事が約370。趣味で鉄道好きな人や、鉄道業界への就職を目指す人は必見!

長万部~函館間の並行在来線 貨物列車の運行をどう確保する?

この記事は『並行在来線の長万部~函館間 JR貨物は引き受けてくれる?』の続きです。

北海道新幹線の札幌延伸によって、JR北海道から経営分離される小樽~函館間。小樽~長万部間は廃線が(事実上)決定しましたが、問題は長万部~函館間をどうするかです。

この区間は貨物列車が通る大動脈なので、なんとか線路を残さなければいけません。が、沿線自治体が「不採算すぎるので鉄道いらねぇ」と路線の維持をあきらめる可能性は低くないでしょう。

もしそうなった場合、長万部~函館間の線路を保有する会社が(おそらく)なくなってしまいます。つまり、貨物列車の運行がピンチになってしまうわけですが……何か良い案はないのでしょうか?

「三線軌条を長万部まで伸ばす」という構想

ネット上で見かけたのが、「三線軌条区間を長万部や札幌まで伸ばせば?」という案です。

鉄道に詳しい人なら三線軌条をご存知でしょう。現在、青函トンネルは、新幹線と貨物列車の共用区間になっています。両者は使用するレール幅(軌間)が違うにもかかわらず、同じ線路を走行しています。

新幹線 = 1,435㎜
貨物列車 = 1,067㎜

レール幅が違うのに、同一の線路を走らせる──これを可能にするのが三線軌条です。

f:id:KYS:20220330225651p:plain

津軽海峡線の三線軌条

↑の写真、上下線それぞれにレールが3本あるのがおわかりでしょうか。3本のうち、1本は新幹線・在来線の共用レール、あとの2本がそれぞれ新幹線と在来線の単独レールです。

写真右側の線路ですと、右から1番目のレールが新幹線・在来線の共用、2番目が在来線用、3番目が新幹線用。

現在、青函トンネルは三線軌条により、新幹線と貨物列車の共存を可能にしています。青函トンネルを出ると、それぞれ自分の線路に戻ります。この三線軌条・共用区間を、もっと北(長万部や欲を言えば札幌)まで延長する。そうすれば、長万部~函館間の在来線がなくなっても貨物列車は走れるでしょ、という案です。

ただ、結論として、これは無理な構想かと。

新幹線と貨物列車を共存させる難しさ 無理にやるとコストも増える

まず、新幹線と貨物列車ではスピードが違いすぎるので、ダイヤを組むのが大変。

高速道路の同じ車線で、前の車が100㎞/h・後ろの車が120㎞/hで走っていたら、いずれ追いつきます。前の車がMAX100㎞/hまでしか出せないとしたら、後ろの車が減速するしかありません。新幹線と貨物列車を共存させると、これと同じ現象が起こります。

現在、共用区間は青函トンネルとその前後の80㎞程度なので、なんとかなっています。これを長万部まで共存させるとなると、貨物列車が「逃げ切る」のは困難なケースが多々発生するはずです。

東北・北海道新幹線は、東京~札幌間を4時間台で結ぼうと、スピードアップに躍起になっています。いくら新幹線の車両性能や線路設備スペックを上げて時間短縮しようとしても、「前に貨物列車がいるので減速」という理由でブチ壊しにされたら、まあ怒りますよね。

ですので、退避線をいくつか作るしかないでしょう。貨物列車は、後ろから新幹線に追いつかれそうになったら退避線に逃げ込む。新幹線をやり過ごしたら徐に動き出す。そういうダイヤを組むしかありません。

しかし、退避線(信号場)を作るということはコスト増です。必要とする面積やレール本数も多くなります。

さらに、退避線ということはポイントで分岐させなければいけません。ポイントという設備は大雪に弱い(=雪が詰まって切り替わらなくなったりする)ので、対策が必要です。ジェットヒーターを設置するとか、スノーシェルターで覆うとか。とにかく、余計なカネがかかります。

新幹線と貨物列車の「すれ違い」問題 現在は新幹線が減速している

といっても、退避線やらなんやらはカネ次第でなんとかなる問題かもしれません。もっと難しいのはすれ違いです。

新幹線と貨物列車は青函トンネルを共用しています。しかし、新幹線が青函トンネル内を高速運転すると、貨物列車とすれ違ったときに、コンテナが風圧を受けて横転などの危険があると言われています。それを防ぐため、新幹線は青函トンネル内で減速運転していることをご存知の方も多いでしょう。

