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新幹線貨物の第一歩か? 甘エビやウニを新幹線で高速輸送

2019(令和元)年6月、JR東日本のグループ会社・JR東日本スタートアップは、新幹線を活用した「鮮魚輸送」の実験を始めました。

新潟県佐渡島で獲れた甘エビを上越新幹線で、岩手県三陸産のウニを東北新幹線で、それぞれ旅客列車に「便乗」させて東京圏まで運び、販売するというもの。あ、甘エビというと、アイスランドやグリーンランドからの輸入品が多いですが、日本海でも獲れるんですよ。

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新幹線という高速輸送手段を使うことで、トラック輸送よりも早く東京圏に到着でき、鮮度が良いのが売りというわけですね。

北海道新幹線の活路は貨物輸送にあり

やはり注目は新幹線貨物でしょう。

新幹線は、東京から離れれば離れるほど採算が取れなくなります。たとえば、北海道新幹線は採算性が良くありません。「青函トンネルの高速化や車両の最高速度向上によって飛行機のシェアを奪い、採算性向上を目指す」という取り組みも行われています。

しかし、スピードアップによる時間短縮には限度がありますし、それで東京~北海道間の飛行機のシェアをごっそり奪えるわけでもないでしょう。そもそも、これからの時代は少子高齢化や人口減少によって、旅客数減・地方衰退は避けられません。ようするに、スピードアップにこだわっても費用対効果がどうなのか。

では、旅客輸送で採算が取れないのなら、貨物輸送で稼げる路線にシフトできないか?

北海道新幹線は一日の運行本数が少ないですから、貨物輸送を行える余地はじゅうぶんあります。北海道新幹線の活路は貨物輸送にあり、という意見は、私に限らず識者の間では以前からあるものです。

そういう意味で、今回の取り組み(北海道新幹線を管轄するJR北海道でなく、JR東日本の取り組みですが)がこのようにニュースになったのは、新幹線物流という認識を広めるためにも、大変意味があることですね。

今回の取り組みはあくまで実験であって、旅客列車の一角を間借りする形です。旅客が「主」、荷物が「従」。まだまだ「新幹線物流」と呼べるものではありません。

しかし、まずは小さな形でも取り組みを始めるのが大切でしょう。それがきっかけとなって議論が本格化すれば、事態が前進するからです。

新幹線貨物が「儲かる漁業」の一端を担ってほしい

今回の新幹線物流が漁業にどのような影響を与えるか、新潟県の甘エビの例で考えてみます。

東京圏では個体サイズが大きい北海道産の甘エビの流通量が多く、新潟産の甘エビは、どうしても競争力が弱いそうです。北海道産に勝つためにはどこかで差別化の必要がありますが、新幹線で流通のスピードアップを図ることができれば、「とれたて」を売りにでき、ブランド化も可能になります。

また、夏は海水温が高くなるため、獲った甘エビ(特に小型個体)の鮮度が落ちやすく、何らかの対策をとることが望ましいとのこと。新幹線での高速輸送は、この鮮度対策にもなりえます。

かつて新潟県の甘エビ漁は、7~8月にかけて禁漁期がありました。しかし、「IQ制度」というものを導入した地区については、禁漁期間を解除して7~8月にも漁をするようになりました。

もともと禁漁期間だったので、7~8月の甘エビの供給量は少ない。そこで漁をすることができるようになり、獲った甘エビを高値で売りさばけるようになったそうです。それに加えて、「新幹線物流」というブランド化ができれば、夏場の売値をさらに上げることができるかもしれません。

ようするに、新幹線貨物が漁業者の所得向上に一役買ってくれるのではないかと。

日本の漁業は、高齢化・後継者問題を抱えています。この問題を解決するためには、やる気のある若手を呼び込まなければなりません。しかし、「儲かる漁業」という魅力ある仕事でなければ、若手は参入しません。

今回の新幹線での鮮魚輸送の取り組みが、単に、消費者が新鮮なものを買うことができる・新幹線を有効活用できるという範囲にとどまるものでなく、衰退する日本の漁業を少しでも上向かせるきっかけになってほしいですね。

【漁業の話】IQ制度ってなに?

せっかく漁業の話が出たので、そっちの方にも触れておきましょう。鉄道の話とは無関係ですが、ぜひ読んでほしい内容です。

さきほどIQ制度という言葉が出てきましたが、これ、なんでしょうか? 初めて聞く人がほとんどではないでしょうか。

IQとは「個別割り当て」と呼ばれる制度です。漁業者一人ひとりに対して、「あなたの獲っていい上限量はこれだけ」とあらかじめ割り当てておくものです。

2011(平成23)年から、新潟県は甘エビを対象品目として、IQ制度の実験をしていました。日本で初めての試みです。

「早い者勝ち」の仕組みで日本の漁業は衰退した

現在の日本の漁業では、「漁業者一人あたりの漁獲上限量」が基本的に決められていません。別の言い方をすれば、「早い者勝ち・たくさん獲った者勝ち」という仕組みです。

早い者勝ち・たくさん獲った者勝ちですから、ボヤボヤしていたら他の漁業者に「自分の取り分」を持っていかれてしまいます。そのため、漁業者同士の過剰な競争を招きやすい。

競争に勝つためにはどうするか?
たとえば、船を大型化する。しかし、その過剰な設備投資がたたって資金繰りが苦しくなる……。
過剰な競争が乱獲につながり、資源の枯渇を招く……。
また、同じ時期に同じ魚が大量に獲られて市場に出荷されるので、供給過多で値崩れする……。

ようするに、漁業者からすれば骨折り損のくたびれもうけです。先進国のほとんどが漁業を発展させる中で、日本の漁業だけが衰退著しいのは、この仕組みが原因だと識者は指摘します。

IQ制度で現在の欠点を克服

そこで登場するのが、一人あたりの「取り分」をあらかじめ割り当てておくIQ制度。

一人あたりの取り分が決まっているので、競争することなく、慌てずに漁をすることができます。競争に勝つための過剰な設備投資もいらないので、漁のコスト削減になります。また、「供給過多による値崩れ」も起きず、売値の上昇 = 漁業者の所得向上にもつながります。

このIQ制度の実験を、新潟県が甘エビを対象として行なっていたことを私は知っていたので、今回の「新潟県 甘エビ」というキーワードに思わず反応してしまいました。日本の漁業の問題や、それを解決するためのIQ制度など、ぜひみなさんに知ってもらいたい内容だったので、鉄道とは無関係ですが紹介した次第です。

(2019/6/13)

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