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JR貨物・航空貨物にケンカを売る? JR東日本で検討中の新幹線物流

少し前になりますが、2020(令和2)年の大晦日に、以下のようなニュースがあったのをご存知でしょうか。

JR東日本は、新幹線を使った物流の本格化を検討中。
編成のうち1両だけを貨物専用とし、そこに段ボール箱400個程度を積めるように改造する構想。
また、将来的には、貨物専用車両の開発・導入も視野に入れているとのこと。


このニュースを読んだ妻の感想。

「アレだよねー、これってJR東日本がJR貨物にケンカ売ってるんだよね? JR貨物はシェアいっぱい取られちゃう?」

んなこたーねーべ(;´・ω・)
ていうかコレ、冷静に考えれば、とてもJR貨物にケンカを売れるレベルではないです。

 

新幹線物流で一日に運べる荷物の量は?


JR東日本で検討中の新幹線物流、報道によると、

① 編成のうち1両だけを貨物専用にし、段ボール400箱程度を積めるようにする
② 貨物専用車両を開発する


この二つの構想があるようですが、まずは①について考察します。
②は後述。

私の勝手な予想ですが、①の構想だと、列車一本あたりで運べる荷物の量は10トンくらいかと思います。

一口に段ボールといっても大きさがいろいろあるので、ひと箱にどれだけ荷物を詰め込めるかは、一概には言えません。
ただ、列車への積み込み作業は人力で行うでしょうから、化け物みたいにデカい段ボールでは無理。
スーパーで貰える使用済み段ボール箱とか、引っ越しで使う段ボール箱とか、せいぜいそれくらいのサイズでしょう。

これくらいの箱だと、ひと箱に30kg程度が上限かと思います。
想像してほしいのですが、段ボール箱の中に「10kgの米袋×3」を入れる。
これ、かなり重い段ボール荷物のはずです。

となると、一列車あたりの輸送量は30kg × 400箱 = 12トンくらいが上限。
で、この列車を一日に何本運転するかは不明ですが、仮に50本とします。
諸々の事情を勘案すると、一日100本はさすがに無理だと思います。

12トン × 50本 = 600トン

600トンを、新幹線物流で一日に運べる荷物の量と仮定しましょう。
全列車に荷物が満載(400箱)なんてことは現実ありえないので、だいぶ“盛った”数字ですが、ひとまずこれで話を進めます。

JR貨物が運ぶ荷物は一日約6万トン 新幹線物流とはケタ違い


で、ケンカ相手(?)と目されるJR貨物は、一日どれくらいの荷物を運んでいるのか?

約6万トンです。

2019年度の決算資料によると、JR貨物の年間の輸送トン数は約2950万トン。
この2950万トンから、石油やセメントなどを差し引いた、いわゆる「コンテナ輸送」は年間2077万トン。
これを350日という数字(=大型連休等での貨物列車運休を考慮)で割ると、一日あたり約6万トン。

JR貨物  6万トン
JR東日本 0.06万トン(600トン)

100倍の差があります。
つまり、JR東日本の新幹線物流が、仮にJR貨物の輸送シェアを奪ったとしても、それは1%程度にすぎません。
JR貨物からすれば、蚊に刺された程度にしか思わないはず。
ぶっちゃけ、JR貨物の業績にはほとんど影響ないでしょう。

というわけで、少なくとも「① 編成のうち1両だけを貨物専用にし、そこに段ボール400箱程度を積めるようにする」の構想だけでは、とてもJR貨物にケンカを売れないはずです。

ちなみに、そんなJR貨物も、国内の輸送シェアでは1%程度にすぎません。
検討されている新幹線物流は、それよりさらに規模が小さいはずですから、今回のJR東日本の構想を見て「物流革命だ!」などと騒ぐのは大袈裟ですね。

専用車両での輸送だとホームで積み下ろし作業は不可能


では、「②貨物専用車両を開発する」という構想なら、JR貨物にケンカを売れるのか?

まず前提として、新幹線車両に、JR貨物で使っているようなコンテナを載せることは難しいでしょう。
やるとしたら、車両の天井を開閉させて上部からコンテナを積み下ろしする方式でしょうが、そういう車両は機構が複雑になりますし、開発費用もかかります。

ですので、現実的には↓図のようなパレットを車内に積み込む方式になると思います。

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ヤマト運輸で使われているロールボックスパレット


このパレットを車両に積むわけですが、諸々の条件から考えると、1両に収納できるパレットは30~36個程度ではないかと思います。

上の図で示したパレットですが、500kgまで積載可能だそうです。
これを1両に36個積み、編成は10両と仮定します。

500kg × 36個 × 10両 = 180トン

一本の列車でこれだけの荷物を運べるとなれば、運転本数によっては、JR貨物にケンカを売れるかもしれません。

ただし、これだけの量の荷物を扱うとなると、もはやホームでの積み下ろし作業は難しくなります。
100個以上のパレットをホームで取り扱うと、利用客の妨げになるのは容易に想像がつきますね。
安全面の確保も大変です。
万が一、パレットが線路に転落でもしたらエラいことになりますし。

ですので、荷物の積み下ろしは車両基地で行うしかないはずですが、車両基地に出入りするための列車ダイヤを新たに設定する必要があります。
ダイヤに、そこまでの余裕があるかどうか。

ケンカを売る相手は航空貨物……でもない


さて、次の話です。

新幹線を使った荷物輸送は、「速達性には優れるが運賃は高い」となるはず。
つまり、在来線貨物やトラック輸送よりも、むしろ航空貨物に近い性質といえます。

となると、新幹線物流は、航空貨物と熾烈な争いを繰り広げるのでしょうか?

結論から言えば、新幹線物流と航空貨物は、まったく競合しません。
これは、航空貨物に関する輸送実績データを見れば、一発で納得できます。

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東北・北海道方面の路線が「羽田~新千歳」だけな点に注目


JR東日本が新幹線物流を行う区間は、東京 ⇔ 仙台・盛岡・新青森および東京 ⇔ 新潟だと想定されます。
しかし、航空貨物には、東京 ⇔ 青森や東京 ⇔ 新潟の輸送実績は皆無。
つまり、新幹線物流の区間と、航空貨物の区間は、まったく競合していないのです。

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11~20位を見ても、東京方面から北への路線は函館便のみ


逆に言うと、JR東日本が新幹線物流を行うであろう東京 ⇔ 仙台・盛岡・新青森および東京 ⇔ 新潟という区間には、航空貨物のような高速輸送が存在しません。
在来線貨物やトラックなどの「ゆっくり」した輸送手段しかないわけで、そこに「速い」新幹線物流を持ち込むのは、理に適っているといえます。

JR貨物や航空貨物とは違った独自の地位を築けるか


以上の話から、新幹線物流によって「JR貨物の立場がなくなる」や「航空貨物と競合する」といった予想は、あまり当てはまらないと思います。
つまり、シェアの切り崩しや競合、すなわちケンカを売るという話にはならないでしょう。

JR東日本の新幹線物流、実現にあたっての問題は多々あります。
が、もし構想が実現すれば、独自の地位を確立できる、おもしろい存在になりそうです。


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