ようは、新幹線と貨物列車の共用区間では、新幹線は減速を余儀なくされてしまうわけ。少なくとも、現行の「すれ違い時は減速する」という安全確保の方法では。

現在、共用区間は80㎞ほどなので、新幹線側が減速しても、そこまで致命的なタイムロスにはなっていません。しかし、共用区間を長万部まで伸ばすと、その長さ約200㎞。すれ違い対策での減速ロスが大変なことになります。

青函トンネルを出て地上区間を走るなら、すれ違ってもトンネル内ほど風圧の影響が生じず、減速しなくても別に大丈夫では? と思うかもしれません。そのへんの物理的な話は、私もわかりません。

しかしそれはどうでもよくて、青函トンネルを出て長万部に着くまでの間にもトンネルがあるので、「トンネル内で新幹線と貨物列車がすれ違うシチュエーション」は発生してしまうのです。すれ違い時は減速しなければいけません。

前述のように、東北・北海道新幹線はスピードアップに躍起になっていますから、減速区間は最小限にしたい。それを200㎞にわたって減速というのは、まあ許容できないでしょうね。

トンネルの改良や貨物新幹線の開発は難しいと思われる

もし三線軌条を長万部まで伸ばすのであれば、「すれ違い時に減速する」という方法は、新幹線のタイムロスが大きくなりすぎるのでダメです。

改良案としては、たとえばトンネルの断面積を大きくして、上下線をかなり離す。それによって、すれ違い時の風圧の影響を減らし、減速をなしにするとか……。

しかし、トンネルの断面積を大きくすると、コストが膨大になります。それに、もうトンネル工事には着手していますから、今から計画変更は無理でしょう。

あと考えられるのは、いわゆる貨物新幹線──貨物コンテナを積める新幹線車両を開発するくらいか。コンテナが剝き出しにならないようにすれば、高速ですれ違っても安全性に問題はなく、減速しなくてよくなります。

しかし、札幌延伸までに残された9年ほどで車両開発・実運用にこぎつけるのは難しいでしょう。しかも、車両だけを作れば済むのではなく、新幹線と在来線の積み替えをどうするか、そのための設備はどうするか。そういった地上側の課題もあります。

貨物列車の大動脈 地元だけではなく他の利害関係者の参加も

というわけで、三線軌条の延伸や貨物新幹線で対応、つまり、貨物列車が在来線区間を避けて走る形にするのは難しいでしょう。なんとしても長万部~函館間は残さなければマズい、という結論になります。

もし、沿線自治体が路線継続を断念し、JR貨物も引き受けてくれない場合、どうなるのでしょうか?

北海道の産業や物流に必要な路線なので、そっちの方向から出資を募って会社(第三種鉄道事業者)を作る。そうやってJR貨物の列車を通し、線路の保守はJR北海道に委託する。

沿線自治体が三セク鉄道を作って路線を引き受けるのか否か、いつ結論が出るかはわかりません。が、残り時間を考えると、もしものときはそういう落としどころしかない……ような気がします。

そもそも、貨物の大動脈である長万部~函館間をどうするかは、地元だけの話ではなく、全国レベルの問題です。存廃をどうするかは、沿線自治体だけではなく、もっと他の利害関係者も交えて議論する必要があるでしょう。
(水面下では話していると思いますが)

(2022/3/31)

関連記事

JR貨物 vs JR旅客会社 金喰い虫の押し付け合戦


「俺が黒字にしてみせる」 赤字三セク鉄道を立て直した男(1)


→ 鉄道ニュース 記事一覧のページへ


⇒ トップページへ

本記事の写真提供 tomoさん

本記事内の三線軌条の写真は、はてなブロガー・tomoさんが運営する『乗り物好きによる旅行ブログ』から拝借しました。写真使用の許可をいただき、ありがとうございました(^^)

『乗り物好きによる旅行ブログ』は、鉄道旅だけではなく、飛行機旅も取り上げているのが特徴です。記事のボリュームもちょうどよい感じで、文章もサクサク読めます。個人的には「宿泊記」のジャンルの記事が好きですね。ブックマも複数しています。