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運転士になるまで(6) 学科講習中のメシについて語る

『運転士になるまでシリーズ』の続きです。今回は学科講習中のメシについて書きます。

鉄道会社によっては、約3ヶ月間の学科講習を、教習所の寮への泊まり込みで行う場合があります。ということは、朝・昼・晩の三度のメシは、教習所の食堂で食べるわけです。教習所のメシがどのようになっているかについて説明しますね。

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社員食堂は学校給食と同じ方式

社員食堂というと、みなさんはどういうイメージをするでしょうか? 入口の券売機で、自分が食べたいメニューの食券を買って食堂のオバチャンに渡し、できあがったら呼ばれて取りに行く。そんな感じでしょうか。

しかし、教習所の社員食堂はそういうスタイルではなく、全員が同じメニューです。学校給食の経験がある人は、それをイメージしてもらえばわかりやすいです。

運転士の学科講習は一クラス約30人と説明しましたが、教習所で研修を受けているのは、運転士候補生だけではありません。他にもいろいろな研修(たとえば車掌養成とか)が同時並行で行われています。

ようするに、メシの時間になると、教習所の全研修生+講師が一気に殺到するのです。こういう状況で、「いろいろなメニューがあって選べる方式」だと、まず捌けません。食事の提供をスムーズに行うために「全員が同じメニュー」なのです。

研修生たちは食堂の入口でお盆を持ち、アリの行列のように一列に並んで進んでいきます。そして、目の前に置かれたおかずの皿やご飯や汁物が盛られたお碗を拾いながら進んでいく、というスタイルです。やはり、学校給食をイメージしてもらえればよいと思います。

炭水化物は「量」が選べる

ただし、メニューを選ぶことはできませんが、ご飯やパンに関しては「量」を選ぶことができます。たとえば、ご飯ならば小盛りや大盛りのお碗も用意されている。ロールパンならば、標準が一皿2個のところ、1個や3個の皿も用意されている、といった具合です。

食堂のオバチャンは、どんどんお碗にご飯を盛り付けていき、研修生の列の前に並べていきます。その中に、一定の割合で小盛りや大盛りのものが混ざっています。こちらからオバチャンに「大盛りでお願いします」などと声をかけなくても、自分の好きな量のものを取ればOKです。

あれだけの数の人間が集まれば、小食の人もいますし、大食いの人もいます。そういう人たちへの配慮も一応されているのですね。

「いただきます」「ごちそうさまでした」の嵐

皿を取っていくときは、当然ながら礼儀として「いただきます」と言います。しかし、延々と続く行列の一人ひとりが、「いただきます」「いただきます「いただきます」……。食堂のオバチャンたちは、一回の食事のたびに、「いただきます」という言葉を優に100回以上は聞かされているはずです。

きっとオバチャンの頭の中では、「いただきます」がゲシュタルト崩壊しているのではないでしょうか。

食器を返却するときも同様。
研修生一人ひとりが「ごちそうさまでした」「ごちそうさまでした」「ごちそうさまでした」……。

ちなみに、食器を返却するときは、食べ残しや食器の流れを軽く洗い落としたうえで返却します。返却場所のそばに、常に水が出ている「流し台」みたいな設備があるので、そこで軽く洗うのです。

ショッピングモールのフードコートなんかだと、食べ残しがあろうが食器が汚れていようが、そのまま返却スペースに置いておけばいいですよね。しかし、教習所の食堂ではNGです。

町の定食屋みたいなメニュー

いよいよメニュー構成を紹介します。

  • ご飯またはパン
  • 汁物
  • 主菜
  • 副菜1~2品
  • デザート

具体的には、どのようなメニューが出てくるのでしょうか?

