現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

睡眠時無呼吸症候群・SAS 鉄道の安全を脅かす病気

今回のテーマは睡眠時無呼吸症候群(SAS)。

睡眠中に呼吸が止まってしまう病気。
そのせいで疲れが取れにくく、日中の倦怠感や集中力の低下を招きやすい。

健康番組などで取り上げられる機会が多いので、みなさんもご存じでしょう。

 

鉄道の安全は「社員の健康」という前提条件があってこそ


前回の記事では、乗務中の眠気について書きました。

乗務中に眠気が……そのとき運転士はどうする?

この眠気が「正常な生理現象の範囲内」ならよいのですが、そうではなく、SASが原因の場合もありえます。

SASという病気の症状は、日中の倦怠感や集中力の低下。
これは、鉄道の安全に直接携わる列車の運転士にとって、大変な脅威です。

鉄道で最も大切なのは「安全」ですが、それは「社員の健康」という前提条件があってこそ。
いくら設備やシステム(=ハード)が発達しても、それを操る鉄道マン(=ソフト)が病気でフラフラでは、話になりません。
鉄道の安全を守るためにも、鉄道マンは病気という阻害要因を知り、取り除く努力が求められるのです。

……と難しく書きましたが、ようは「体調管理も仕事のうち」ということ。
別の言い方をすると、体調管理がロクにできない人は、安全を守れる資質が欠けているので、鉄道マンには不向きです。
これを読んでいる就職活動中の学生さん、よーく肝に銘じておいてください。

鉄道会社では乗務員がSASかどうかを検査している


話をSASに戻しましょう。
お隣のバス・トラック業界では、SASが原因と思われる居眠り運転や、運転中の意識喪失により、死傷事故も発生しています。

事故の原因というのは、複数の要因が重なっていることが多く、一つの要素だけを取り上げて「これが原因だ!」と断定することはなかなか難しいものです。
だから、「SASと事故の因果関係」を明確に証明できる事故例がどれだけあるかは私もわかりませんが、しかし、一定程度存在していることは間違いないでしょう。

こうした背景から、鉄道業界でもSASの対策を講じています。
ウチの会社でも3年に一度くらいの頻度で、乗務員に簡易検査キットが渡されて、SASかどうかの診断が行われています。
私も受けたことがあります。

具体的には、検査キットを身体に装着した状態で眠ります。
計測機器を腕に巻き付けたり、コードを顔にくっつけたり……。

「こんな状態じゃ眠れねぇよ……」

数人に一人は、絶対にこんな感じでボヤきますね(笑)
私は普通に眠れました。

ちなみに先日、運転士が乗務中に眠気を感じてブレーキ操作が遅れ、オーバーランする事例が某鉄道会社でありました。
こういう場合、SASの可能性も疑われるため、当該運転士は何らかの検査を受けることになります(そのはずです)。

国交省の監査でもSASの管理状況はキッチリ見られる


また、鉄道会社には数年に一度、国土交通省(正確には地方出先機関である運輸局)による「保安監査」が入ります。
この際、SASの診断結果や、SASが疑われる社員の管理状況記録は、キッチリ見られます。

国交省の監査って、昔は重箱の隅を突っつくような指摘もされたのですが、最近はそういう傾向はなくなりました。
ただ、SASの管理は別で、これは相当細かく見られます。
雑な管理をしていると、国交省の監査官からめっちゃ怒られるはずです。
それだけ国交省も「鉄道の安全とSASの関係」について重視しているわけ。

検査結果が「クロ」だったら?


さて、乗務員に検査キットを渡して診断を行なった結果、「クロ判定」の人は出るのか?

わかりません(笑)

というのは、私はそういうのを管理する側の人間ではないので……。
(管理される側の人間ですね)
SASが疑われる乗務員がいたとしても、「この人はSASの可能性があります」みたいに職場内で公表されるわけでもないので、周りからはわかりません。

ただ、SASは「何万人に一人」というレアな病気ではなく、もっと患者数の多い身近な病気です。
大手の鉄道会社なら、クロの乗務員が絶対いるはず。

おそらく、クロの乗務員に対しては、病院で精密検査を受けるよう、会社が指導するはずです。
病気といっても、軽症から重症までいろいろありますから、精密検査の結果を受けて、乗務を続けてもよいかどうかを判定するのだと思います。

……と書いていることからもおわかりのように、私の検査結果はシロでした。

SASの判定にはグレーゾーンも多いので油断できない


ただし、検査結果がシロだった人も、「わぁ~SASじゃなかった、よかったぁ~」と素直に喜ぶのは危険です。
というのも、SASは「極めてグレーゾーンな病気」だからです。

一般的に、SASは肥満気味の人に多い病気とされています。
首周りについた余分な脂肪が、睡眠中に気道を圧迫して呼吸が止まってしまう。
そういう原理です。

ただ、「SAS=肥満」という図式で括れるほど、単純な話ではありません。
SASはようするに睡眠中の呼吸が止まることで起きる病気ですが、睡眠中のスムーズな呼吸を阻害する要素は、肥満以外にもいろいろあるからです。
たとえば、扁桃腺の肥大や鼻詰まりなどが挙げられます。

ようするに、SASを誘発する原因はいろいろあるわけで……。
そのため、いま現在SASでなかったとしても、何がきっかけで発病するかわかりません。

また、体調や寝ているときの姿勢によって、同じ人でもSASの症状が出たり出なかったりするらしいです。
シロという検査結果はたまたまで、実はSASだった、なんてこともありえます。

SASは原因がわかれば対処が可能 病気と向き合う姿勢が大切


……などと書くと、なんだか怖い印象を受けるかもしれませんが、SASは不治の病ではありません。
原因がわかれば対処は可能で、改善することができます。

肥満気味の人なら、ダイエットする。
扁桃腺肥大の人なら、手術を受ける手もあります。

先ほど「体調管理ができない人は鉄道マンに不向き」と書きましたが、これは別に「病気持ちの人は鉄道マンになれない」という意味ではありません。
自分がどういう病気なのかを知り、病気とうまく付き合っていく自己管理ができていれば、問題ないケースも少なくないのです。


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