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子どもの置き石で世間を騒がせた外房線脱線事故 調査報告書が発表される

2020(令和2)年5月、JR外房線で脱線事故が発生。
事故から約1ヶ月後、10歳の男児が「線路上に置き石をした」とのことで警察に捕まった。


この事件、覚えているでしょうか?
このたび、運輸安全委員会から、この脱線事故の調査報告書が発表されました。

 

報告書の内容 簡単なまとめ


報告書の内容をものすごく簡単にまとめると、以下のようになります。

・運転士の運転操作、問題なし(速度オーバー等はしていない)
・線路の状態、問題なし(整備基準値内)
・車両の状態、問題なし(整備基準値内)

以上のことから、線路・車両状態が脱線に関与したとは考えにくい。

・脱線が始まったと思われる位置の付近に、粉砕痕や石の破片があった

よって、置き石によって脱線した可能性が高い。


「線路や車両には異常なし。じゃあもう置き石しか原因はなさそうじゃん」という、一種の消去法で結論が出ています。

置き石が脱線にどの程度影響したかは検証しようがない


さて、この報告書を読んで、疑問に思う人がいるかもしれません。

10歳の男児がした置き石によって脱線したに決まっている。
なのに、「断定」ではなく、「可能性が高い」という表現にとどまっているのはなぜ?

そうですね。
常識的に考えれば、置き石が原因で脱線したに決まっています。
しかし、置き石は車輪で粉砕されて残っていませんから、石が何個置かれていたかや、どれくらいの大きさだったかは、わからない。
つまり、置き石が脱線にどの程度影響したかは、もはや検証しようがありません(=断定までは難しい)。

過去には、線路上に置かれていたU字溝のフタやコンクリートブロックで、列車が脱線する事故が起きています。
しかし、これらの事故は“ブツ”が現場に残っていたので、脱線との因果関係が検証しやすかった。
今回の外房線の事故は“ブツ”が消滅していますから、その点が大きな違いです。

損害賠償請求は楽勝……ではない! 意外に大変かも?


これは、損害賠償請求の難しさにも直結してくる話です。

損害賠償請求にあたっては、「男児が置いた石によって列車が脱線した」との証明を、JR東日本側が行わなければいけません。
しかし、今回の事故では“ブツ”が残っていないため、言い逃れの余地があるかもしれません。

たとえば、「確かに俺は置き石をしたけど、小さいやつを1個しか置いていない。あとはカラスが置いたかもしれないじゃん」とか。

そんな見え見えのウソついてんじゃねえ! と思うでしょうが、極めて理不尽なことに、このウソを突き崩す責任はJR側にあります。
ですので、加害者が捕まった直後、動転しているうちに事情を聴いて、書面なり音声なりで言質を取ってしまうのが法務テクニックらしいです。
まあ大企業のJR東日本ですから、そのへんの押さえはキッチリやってあると思いますが。

(損害賠償請求や法務テクニックについては、こちらの記事で読者さんに詳しいコメントを頂いたので、参考にしてください)

排障器で置き石を弾き飛ばすのは現実的には難しい


最後に、ちょっと話を変えて「再発防止」について。

事故調査のキモは再発防止です。
今回の報告書でも、再発防止策がいくつか挙げられていますが、その中の一つが↓です。

バラスト等の置き石を排除できるよう、車両のレール頭頂部に近い位置に、障害物排除装置を設置することを検討するのが望ましい

しかしこれ、現実的にはなかなか難しいです。
運輸安全委員会も、再発防止策なしで報告書を発表するわけにはいかないので、苦しいのを承知で書いているのだと思います。

ウチの会社でも、線路に置き石されることがあるのですが、ある時、

「排障器をレール面から2㎝くらいの高さに設定できないの? それなら、置き石がすり抜けずに弾き飛ばせる」

こういう話になったことがあります。
しかし、車両部門の回答は、

「2㎝はさすがに無理。ちょっとの振動で排障器とレールが接触しちゃう」

というものでした。
結局、排障器はレール面から10㎝くらいの高さのままで、これだとバラスト程度の置き石はすり抜けてしまって効果なしですね(^^;)
 


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