大井川鐵道では過去にも連結器が外れる事件が発生していて、今回で3回目だそうです。
今回の事件を起こしたのは、非常に古い車両のようで、連結器そのものが劣化していたか。それとも整備不良か、あるいは直前の作業や確認に不十分な点があったのか。
国土交通省も、本件をインシデントに認定して調査に入りました。「車両障害」というインシデントに該当するのでしょうか。
鉄道は列車分離が起きると自動的にブレーキが掛かる仕組みを備える
本記事では、原因の考察は行いません。材料が少なくて考えようがないですし、そもそも私は連結器に詳しくないので。
解説するのは、「連結が外れたときに自動的にブレーキが掛かって止まった」という部分。これは、列車が備えている「貫通ブレーキ」という仕組みの作用です。
列車が編成途中でちぎれたとき(=列車分離と呼ぶ)に、ちぎれた車両が勝手に転がっていくと、大事故につながります。そこで、連結が外れたときには、自動的にブレーキが掛かって止まる仕組みになっています。これは大井川鐵道の車両に限った話ではなく、どの鉄道事業者でもそうです。
まあ連結が外れるなんて事態、大昔ならともかく、現代では滅多に起きません。鉄道マンでなければ、そういう機能が備わっていることを知らない人がほとんどでしょうが……
ブレーキ管から圧縮空気が「抜け」るとブレーキが掛かる
では、連結が外れたら自動的にブレーキが掛かる、その仕組みはどうなっているのか?
ブレーキのシステムというか、方法論にはさまざまなものが存在します。今回の大井川鐡道の車両(古いタイプ)に使われている仕組みを説明します。
まず、編成の先頭からケツまで、ブレーキ管というものを引き通します。ブレーキ管の中には、圧縮空気が充填されています。
このブレーキ管から圧縮空気が抜ける(=減圧する)と、ブレーキが掛かる仕組みになっています。
もし列車分離が起きると、ブレーキ管の途中に「穴が開き」、そこから圧縮空気が漏れるので、自動的にブレーキが作動します。大井川鐵道で発動したのもコレですね。
なぜ空気を「抜く」とブレーキが掛かる? 自動空気ブレーキの仕組み
ここまで読んで、もしかすると、次のような疑問を抱く人がいるかもしれません。
ブレーキというと、空気を「入れる」ことで作動するイメージがあるんだけど……。空気を「抜く」ことでブレーキが掛かる? 逆じゃないの?
そのへんの仕組みを図で説明しましょう。↓図をご覧ください。実際はもっといろいろ複雑で、この図は正確とは言い難いのですが、イメージを掴んでもらうことを優先しています。
必要なところに圧縮空気を込めてみましょう。水色が圧縮空気です。
注目してほしいのは、図中央あたりのオレンジ色の部品。左右からの空気圧が釣り合っていて、動きません。これにより、車輪側へ流れる空気のルートを遮断しています。この状態からブレーキ管の空気を抜くと、何が起きるか?
ブレーキ管から空気を抜く = 減圧すると、右側からの空気圧が優るので、オレンジ色の部品が左に動きます。すると、車輪側へ空気が流れていきます。
空気圧でブレーキシュー(制輪子という)が動き、車輪に当たるので減速します。
つまり、「ブレーキの発動を司る空気管」と「ブレーキシューへ空気を送り込む空気管」が別々に存在するわけです。二つの管の圧力差を利用することで、空気を流したり遮断したりして、ブレーキ力を調整するのですね。
これは自動空気ブレーキと呼ばれる仕組みです。何でもそうですが、最初に考えた人って本当に頭いいよな~。
現代ではブレーキ管ではなく「電線」を引き通す車両が多い
なお、自動空気ブレーキは古い仕組みで、現代では少数派です。多くの鉄道車両では、電気指令式空気ブレーキという仕組みを採用しています。
電気指令式空気ブレーキでは、「連結が外れたときに自動的にブレーキが掛かる」をどう実現しているか? ブレーキ管に代えて、編成全体に電線を引き通し、電気回路を構成します。
この電線に通電しているときは、ブレーキは掛かりません。逆に、電流が途絶えるとブレーキが強制的に作動します。
言い換えると、電気を流し続けることが、ブレーキが掛からないための条件になっているのですね。イメージとしては↓図。
列車分離が起きたときも、電気回路が切れる = 電流が途切れるので、自動的にブレーキが掛かります。
また、故障等で車両がもし電源を喪失しても、やはり電流が途切れるので、その時点でブレーキが作動するのですね。
言ってみれば、鉄道車両とはブレーキが掛かってしまうのがデフォルトです。条件が整ったとき──自動空気ブレーキでは、ブレーキ管に圧縮空気が充填されているとき。電気指令式空気ブレーキでは、引き通し線に通電しているとき──に限ってブレーキが掛からず、走行できるようになっています。
これは言うまでもなく、車両トラブルが起きたときに列車を止め、安全側に作用するための仕組みです。
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圧縮空気に関しては、以前読んだ↓の記事が面白かったので、興味のある人はどうぞ。