『運転士になるまでシリーズ』の続きです。
今回の記事では、指導運転士の説明をします。仮免状態の見習運転士と列車に同乗し、運転士の仕事を行うにあたっての実務指導をしてくれる、いわゆる「師匠・先生」というやつですね。
みなさんも列車に乗っているときに、一度くらいは見習運転士 + 指導運転士のコンビを見たことがあるのではないでしょうか。
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見習生ごとに「専属」の指導運転士をつける
自動車免許を取得する際、仮免で路上に出るときは、必ず横に教官が同乗しますよね。鉄道でも同じだとイメージしてもらえばOKです。
もちろん、違う点もあります。
自動車免許だと、日によって同乗する教官が変わったりします。が、鉄道の場合は指導運転士は不変。ようするに、見習生ごとに専属の指導運転士がつくわけ。
(指導運転士が何かの用事で休んだときは、ピンチヒッターで他の運転士が同乗しますが)
見習生と指導運転士のウマが合わなかったら大変 組み合わせは重要
さて、見習運転士にどの指導運転士をつけるかは、どのように決められるのでしょうか?
現場では、見習生の実車講習~試験までを統括管理する教育担当の責任者がいます。この人が、見習生と指導運転士の組み合わせを決定します。
新入社員が配属されてきたとき、どの先輩社員を指導担当にするかは、係長や課長などの上司が決めますよね。それと同じです。
見習生と指導運転士の組み合わせは、ものすごく大事です。出勤から退勤まで、ずーっと一緒に行動しますから、人間的にウマというかソリが合わないと大変なことになります。実際、人間関係がうまくいかずに破綻した例もあります。
「誰を指導運転士にするか?」は、見習生にとって最重要ポイントといってよいでしょう。
もちろん、人間的な相性だけで決めるのではありません。指導運転士には、運転士としての技術だけではなく、見習生を指導できるだけの見識も必要です。別の言い方をすると、「プレイヤーとしての優秀さ」に加え、「コーチとしての優秀さ」も求められます。
私の先生はどんな人だった?
私の指導運転士になったのは、50代のベテランの人でした。以下、「先生」と表記します。
車掌をしていれば運転士とコンビを組むので、先生との面識は当然ありました。
(教習所卒業後に、車掌時代とは違う現場に配属されることもあるので、その場合は面識がないのが普通)
私の先生は「穏やかなオジサン」という感じの人で、「お前の指導運転士は○○さんね」と知らされたときは、「よかったぁ」とホッとしました(笑)
ところで、指導運転士には、大きく分けて2つのタイプがいます。「手取り足取りキッチリ教えるタイプ」と「あまり口出ししないタイプ」です。
私の先生は「あまり口出ししないタイプ」で、基本的に私のやり方を尊重してくれました。登山にたとえれば、見習生の手を引っ張って進んでいくのではなく、後ろから見守りながらついていく感じです。
もちろん、それは何もせずに放置しているという意味ではありません。間違った方向に進んでいるときは、キチンと指摘・指導してくれます。ただ、そのときも「違うぞ」と直截的に言うのではなく、「それで大丈夫か?」と遠回しに言う人でした。
こういう指導スタンスをどう感じるかは、意見が分かれるでしょうね。「細かく指示を出してくれる方がいい」「自分にはバシッと言ってくれる先生が合っている」と思う人も、当然いるでしょうから。特に近年では、「社員教育は手取り足取りキッチリ教える」という風潮も強いですし。
先生が私の指導運転士に選ばれた理由
さて、なぜこの人が私の先生に選ばれたかですが、見習生と指導運転士の組み合わせを決めた教育責任者(上司)としては、ちゃんと考えがあったようです。これは無事に免許を取得した後の話ですが、お祝いの飲み会の席で、次のように教えてくれました。
「お前は自分で考えて仕事をするタイプだから、1から10まで手取り足取り教えられるのは嫌いだろ?」
「まあ、そうですね」
「だから、あれこれ言わない先生をつけた。○○さんで正解だったでしょ?」
……だそうです。そのときは、「上司ってのは見てないようで見てるんだな」くらいにしか思わなかったのですが……。この話には続きがあります。
なぜ先生が「30~40代の中堅」ではなく「50代のベテラン」だった?
後年、自分自身の「指導記録」を閲覧する機会がありました。運転士養成開始から免許取得まで、指導内容や教育過程をまとめた資料が、運転士一人ごとに作られ保存されているのですね。
分厚いファイルに綴じられた資料には、「見習生の性格」つまり私がどのような人間かについて書かれた部分もありました。教習所の担任講師によるコメントだったのですが、以下のような感じでした。
あー、これは嫌な生徒だ(笑)
こんな奴、俺が指導する側だったらヤダ(^^;) 飲み会の席では、指導運転士の人選理由を軽い感じで話してくれましたが、実は「コイツには誰をつけよう……」と上司は相当悩んだのではないか。
そして、これを読んで「あっ」と思いまして……
というのも、実は指導運転士って、30~40代の人が任命されるケースが多いです。運転士として経験を積んで脂がのってきたところで、20代の後輩運転士の育成にあたる。それによって、指導運転士の側のステップアップも図る。会社としては、自然な采配ですよね。
だから、私の先生が50代のベテラン運転士だったのは、ちょっと不思議に思っていました。少なくとも私の見てきた範囲では、あまりないケースだったので。
もしかしたら教育責任者(上司)は、30~40代の運転士では私を制御しきれないと読んだのかもしれません。茶碗と茶碗が真っ向からぶつかって割れるみたいな展開になるかもと。それで、若手のあしらいに長けた50代ベテランを先生にした、と。
真偽は不明です。深読みのしすぎかもしれません。が、そう考えると納得がいきます。「親の心子知らず」の諺が頭に浮かびました(笑)
ちなみに先生、現在はすでに定年退職されていますが、年賀状のやり取りは続いています。先生から見れば、私は「大勢いた生徒」の一人にすぎないはずですが、ありがたい限りです。