現在、北海道新幹線の終着駅である新函館北斗駅。函館の名が入っているものの、実際は北斗市が所在地。函館駅からは十数㎞離れています。函館に向かうには、ここで新幹線から在来線に乗り換えなければいけません。不便です。
ということで、乗り換えの手間を無くすため、新幹線を函館駅に乗り入れさせる構想が存在します。
この構想の実現性については、函館市が外部に調査を委託することにしています。そして、8月に委託先を選定するための審査を行い、委託先のコンサル会社が決定しました。
そのコンサル会社から、企画提案資料が出されました。「新幹線の函館駅乗り入れ構想を実現するためには、こういう方法が考えられるよ。クリアすべき課題は、これこれが想定されるよ」という雰囲気の内容です。
で、私も資料を読みましたが、結論から言うと、「これは一目無理」が正直な感想です。今回の記事では、この話題を取り上げます。
【資料の内容】新函館北斗駅で分割 → 3両は函館へ・7両は札幌へ
まず、コンサル会社の企画提案資料の内容を、簡単に説明しておきます。
東京と北海道を結ぶはやぶさは、10両編成です。盛岡駅までは秋田新幹線のこまちと併結して走り、盛岡で切り離す。こまちは秋田へGo。はやぶさは北海道へ向けて単体10両で走ります(↓図)。
コンサル会社の資料では、3両編成と7両編成を用意し、これを連結して10両にします(↓図)。
新函館北斗駅に到着したら、両者を切り離す。3両は函館へ、7両は札幌へ。これによって、函館駅乗り入れを実現させる構想です。はやぶさ・こまちを盛岡駅で切り離すのと同じ感じですね。
【用語解説】M車・T車・c
という概要を説明したところで、なぜこの構想が無理っぽいかの話に入るのですが……その前に、専門用語を三つ解説させてください。
- M車
- T車
- c
みなさんご存知のように、電車はモーターを使って走ります。しかし、4両の電車だとしたら、その4両すべて(各車両ごと)にモーターが搭載されているわけではありません。「モーターを搭載している車両」と「搭載していない車両」が混在しています。
モーターを搭載している車両を、M車と呼びます。MはモーターのMです。
モーターなしの車両を、T車と呼びます。
cという用語も知っておいてください。これは、運転台がある車両のこと。controller、すなわち運転士が操縦を行う車両なので、頭文字のcを取ってこう呼ばれます。早い話、編成の両端がcになりますね。
そして、「M・T」と「c」は組み合わせて使うこともあります。「モーター搭載 + 運転台がある車両」はMcと呼びます。「モーターなし + 運転台がある車両」はTcという要領。
いまいち理解が進まないかもしれませんが、図を見ていけば頭に入ると思います。東北・北海道新幹線の主力である、E5系とH5系の編成図を示します。
10両編成のうち、両端つまり運転台がある車両(c)は、モーターを積んでいません(T)。つまりTc車です。中間の8両はすべてモーター搭載のM車です。
Tc車とM車で3両・7両編成を造るのは難しいのでは
先ほど説明したように、コンサル会社の資料では、3両と7両を組み合わせていました。最初は3+7の10両編成で走る。新函館北斗で分割し、3両は函館へ。7両は札幌へ。
しかし、この3+7の形に問題ありと見ます。具体的に言うと、3両・7両の編成を製造することが大変だと思うのです。
↑図でわかるように、E5系とH5系は、Tc車とM車という二種類の組み合わせで成り立っています。Tc車・M車の二種類を使って、3両・7両編成を造ると、↓図になります。
これの何が問題かというと、3+7の連結をしたとき、M車すなわちモーターの数が足りないのです。10両単独編成では、8両がモーター搭載つまり8Mでした。しかし、3+7編成では6M。当然、走行性能が落ちるのでダメです(↓比較図)。
また、鉄道車両にはユニットという概念が存在します。ちょっと難しい話ですが、必要機器を一車両にすべて載せるのではなく、複数の車両に分散させます。その複数の車両をセットにすることで「一人前」として扱います。
E5系・H5系だと、M車は2両でワンユニット……と言ってもピンとこないでしょうから、↓図を見てください。
ようするに、「M車は2両を組み合わせないといけない」わけ。となると、3両編成はどうやって造るんだ? という話になってしまいます。
需要の少ない函館直通のために多大な労力を割くのか?
こうした理由で、E5系とH5系、既存のTc車・M車を組み合わせて、3両と7両の編成を造る(改造する)のは難しいのではないでしょうか。
この問題を解決するには、既存のTc車・M車という二種類に加えて、新たにMc車を設計し誕生させる必要があります。
しかし、JR東日本とJR北海道が、需要の少ない函館直通のためだけに、わざわざそんなメンドクサイことをやってくれるはずがない。E5系とH5系の3両・7両編成が誕生する可能性は皆無と考えます。
3+7を実現させたければ、E5系・H5系ではなく、秋田新幹線で使用されるE6系を使った方が現実的かも。
なんと都合の良いことに、E6系は7両編成です。そして、Mc車も存在する。さらに、「3両でワンユニット」の部分もあるので、3両編成に改造できる……かもしれません。
ただ、先ほども書いたように、需要が少ない函館直通のためだけにそこまでやるか? と聞かれれば、常識的に考えて「やらない」がJR東日本とJR北海道の答えではないでしょうか。
とにかく、実際の鉄道車両は制約がいろいろあるので、プラレールみたいに都合よく組み替えることは難しい。それをわかっていただければOKです。
今回の記事はここまでですが、3+7構想の問題点は、車両の性能面だけではありません。次回は、営業面や運用面の問題を考察します。
関連記事
北海道新幹線の「函館駅乗り入れ」を考察 対札幌戦略の面からは疑問