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運転士になるまで(20) 教習所がない中小鉄道会社はどうする?

『運転士になるまでシリーズ』の続きです。

教習所での学科講習についての話が続きますが、もしかすると、読者のみなさんの中には、次のような疑問を感じている人がいるかもしれません。

「大手鉄道会社の話はわかった。じゃあ、そもそも教習所を持たない中小鉄道会社では、いったいどうやって運転士養成をしているの?」

今回の記事では、この疑問に対する説明をします。

原則:自前で勉強して国交省の試験を受ける

運転士は国家資格です。国家資格ですから、国土交通省(厳密には国交省の出先機関である地方運輸局)が実施する試験に合格する必要があります。これが原則。

大手鉄道会社は、国から「お前のとこは自社で運転士の試験をしていいよ」とお墨付き(指定)をもらって、教習所で運転士の自社養成をしています。が、これは形式上はあくまで例外扱いといえます。

したがって、教習所を持たない中小鉄道会社の運転士候補生は、原則通り、国交省が実施する学科試験および実技試験を受けるのです。

ここまでが前提の話。

裏ワザ:他社の教習所に養成を委託する

さて、教習所を持たない中小鉄道会社では、国交省が行う学科試験を受ける、と書きました。学科試験を受けるためには、当然ですが、勉強しなければいけません。運転士候補生に、教育担当の上司が試験対策としての勉強を教えるわけです。

ところが、試験対策のノウハウがない等の理由で、自社での教育ができない会社があります。その場合、教習所を持つ大手鉄道会社に、「ウチの社員をお宅で預かってもらえませんか?」とお願いするのです。

早い話、他会社に運転士養成を委託するわけです。

こうした理由で、中小鉄道会社の運転士候補生が、大手鉄道会社の教習所に入ることがあります。彼らは、学科講習を受け、学科試験に合格するところまで、他会社の教習所で過ごすのです。

なお、「養成の委託」はあくまで学科の部分だけで、実技は自社で行います。学科試験に合格したところで、教習所とはオサラバし、自社に戻って見習運転士として実技講習に突入します。

2020年3月2日追記某3セク運転士見習いさんのコメントによると、「学科講習だけでなく、実技講習も委託先の鉄道会社で行うケースがある」とのことです。貴重な情報をありがとうございます。

「つながりが深い会社」に養成を委託する

ここで問題なのが、「中小はどこの大手に養成委託するのか?」という点。

これは、「つながりが深い大手鉄道会社」に養成をお願いするのが一般的です。つながりが深いとは、以下のような事柄を指します。

  • 会社間で資本関係がある
  • 相互直通運転をしている
  • 出向者を受け入れている
  • 現在は三セクだけど元々はJR線だった

たとえば、2015(平成27)年に北陸新幹線が金沢まで延伸しましたよね。その際、北陸線のJR西日本区間は、あいの風とやま鉄道IRいしかわ鉄道という二つの第三セクター鉄道に経営分離されました。

これらの会社で、どのように運転士養成を行なっているかは私は知りません。が、仮に他会社に養成を委託しているとしたら、JR西日本の教習所にお願いしている可能性が高いです。

中小は少数精鋭で優秀な社員を送り込んでくる

運転士の学科講習は1クラス約30人ですが、そのうち、他社からの養成委託の受け入れ上限数は、せいぜい2~3人というところでしょうか。それ以上の人数を受け入れると、大手自身の運転士養成に支障が出ます。

2020年3月2日追記某3セク運転士見習いさんのコメントによると、「JR九州では内燃車免許の取得は転換が主流」「したがって、新規内燃車のクラスは全員が3セク社員」とのこと。つまり、JR九州の新規内燃車のクラスにはJR九州自身の社員がおらず、全員が外部の人間ということ(マジか!)。貴重な情報をありがとうございます。

なお、「新規」「転換」という言葉をご存じない方は、↓の説明記事をご覧ください。

キーワード解説 運転士免許の「新規」「転換」とは?

さて、このように養成委託は受け入れ人数に制限があるため、中小は少数精鋭で優秀な人材を送り込んでくることが多いようです。

大手だと、運転士を“大量生産”するので、1~2人養成に失敗しても、そこまでの痛手にはならないでしょう。しかし、中小では毎年、指で数えるくらいしか運転士を養成しない(ゼロの年もあるはず)ので、1人でも不合格になると人事計画が大きく狂います。そうならないよう、中小では優秀な社員を選抜して運転士養成を行うようです。

他社から委託で来た人が成績トップ!

私のクラスには、他社から委託で来ている人はいませんでした。私の後輩が、他社から来た人と一緒に学科講習を受けていたので、彼から聞いた話を紹介します。

後輩のクラスには、他社からの養成委託で2人が来ていました。いずれも成績優秀だったそうです。

さらに、「自分たちは会社を代表して来ているんだ」という意識があるためか、一生懸命に勉強する。好成績なうえに勉強熱心な姿勢が、周りにも良い影響を与えていたそうです。

そして……卒業時の学科試験、彼らの成績はなんと1番と4番!
(あ、学科試験ではちゃんと順位がつくんですよ)

2人が自社に帰った後、後輩たちは、

「他社の人間にトップの成績を取られるなんて、恥ずかしくないのか!」
「お前らじゃなくて、あの2人をウチの会社の運転士にしたいくらいだ」

と講師にさんざん説教されたそうです(笑)

ちょっと極端な例でしたが、規模の大小に関わらず、どこの組織にも優秀な人間はいるものです。もしかすると、読者のみなさんの中には「大手の社員=優秀」「中小の社員=劣る」というイメージがあるかもしれませんが、そうでもないことがおわかりでしょうか。

「養成委託のお値段」はいくら?

最後に「養成委託のお値段」に触れておきます。

他社の教習所に養成を委託する際は、当然ですが委託料の支払いが必要です。いったい、いくら支払うのでしょうか?

残念ながら、これは私も知りません。会社によっても金額は異なるでしょうし。

ただ、正確な数字かどうかはわかりませんが、約100万円という話を聞いたことがあります。仮に100万円だったとして、これを高いとみるか安いとみるか?

中小鉄道会社が、仮に自社で勉強をすべて教える場合、教育担当者は数ヶ月間つきっきりになるはずです。その間、他の社員が勤務の穴埋めをしなければならないこともあると思います。中小は慢性的に人手が足りない会社もありますから、教育の手間や勤務の穴埋めにかかるコストを免れるのは大きい。

また、大手の教習所なら教育のノウハウも確立されているので、安心して預けることができます。

そのあたりをトータルで考えれば、100万円という金額は安いと思います。

いや、実際のところ正確な金額はわかりませんが、委託料が400~500万円ということはさすがにないでしょう。経営が苦しい中小が多い中、一人の社員にそれだけの費用をかけるのは難しい。そこまで高額になると、メリットよりもデメリットが上回りますから、自社で勉強させるはずです。

まあ、正確なところは謎ということで、今回の記事を終わります。


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