現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

鉄道関係の記事が約460。鉄道好きや、鉄道業界に就職したい人は必見! ヒマ潰しにも最適

新幹線「函館駅乗り入れ」の企画提案を考察 3両+7両は実現するのか?(2)

この記事は、『新幹線「函館駅乗り入れ」の企画提案を考察 3両+7両は実現するのか?(1)』の続きです。

現在、北海道新幹線の終着駅である新函館北斗駅。函館の名が入っているものの、実際は北斗市が所在地。函館駅からは十数㎞離れています。函館に向かうには、ここで新幹線から在来線に乗り換えなければいけません。不便です。

そこで、乗り換えの手間を無くすため、新幹線を函館駅に乗り入れさせる構想が存在します。函館市は、コンサル会社に委託して、構想の実現性を調査することにしました。

そのコンサル会社から提出された企画提案資料によると 車両は3両編成と7両編成を用意します。東京~新函館北斗間では、3+7の10両で運行。新函館北斗駅で両者を切り離し、3両は函館へ、7両は札幌へ向かわせる。

こういう方法が一つ考えられるよ、とのことです。

ただ、前回の記事でも指摘したように、この方法は無理気味な面が否めません。東北・北海道新幹線に使用されるE5系H5系は10両固定編成ですが、これを3+7に分割すると、いろいろ問題が発生するからです。

なお、北海道新幹線の札幌延伸時(2030年度を予定)には、新型車両が導入されると思われますが、その場合でも、これから指摘する問題点は変わらないはずです。

【問題1】3+7の形にすると座席数が大幅に減る

まず考えたいのが、座席数の問題。

東京と北海道を結ぶはやぶさで使用しているE5系・H5系。JR東日本のホームページによると、座席数は↓図の通りです。

トータル座席数は710

コンサル会社の企画提案で出た、3+7の構想だと、単純計算で座席数は↓図のようになると推測できます。

トータル座席数は583。710座席から127減った

編成全体の座席数がドカーンと減りました。原因は「先頭車」です。

ご存知のように、E5系とH5系の先頭車は鼻が非常に長いため、客室スペースが少ない = 座席数が少ないです。3+7だと途中に先頭車が存在するので、座席数大幅減少が起きてしまうと。

これによって、「乗れるはずだったお客さんが乗れない」という機会損失が発生します。ようは売上を損するわけ。1列車あたり、100~200万円くらい損するのではないでしょうか。

1列車あたりの損を100万円と仮定しましょう。一日の運行本数が上下12本ずつ、合計24本だとすると、

  • 一日 100万円×24=2,400万円
  • 年間 2,400万円×365日=87億6,000万円

うわ、とんでもない額の損になった。これは超テキトーな仮定ではありますが、年間で数十億を損することは間違いないでしょう。新幹線の札幌延伸を切り札にしているJR北海道なんか、絶対に承服しないはず。

ちなみに前回の記事で、私は「E5系・H5系ベースで3+7を構成するのは難しい。3+7をやるなら秋田新幹線のE6系を使った方がいいのでは」と書きました。

秋田新幹線のE6系は「ミニ新幹線用」なので、車両が小さいです。そのため、座席数はさらに減りまして……

トータル座席数は492

こんな感じになるかもしれませんね。どれだけのカネを損するか、考えるのもバカバカしいです(笑)

【問題2】お客さんの車内設備利用が制約される

次に考えたいのが、3+7の形だと、お客さんが車内設備の利用を限定されてしまう問題。E5系・H5系は、10両編成の中に、以下の設備があります。

  • 車椅子対応座席
  • 車椅子対応トイレ
  • 多目的室
  • AED
  • グリーン車
  • グランクラス

たとえば車椅子用対応座席。3+7のうち、7両編成の方だけに車椅子用座席があって、3両編成の方にはない。そんなことになったら、車椅子で函館に行きたい人は困ります。

ようするに、3両・7両編成どちらにも同様の設備を設けないと、不公平になるという話。

しかし、ただでさえ3両と短く、しかも鼻の長い先頭車を2両組み込んで客室スペースや座席が少ない編成。その中に、上記設備を全部詰め込めるか? そのためのスペースが必要なため、【問題1】で指摘した少ない座席数が、さらに減りますね。

もし設備用のスペースが捻出できない場合、函館行き3両編成は、お客さんの設備利用が制約されます。赤ちゃんの授乳のために、多目的室を使用したい。俺はグリーン車で優雅に函館入りしたいんだけど。

はい残念、それは無理。そういう人は、設備のある札幌行きの7両編成に乗って、切り離し駅の新函館北斗で乗り換え……って、「乗り換えなしで函館に行ける」が構想の主眼じゃなかったっけ?

編成を短く「切って」しまうと、こういう問題が起こりえます。

【問題3】鉄道会社のオペレーション上も都合が悪い

もう3+7案のライフポイントはゼロだと思いますが(笑) まだ問題はあります。お客さん目線ではなく、鉄道会社側のオペレーションの都合です。

途中で合体させる列車は遅延した場合に大変

北海道に行くはやぶさ(10両)は、途中の盛岡駅まで、秋田新幹線のこまち(7両)と併合して走ります。札幌延伸後も同様と仮定し、そのうえで、はやぶさ10両を3+7の形にした場合──

東京~盛岡間は、3+7+7の形で走ることになります。東京行の上り列車の場合は、最初は3本の列車だったものが、途中で合体して一つになるわけです。

こういう場合にメンドクサイのが、遅延です。3本のうち、どれかが遅延したら、合体計画が狂います。遅れている列車を待って、予定通り合体させるか。それとも合体は諦めて、それぞれの編成を単独で走らせるか。そのへんの判断や手配が大変です。

もちろん、これは現行の「はやぶさ10 + こまち7」でも起こる問題ですが、これにさらに1本プラスすると、より話が複雑になります。

座席数が違うので車両運用も融通しにくい

鉄道会社目線で厄介な点は、まだあって、先ほどから触れている座席数の問題。

10両編成と3+7編成は、座席数が違います。たとえば10両編成が故障し、代わりの車両を用意する必要があるとき、3+7編成を代走させたい──と思っても、座席が少ないため、営業面で問題が発生します。

ようするに、「仕様が共通ではないので、互換性がない・融通が利かない」のです。

互換性がないということは、別々に運用しなければいけない。運用計画(車両の使用スケジュールのこと)に柔軟性がなく、効率が悪くなってしまいます。車両というものは、仕様を揃えた方が何かと都合が良いのです。

3+7案が実現することはないと思う

  • 座席数の問題
  • 車内設備の問題
  • 鉄道会社側のオペレーションの問題

というわけで、北海道新幹線の函館駅乗り入れ構想について、方法の一つである「3+7案」を考察しました。

いろいろ厄介事が想定されるわけですが、失礼ながら“枝葉”の函館のために、JR東日本とJR北海道が課題解決を頑張るとは思えません。さすがに費用対効果が悪すぎます。

こちらの記事でも書きましたが、「東京から乗り換えなしで函館に行けるようにしたい」は得策ではないと考えます。新函館北斗~函館間に新幹線を通すのであれば、それは「札幌 ⇔ 函館の直通」に目的を絞るべきでしょう。

(2023/9/30)

関連記事

北海道新幹線の「函館駅乗り入れ」を考察 対札幌戦略の面からは疑問


並行在来線の長万部~函館間 JR貨物は引き受けてくれる?


→ 鉄道ニュース 記事一覧のページへ


⇒ トップページへ