『運転士になるまで』シリーズの続きです。今回は、「実車試験はどのように行われるのか?」を説明します。
実車試験で何がどう行われるのかを知らないと、見習運転士は試験の対策や練習をしようがないですよね。あらかじめ、実車試験の内容を知っておかなければいけません。
- 学科講習
- 学科試験
- 実車講習
- 実車試験←ここの説明
一般の人には実車試験のイメージが湧かないはず
運転士になるためには、学科と実車の二つの試験をパスする必要があります。
学科試験というと、鉄道のことをよく知らない人でも、ある程度イメージが湧くと思います。鉄道に関するさまざまな科目を勉強して、ペーパーテストで合否を判定する。そんな想像をするでしょうが、それで正解です。
ところが、実車試験というと、これはイメージが湧かないでしょう。どういう形で試験を行い、何が採点の対象になるのか?
今日は、そのあたりを説明します。
実際に列車を運転する「運転」 車両基地で行う「地上」
まず大枠の話をすると、実車試験は運転と地上の二つがあります。
「運転試験」では、実際に列車を運転して、運転技能が基準を満たしているかどうかを判定します。
たとえば『電車でGO!!』だと、運転中のさまざまな操作や行為が採点対象になり、最後にトータルポイントが出ますよね。それと同じように、「運転」の試験でもいろいろな採点項目があり、最終的に合格点が取れればOKというわけ。
もう一つの「地上試験」ですが、これは車両基地で行います。
具体例を一つ挙げると、「車両の応急処置」という試験があります。基地に置いてある車両を一本使わせてもらい、そこが試験の舞台。試験官が車両のスイッチをいじって「疑似的な故障」を作り、見習運転士がそれを発見できるかどうか、発見後に適切な処置を講じて復旧させられるかを試験します。
まとめますと、実車試験には、
- 実際に列車を運転する「運転」
- 車両基地で行う「地上」
この二つがあります。
それが理解できればOKです。
で、「地上」の話は別記事でするとして、今回は「運転」の話をしましょう。
「運転」の試験では何が採点されるのか?
自動車免許の試験だと、教官(試験官)が助手席に乗って、公道を実際に運転しますよね。いろいろな採点項目があって、基準点以上が取れれば合格。
列車の運転の試験も同じです。
見習生は実際に列車を運転し、同乗する試験官が採点します。どんな項目が採点対象になるかですが、全部説明するのは大変なので、代表的なものだけ挙げておきます。
- 運転速度
- 信号喚呼
- 運転時分
- 停止位置
- 停車ブレーキ扱い
運転速度
まず、定められた運転速度を守って走ることが大前提です。
カーブや下り坂、分岐器(ポイント)には「制限速度」が付されていますが、それを遵守できているか。また、信号機に注意信号(黄玉●)などが灯されているとき、指定された速度以下で突入しているか。
なお、制限速度違反をやらかすと、一発でアウト(不合格)です。たとえば、制限速度60㎞/hのカーブを62㎞/hで走ったとか、信号機に警戒信号(黄玉2つ・制限25㎞/h)が出ているのに30㎞/hで突入したとかは、その時点で試験終了。
まあ、そんな間抜けを犯した話は、さすがに聞いたことないです(笑)
信号喚呼
もう一つ、ミスると即アウトなのが信号喚呼です。
信号喚呼とは、運転士が前方の信号機を指さして、何色の信号が出ているかを声出し確認すること。みなさんも一度くらい見たことあるでしょう。たとえば、「出発信号機に進行信号が灯っている」のを確認したら、運転士は「出発進行!」と言います。
「出発進行」と言うべきところ、「出発注意」や「場内進行」などと言い間違えると、そこで失格になります。もっとも、すぐに言い直せばセーフ。「出発ちんこ……もとい、出発進行!」という具合です。ようは、間違った状態のまま完了するとアウトということ。
また、言い間違いではなく、「そもそも信号喚呼を行うのを忘れる」のもアウトになります。
それから、「信号喚呼を行う位置」も採点対象です。極端な例ですが、信号機があと10mに迫ったところで喚呼しても、「遅ぇよ」という話になりますよね。あまりに不適切な位置での喚呼は、減点対象(これは失格ではない)です。
運転時分
列車には運転時刻が定められていますが、その時刻通りに運転できるか? も問われます。
運転士は運転中、目の前に業務用時刻表を掲出しています。↓の図みたいなものですが、見たことありませんか?
この例だと、A駅~B駅間は3分15秒で走ることになっていますね。この3分15秒を、A駅~B駅間における運転時分と呼びます。
試験では、A駅発車からB駅到着までの時間をストップウォッチで計り、3分15秒からズレた秒数によって減点します。イメージとしては、3分15秒から±x秒までは減点なし、それ以上はy秒ごとのズレにつきマイナス点が増えていく、という感じです。
停止位置
駅に停まるときは、「ホームのここに停めろ」という所定停止位置なるものがあります。 その所定停止位置から、どれくらいズレたかも採点対象です。
4mも5mもズレたら減点。
まともな運転士なら±1mくらいの範囲内に収めますけどね。
最近はホームドアの導入が進んでいますが、車両ドアとホームドアが合う位置に列車を停めないといけませんよね。しかし、ブレーキ操作はコンピューターによる自動制御(=TASCやATOというシステム)ではなく、手動で行うケースが少なくありません。
ホームドアを「後付け」した路線だと、TASCやATOを付けるのが難しいのです。時代が進んだにもかかわらず、運転士の腕前・技量が昔よりも問われるのですね。
停車ブレーキ扱い
停車ブレーキに関して言えば、正しい停止位置に停めるだけでなく、きれいなブレーキ操作も求められます。きれいなブレーキとは、図で示すと↓の通りです。
初めは強く、停止位置が近づくにつれて、だんだん弱く。これが理想です。逆に「汚いブレーキ」を示したのが↓の図。
ブレーキを強めたり弱めたりを繰り返していますが、これが汚いブレーキ。カックンカックンするんで、乗り心地が悪いのですね。
このように、ブレーキの弱め(緩め)操作をした後に、「やっべブレーキ弱めすぎたわ」とブレーキを再び強めると減点されます。これを「ブレーキの再投入・繰り返し」などと呼びます。
実車試験で不合格になる人はめったにいない
- 運転速度
- 信号喚呼
- 運転時分
- 停止位置
- 停車ブレーキ扱い
長い説明になりましたが、以上が「運転」の試験で採点される代表的な項目です。見習運転士は、ただ漠然と日々の乗務をこなすのではなく、これらの試験項目を意識しながら腕を磨くのです。
試験ではミスるごとに持ち点が減点されていき、フィニッシュの時点で基準点以上が残っていれば合格。
難易度ですが、合格基準はそれほど厳しいものではなく、不合格になる人はめったにいません。いわゆる「落とすための試験」ではないのですね。
……というより、不合格になるような人は、この段階までにふるい落とされている、と言ったほうが正確でしょう。合格する力のある人だけが、実車試験まで辿り着ける感じです。
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