主菜は、昼・夜の場合はハンバーグや生姜焼き、焼き魚、フライに唐揚げ。朝食だと、ご飯の場合は魚の干物、パン食の場合はソーセージやハムエッグ。そんな感じです。

副菜は、ホウレンソウのおひたしやきんぴら、煮物、冷奴など。朝食では納豆が出たりもしました。

主菜・副菜とも、町の定食屋で出てくるようなものを思い浮かべてもらえば、だいたいOKです。

また、メニューには曜日パターンがありました。たとえば、火曜日と木曜日の朝はパン、という具合です。また、特定の曜日の昼食はカレーでした。

ちなみに、3ヶ月間で一度も出なかったメニューがあります。刺身です。客を満足させて売上を伸ばさねばならない街中の飲食店ならいざ知らず、社員食堂ですから、あえて衛生管理が難しいものに手を出す必要はないという判断なのでしょう。

それから、麺類もあまり出ませんでした。麺類は調理が大変ですからね。ご飯だったらお碗にどんどん盛り付けるだけでいいのですが。しかも味は、ちゃんとしたラーメン屋やうどん屋とは比べるべくもない。

そういうわけで、学科講習から解放される土日は、刺身やラーメンを食べて「はー、生き返ったー」と感じていたものです。

好き嫌いがある人はどうする?

さて、メニューが自分で選べないとなると、食べ物の好き嫌いが多い人は心配かもしれません。子どものときならいざ知らず、大人になっても好き嫌いで困っている人はそう多くないと思いますが、一応説明しておきます。

先ほど書いたとおり、食事は並んでいる皿を自分で取っていくスタイル。ということは、嫌いなメニューの場合は「皿を取らずにスルーすること」も物理的には可能です。

しかし、それは実質的に不可能ですね。

その場にいるのが自分だけならいざ知らず、目の前には食堂のオバチャンがいます。前後には他の研修生たちもおり、「いただきます」と声を出しながら、全員ちゃんと皿を取っていく。

そんな中で、自分だけ皿を取らないという選択肢を実行に移せるでしょうか。

ですから、嫌いなメニューがあったとしても、とりあえずは皿を取るしかありません。そして、一緒にテーブルに座った同僚に譲るなりするわけです。こういうときの“処理係”は、どこのクラスにも一人はいる大食漢が担当します。みなさんの周りにもいませんでしたか? 「食べないんなら俺にくれ!」という人(笑)

食費はすべて会社側が負担! タダ飯万歳

ところで、ここまで読んだ人の中には、こう疑問に思っている人がいるかもしれません。

「研修生は、一食あたりいくらの食費を支払うの?」

答えはタダ。
食費はすべて会社持ち。
研修生は、一円たりとも負担する必要がありません。

これは相当大きい節約になります。運転士の学科講習は、月~金の平日で行われて土日は休み、というパターン。仮に、食費が一日1,000円かかる人だったら、月~金の5日間で5,000円。学科講習は約3ヶ月間=約13週間ですから、5,000×13=65,000円。

これだけのカネが浮くのです。逆に言えば、それだけ会社側が大きな負担を背負っているわけ。

気になるお味は?

さて、肝心な話が最後になりました。気になるお味ですが、個人的な感想としては可もなく不可もなくでした。他のみんなの話を聞いていると、「美味しくない」「マズい」という意見が多数派で、「美味い!」と言っている人はほとんどいなかった。

先ほど説明したとおり、食費はすべて会社負担です。会社の立場からすれば、食費は「社員の能力向上に直接つながるコスト」ではありませんから、いくらでもカネをつぎ込むわけにはいきません。ですから、食材の質を上げるのはなかなか難しいかもしれないです。

また、やはり先ほども説明しましたが、メシ時には人が一斉に押し寄せます。そのため、どうしても作り置きをしておかなければ食堂が回りません。できたての美味しい状態で提供するのは難しいのでしょうね。

まあ、贅沢を言ってはバチが当たります。私は当時、一人暮らしをしていて、メシを作る大変さは身をもって理解していました。「黙っていてもメシが出てくる環境」は、それだけで天国に思えたのです。ですから、可もなく不可もなくの味でも、まったく不満はありませんでした。

メシは人間の力の源。
研修生が勉強に打ち込めるのも、三度三度のメシがちゃんと出てくるから。教習所の食堂のオバチャンたちは、鉄道会社をまさに縁の下から支えています。そんなオバチャンたちに、感謝の意を示したいと思います。あの時は本当にありがとうございました。

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