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銚子電鉄のコスト削減策 気動車に転換するのはどうか?

前回の記事では、経営難がなにかと話題になる銚子電鉄について書きました。

いろいろと副業で増収を図るのはよいけど、本業の鉄道を根本的にどうするのか? そうした問題提起をしました。

具体的には、より合理化して存続を図る方向になるでしょうが、以下のような方法は考えられないでしょうか?

銚子電鉄は電車を走らせているが、地方ローカル線みたいに気動車(ディーゼルカー)へ転換してコスト削減を図る

わりとポピュラーな発想で、「なんで実行しないの?」と疑問に思う人がいるかもしれません。そこで今回の記事では、「電車から気動車への転換はアリか?」について考えます。

電車を走らせるための設備にはカネが掛かる

列車本数が少なければ、費用対効果の面から、電車ではなく気動車(ディーゼルカー)を走らせるのが一般的です。というのも、電車は走らせるために大掛かりな設備が必要だからです。

電車に電気を供給するための変電所。
電車の頭上にある架線。
線路脇の電柱。
当然、これらをメンテするための人手や費用も必要です。

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設備が大規模ですから、初期投資や更新費用がかさみます。実際、銚子電鉄では2021年に変電所の更新費用として2億円が必要だそうですが、捻出に困っているとのこと。

列車本数の少ないローカル線が気動車なのは、電車では費用対効果が合わないからです。

2020年9月現在、銚子電鉄のダイヤは、ラッシュ時間帯が毎時2本、閑散時間帯は毎時1本。これくらいなら、電化設備をなくして気動車にした方がコスト面からも望ましいのでは?

……と考えるのが自然です。

気動車への転換は課題が多くて現実的ではないが……

電車から気動車への転換、言うのは簡単です。が、実際にはいろいろと課題(というか困難)があり、正直、現実的ではないと思います。

しかし、いきなり「無理じゃね?」とネガティブモードになるのもアレなので、今回の記事では気動車転換のメリットを説明しましょう。問題点は次回の記事で考察します。

メリット① 電力設備の負担から解放される

気動車でパッと思いつくメリットは、電力設備の負担から解放されることです。

先ほど、電車を走らせるには大掛かりな設備(=変電所・電柱・架線等)が必要と書きました。しかし、気動車に転換、つまり非電化路線ならばこうした負担からは解放されます。

また、銚子電鉄の安全報告書という書類を読むと、「架線支障により遅延や運休が発生」という事象がここ数年で目立ちます。原因まではわかりませんが(設備の不具合か、架線にビニールでも引っ掛かったか)、そもそも架線がない非電化路線には架線支障という事故がありませんから、そういう面でも有利かもしれません。

メリット② 線路に掛かる負荷を減らしてコスト削減

気動車のメリット②は、線路に掛かる負荷を減らせることです。

現在、銚子電鉄を走る電車は2両編成。【モーターを積んだ車両】+【モーターを積まない車両】という組み合わせ。

モーターを積んだ「電動車」が約32トン。
モーターなしの「付随車」が約26トン。
まあ、電車としては標準的な重さです。

ただし、田舎の第三セクター鉄道で使われる気動車だと、一両26トンくらいの車両もあります。こういう軽い気動車を導入し、1両で運転すれば、コスト削減につながります。

「なんで車両を軽くするとコスト減になるの?」と思うでしょうが、車両が軽いと線路に掛かる負荷が減るので、保守費用を削減できるのです。

実際、ネットで発見した昔の記事(千葉日報2009年11月6日)によると、現在の車両を導入する際、重量アップで従来よりも線路への負荷が増えるため、線路を強化する工事を行なったそうです。余計なコストが掛かったのですね。

重たい貨物列車が走る線路は傷みが激しい

以下の話は銚子電鉄から逸れますが、「車両の軽量化」と「線路(軌道)コスト削減」の関係について、もう少し述べておきます。

「車両が重いと線路への負荷が大きくなる」は、重た~い貨物列車で特に問題になります。保線の社員いわく、「貨物列車の走る線路と走らない線路、傷み具合はまったく違う」そうです。

この点が、JR貨物と第三セクター鉄道が揉める原因になったりします。

JR貨物の列車は、一部の三セク鉄道にも乗り入れています。軽い旅客列車が走るだけなら線路の痛みが少ないので、保守費用は少なくて済む。が、実際は重い貨物列車が線路を荒らす(?)ので、保守費用がかさんでしまう。これが三セク鉄道の財政上の重荷になるわけです。

建設コスト削減に失敗した台湾新幹線

もう一つ、車両と線路コストの関係についての話。以下は、『南の島の新幹線』という本で読んだ話です。

南の島の新幹線ー鉄道エンジニアの台湾技術協力奮戦記

南の島の新幹線ー鉄道エンジニアの台湾技術協力奮戦記

  • 作者:田中 宏昌
  • 発売日: 2018/02/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

突然ですが、みなさんは台湾新幹線をご存知でしょうか? ここは日本の車両(=東海道・山陽新幹線の700系)をベースにした車両が走っています。

この台湾新幹線、経営状況がよくありません。過大な建設コストが、財政を圧迫する原因の一つだとされています。

なぜ、建設コストが過大になったのか?

台湾が高速鉄道を導入する際、その受注合戦は、欧州システムと日本システム(つまり新幹線)の一騎打ちになりました。いったんは欧州システムに決まった……かに見えたのですが、日本システムが逆転勝利。

ところが、最初に欧州システムに決まりかけていたため、線路関係の設備は、欧州式の車両が走る前提でスペックが決まっていました。欧州式の車両は重いため、線路は頑丈に造る必要があります。

しかし、新幹線車両は欧州式の車両より軽いので、線路への負荷は小さい。ということは、そこまで頑丈な造りにしなくてよいわけです。

本の表現を借りると、「ウマ(=新幹線車両)が渡る橋なのに、ゾウ(=欧州式の車両)の荷重にも耐えられる設計」になっていたのだとか。

もちろん建設コストの無駄なので、日本側は、「もう少し簡素な造りで問題ないよ。コスト削減のために設計を見直したら?」と台湾側にアドバイス。ところが、「もう発注済なので」などの理由で受け入れられず、当初の設計通りで建設されました。

ようするにオーバースペックな線路を造ってしまったわけで、これが建設コスト増大の理由の一つとされています。著者いわく、「車両スペックを決める前に線路スペックを決めるのは話が逆」だそうです。

この話からも、車両と線路コストは密接に関係していることがわかります。

まとめ

話が逸れましたが、まとめます。気動車導入のメリットは以下の二つです。

  1. 電力設備の負担から解放される
  2. 軽い気動車ならば線路に掛かる負荷を減らせる

次回の記事では、気動車へ転換する際の問題点をたっぷりと挙げてみましょう。

続きの記事はこちら 銚子電鉄のコスト削減策 気動車に転換するのは難しい

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本記事の写真提供 ヤーコンさん

本記事内の写真は、『ボクの息子はもう子鉄じゃないかもしれない。』を運営するはてなブロガー・ヤーコンさんにいただきました。ありがとうございました(^^)

『ボクの息子はもう子鉄じゃないかもしれない。』は、鉄道旅やその周辺を紹介するブログで、「子どもが楽しめる視点」を多く取り入れている印象です。また、国連サミットで採択された「SDGs=持続可能な開発目標」と「鉄道」の組み合わせをブログのテーマにしているのも珍しいと思います。