2020(令和2)年10月28日、JR東海が第二四半期決算を発表しました。
鉄道各社は依然として苦しい状況が続きますが、この半年間を経て、苦しいなりに状況・先行き・着地点が見えてきたような印象を受けます。前回の四半期決算では出せなかった通期予想が、今回の発表では出てきたことからも、それはうかがえます。
今回の記事では、JR東海が発表した数字を見ていきます。また、併せて今後の予想も行います。
赤字額は依然ヤバいが転がり落ちるのは止まった
「鉄道利用者数の落ち込みは回復傾向にある」と報道等で言われています。ウチの会社でも、少なくとも通勤・通学客(定期旅客)に関しては、コロナ前の8~9割くらいは戻っている感じです。
あとは「客単価」の高い定期外旅客がどれだけ戻ってくれるか……。
さて、JR東海はどれくらいの回復傾向にあるのでしょうか? 具体的に数字で見ていきましょう。
まずは赤字額(単体・営業赤字)について。4~6月の赤字が734億円。今回発表された赤字の1,000億円というのは、4~9月の半年間の成績。
つまり、7~9月で膨らんだ赤字額は、差し引きして266億円ということになります。坂を転がり落ちるような状態は、ひとまず止まった感じです。(依然としてヤバい状況なのは間違いないですが)
コロナ以前には程遠いが売上は確実に回復傾向
続いて、JR東海の屋台骨である東海道新幹線の売上額。4~9月の半年間で、売上額は1,625億円でした。
4~6月の売上額は547億円。
7~9月の売上額は1,078億円。
おおむね、倍近い売上になっています。
倍近くになったといっても、コロナ前に比べるとまだまだ低い水準です。コロナ前の東海道新幹線の売上は、年間で約1兆3,000億円。平均して月に1,000億円以上の売上がありました。7~9月の三ヶ月間で、ようやく従来の一ヶ月分を稼いだ勘定です。
コロナの新規感染者数が7月下旬~8月に激増したため、8月は利用者が再び落ち込んだそうです。そこから考えると、売上の内訳としては、たとえば↓のような感じでしょうか。
8月 250億円
9月 430億円
「1年」という節目で旅行や帰省がドバッと増える?
今回の四半期決算で、通期予想、つまり今年度の着地予想が発表されました。それによると、どうやら残り半年で、新幹線売上は3,000億円くらい上乗せを見込んでいるようです。平均すると毎月500億円くらいの売上ですね。
私の(勝手な)予想では、もう少し売上が戻るのではないかと思います。
コロナ騒動は2020年2月くらいから始まったので、今度の年末年始で約1年が経過することになります。この1年間、国民は自粛や我慢を積み重ねてきました。
私も、実家への帰省は昨年の年末年始以来していません。もう長いこと、ウチの両親に孫の顔を見せてあげられていないんだよなぁ。旅行らしい旅行も今年は一度もしていないし。
……という状況の人は多いと思います。しかし、約1年という一つの節目になる次の年末年始、「もう限界」と感じて、帰省や旅行がドバッと始まる可能性が高いと私は予想しています。私も、現在のコロナ状況が大幅に悪化しなければ、年末年始は帰省したいと思っていますし。
国民のそうした心理状況を考えると、JR東海も内心、「実はもう少しイケるのでは?」と思っているかもしれません。この状況で甘い予想は禁物なので、口には出さないでしょうが。
もちろん、そうなっても今年度の大赤字は避けられませんが、年末年始の旅客増の勢いで、以降の客足も戻る可能性があります。
JR東海は従来の「7掛け」の売上でも耐えられそう
さて、ここからは来年(2021年)度以降の展望です。現在、鉄道業界では次のようなことが言われ始めています。
「今後は、コロナ前の売上の7~8割でやっていくことを考えないといけない」
コロナ前の売上の7~8割くらい。これ、JR東海に当てはめると、どんな感じになるでしょうか? 7割という数字でシミュレーションしてみましょう。
コロナ前の数字は、おおむね次の通りです。(連結ではなく単体ベース)
在来線の売上 1,000億円
運輸雑収や関連事業 500億円
合計 1兆4,500億円
これが7割に落ち込むと仮定すると、次のようになります。
在来線の売上 700億円
運輸雑収や関連事業 350億円
合計 1兆0,150億円
ちょうど1兆円くらいですね。この売上額で黒字になるかどうかですが、じゅうぶん黒字になりそうです。
JR東海の営業費用は、年間で約8000億円ですので、1兆円 - 8,000億円 = 2,000億円の営業黒字。この2,000億円から、借金やら社債やらの利息で1,000億円弱が差し引かれ、1,000億円強の経常黒字。さらに法人税等を持っていかれても、数百億円の黒字は残る勘定。
売上を3割も持っていかれたら、赤字になるのが当然なんですが……。実際、JR東日本やJR西日本で同じようなシミュレーション(連結ではなく単体ベース)をすると、1,000億円を優に超える赤字が出ますし。
うーむ、さすが強靭・無敵・最強のJR東海としか言いようがない。
JR東海の金子社長も、会見で「来年度以降の黒字化はじゅうぶんにできると思っている」と発言していましたが、ここで示したような数字を見れば、みなさんも納得するのではないでしょうか。
リニアが開業すると黒字が吹っ飛んで赤字に転落する可能性も
ただし、現在建設中のリニア中央新幹線が開業すると、話は違ってきます。コロナ前の「7掛け」しか売上が戻らない場合、リニアが開業すると、先ほど計算した黒字が吹っ飛んで赤字に転落するのではないでしょうか。
なぜか?
JR東海の売上は大部分が東海道新幹線によってもたらされており、これは言い換えれば、東京~名古屋~大阪の移動需要で稼いでいるということ。現在、東名阪の移動シェアは、すでに東海道新幹線が大半を占めています。
つまり、リニアが開業しても東名阪の移動需要をさらに大きく取り込めるわけではない。したがって、JR東海の売上がドーンと伸びることはないわけです。
しかし、リニアが開業すれば必要経費だけは増えて、収支が悪化するのは確実視されています。数百億円程度の黒字では、この収支悪化に耐えられず、赤字に転落するのは間違いないと思われます。
コロナ前の水準にどこまで戻るか? 様子を見るしかない
こちらの記事でも書きましたが、リニアはJR東海という会社が生き残るための戦略として必要な路線です。しかし、それを開業させると黒字が吹っ飛んで赤字に転落する。このジレンマをどう解消するのか?
こればかりは2~3年様子を見てみないと、戦略が立てられないでしょう。先ほどは、売上がコロナ前の「7掛け」しか戻らない仮定でシミュレーションしましたが、もしかすると「9掛け」くらいまで戻るかもしれません。その場合は、リニアが開業しても黒字は維持できるはずです。
今年(2020年)度の大赤字は仕方ないとして、来年(2021年)度以降、コロナ前の水準にどこまで戻るか? 今後の決算情報も要チェックです。
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