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新幹線貨物は「宅配便輸送」から取り組むのが現実的

今回の記事は、新幹線貨物がテーマです。

新幹線を使った物流は、JR東日本で実験的に行われています。しかし、これは「旅客輸送のついで」「空きスペースの有効活用」という副業的な雰囲気が強い。

そうではなく、貨物だけを運べる専用車両を使っての輸送が、将来的には実現してほしいと思います。

「車内にパレット搭載式」の車両を使って宅配便が現実的

「貨物だけを運べる専用車両」と書きましたが、実現するとしたら、どのような形になるでしょうか?

在来線貨物のようにコンテナ丸出しだと、高速でのすれ違い時に危ないのは確実。ですから、車体内にコンテナを収容する形になるでしょう。たとえば、車両の屋根を開閉式にして、そこから車内にコンテナを積む感じ。

ただ、コンテナを積める形態の新幹線貨物をいきなり開発・導入するのは、ハードルが高いはず。まずは、車内にパレットを積める車両を開発(というか従来の車両を改造)し、宅配便輸送から取り組むのが現実的ではないでしょうか。

宅配便輸送から取り組むのが現実的な理由を、いくつか述べてみます。

理由① 「鉄道 × 宅配便」のコラボは前例が多い

理由①は、「鉄道 × 宅配便」のコラボ例がすでに多数あるということ。

鉄道会社が運送会社と提携して宅配便輸送を行う事業は、東京メトロ東武鉄道などで実験例があります(2016年)。荷物の積み下ろしは車両基地で行います。「都市部の渋滞への対抗策」というのが狙いだそうです。

もっとも、そのあと本格的に事業化されたかは知りませんが……。

JR北海道北越急行(新潟)でも、同様の取り組みが行われています。全体から見れば収益は微々たるものらしいですけど……。

こうした実例があり、データやノウハウの蓄積もあるはずなので、宅配便輸送は比較的手を付けやすい分野ではないかと思われます。ただ、取組例はいずれも「貨客混載」であって「貨物専用」ではないため、貨物専用車両を使う構想とは少し違いますが。

理由② 宅配便輸送の需要は安定している

理由②は、宅配便輸送の実績・需要が安定していること。

JR貨物でも、コロナの影響を受けて輸送量が減っています。ただ、そんな中で宅配便に代表される「積合せ貨物」というジャンルだけは、前年比でトントンまたはプラスになっている月が多いです。

ここ数年の推移を見ても、積合せ貨物の輸送量は右肩上がりで、2013年度は229万トンだったものが、2019年度は286万トンにまで伸びています。JR貨物の資料によると、積合せ貨物はトラックから鉄道へのモーダルシフトが進んでいるため、成績が好調なのだそうです。

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取扱い量を年々増やし、コロナでも勢いが衰えない

また、宅配便の取扱個数自体も、年々伸びています。ネット通販で買い物する人が増えた影響ですね。現場のドライバーの方々は大変な目に遭っているようですが……。

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先日ウチに来た宅配業者さんが「通販が本当に増えた」と言っていた

理由③ 「宅配便の需要」と「新幹線の運行可能時間」が合致する

理由③は、宅配便輸送は新幹線貨物と比較的マッチしやすいと思われること。

新幹線貨物の弱点を考察した前回の記事で、「新幹線は24~6時の保守時間帯は走れないので、夜間需要には応えにくい」と書きました。いっぽう、JR貨物によると、「昼間は宅配便輸送の需要が少しあるが、全体としては夜間需要が圧倒的」だそうです。

つまり、「新幹線貨物は夜中には走れない」と「宅配便輸送の需要は昼間にもある」を組み合わせれば、自然と「新幹線貨物は昼間に宅配便輸送を行う」という話になってきます。これは消極的な結論ですが……。

理由④ イタリアでは高速鉄道を走る宅配便列車が誕生!

理由④は、すでに高速鉄道を利用した宅配便輸送が海外に存在すること。

フランスでは、高速鉄道のTGVを利用した「ユーロ・カレックス」という貨物輸送プロジェクトが行われていました。そしてイタリアでは、2018年からメルシタリア・ファストという高速鉄道を走る貨物列車が登場しました!

メルシタリア・ファストで使用する車両は、旅客用車両をベースにして貨物用に改造したもの。車内にパレットを積み込み、宅配便などの荷物を運んでいるそうです。

ポイントは、車両を新規に設計・開発しているのではなく、既存車両(旅客用車両)の改造で済んでいるということ。

2020年から、東海道・山陽新幹線に新型車両N700Sが投入されたことは、みなさんご存知でしょう。そのあおり(?)を受けて、導入からまだ13年程度のN700に廃車が発生しました。新幹線の廃車は、「車両の寿命」ではなく「営業面の施策」という色合いが濃いので、まだまだ使える車両が廃車、なんてことが起きるのですね。

というわけで、今後も発生するであろう余剰のN700を、宅配便を積めるよう改造する案はどうでしょうか。これなら車両開発コストも抑えられるはずです。

諸々の事情から新幹線貨物は宅配便がもっとも現実的

長くなりましたが、まとめます。

  1. 「鉄道 × 宅配便」は前例が多い
  2. 宅配便輸送は需要が安定している
  3. 「昼間の宅配便需要」と「新幹線の運行可能時間」の組み合わせ
  4. 旅客用車両を改造しての高速鉄道宅配便が、すでに実在する

こうした諸々の事情から、新幹線貨物が実現するのであれば、まずは宅配便というのが妥当なセンのはずです。日本版メルシタリア・ファストとでもいえばよいでしょうか。

ただ、メルシタリア・ファストについては、業界誌とかを漁っても情報が出てこないので、細かい点まではわかりません。鉄道業界よりも、むしろ運送業界の守備範囲なのでしょうか? 詳しい情報をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください(^^)

さて、宅配便輸送からもう一歩先、在来線貨物のようにコンテナを積んで運ぶような新幹線貨物は、まだまだ実現が遠いと思われます。新幹線貨物の宅配便が実現し、データやノウハウが蓄積されてからでないと、話が始まらないでしょうね。

(2020/11/27)

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