現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

鉄道関係の記事が約470。鉄道好きや、鉄道業界に就職したい人は必見! ヒマ潰しにも最適

瀬戸大橋上で列車が立ち往生 救出まで5時間半かかった事象を考察

2024(令和6)年11月10日、瀬戸大橋線上で架線が切れて停電が起きた。快速マリンライナーのパンタグラフが破損し、橋の上で立ち往生。反対線路に救援列車を横付けし、乗客を救出した。

救援列車を横付けし、乗客を乗せ替えた後に、現場から離脱

今回の事件で焦点になっているのは、救出までに時間がかかったことです。実際、JR四国も「時間がかかりすぎた」と謝罪をし、救出に協力したJR西日本も、遅くなってしまったことは認めています。

こちらの記事によると、事件発生が7時37分、現場に救援列車が到着したのが12時59分。約5時間半かかりました。

うーん、5時間半かぁ
5時間半ねぇ
5時間半はなぁ……

まあ一つ言えるのは、夏じゃなくてよかったね、ということです。

今回は架線断線により停電が起き、列車内の空調が切れました。夏で同じシチュエーションだったら、冗談じゃなく死人が出かねないです。

もちろんその場合、空調が切れた車内にはとどまっていられないので、乗客を外に出して救援列車を待つでしょうが、それでも暑さにやられて相当ヤバい状況になるのは間違いないでしょう。

今回は「救援列車の横付け」がもっとも妥当な判断

さて、列車が立ち往生した場合、乗客を救出する方法はいろいろありますが、今回は瀬戸大橋の上で止まってしまいました。乗客を線路に降ろし、最寄駅まで歩かせるのは無理です。

そうなると、他の列車(救援列車)を現場に派遣するのが残された手です。

故障列車の前か後ろから救援列車を近づけ、連結して最寄駅まで移動させる(引っ張る or 押していく)方法があります。

ただ、これはけっこうメンドクサイですね。専門用語になるので理解できなくてけっこうですが、基本的には「伝令法」という手続きを発動させる必要があります。

この伝令法では、故障列車に救援列車を接近させるわけですが、ウッカリ衝突でもしたら大変なので、いろいろ慎重に取り扱わなければなりません。

というわけで、今回のように複線の場合に限りますが、反対線路に救援列車を横付けして、そこに乗客を移すのが一番手っ取り早いです。

反対線路に列車を横付けするだけなら、衝突うんぬんの心配はないので、メンドクサイ手続きは不要です。救援列車が現場まで行くときに、信号設備も通常通り使用できます。

実際、今回のケースだと、伝令法で救援列車を派遣して連結させ、故障列車を移動させるのは、ハードルが非常に高いですね。

当該線路は、架線が切れて停電しているため、電車を救援に向かわせることができません。架線いらずの気動車(ディーゼルカー)が必須ですが、使える車両が限定されてしまうのが痛い。

さらに、架線が切れたり故障車両のパンタグラフが壊れたりしており──ようは現場はグチャグチャなので──この状況で故障列車自体を移動させるのは、得策とは思えません。

というわけで、普通の指令なら状況を把握し次第、伝令法による救援策はスパッと捨てて、横付け案を採用するでしょう。同業者の目から見れば、これはそこまで難しい判断ではないと感じます。

救援方法の決定だけで2時間 なぜ時間がかかった?

ところが今回、「救援列車を横付けして乗客を移そう」と決定したのは、事故発生から2時間後だったそうです。

これはさすがにどうなんだ……と感じる人が多いでしょうから、私なりの見解を書いてみます。

このあたり、どういった背景があって決定に時間がかかったのか? 完全に個人的な予想ですが、以下の二点が懸念されて決定が遅れた可能性があります。

  • 救援列車を現場に近づけて本当に大丈夫か?
  • 故障列車から救援列車に乗客を安全に移せるのか?

現場では架線が切れていたわけですが、具体的にどういう状態になっているか──反対線路にまで影響は及んでいないか、つまり列車を走らせて本当に問題ないか? そのあたりの確認に、まず時間を要した可能性があります。

そしてもう一点。救援列車を横付けするところまでは大丈夫だとして、乗客を移さなければいけません。瀬戸大橋の上という、場所が場所なので、安全に乗客を移動させられるかは、しっかりとしたプランが求められます。

f:id:KYS:20220318212637p:plain

必要な道具は何か、その手配はキチンとつけられるのか。そういった検証までしていると、あっという間に時間が過ぎそうです。もし乗客を安全に移せないとなれば、得策ではないと先ほどは書きましたが、「救援列車の連結策」を採らざるを得なくなります。

とりあえず現場に行けば何とかなるさ、出たとこ勝負! とはいかないのが、今回の事象の難しさだと思います。

「リーダー不在体質」も時間がかかった原因では?

ただ、そのあたりを加味しても、救援方法の決定だけで2時間を要したのは、ちょっとかかりすぎじゃないかな……と個人的には感じました。

これまた私の推測ですが、個々の社員の能力不足というよりは、どうするかの決定を下して指揮を執る人がいなかったのではないでしょうか。

あ、ここで私が言っている「決定を下して指揮を執る人」とは、名目上のリーダーや上司、責任者ではなくて、「実質的な意味で現場を取り仕切れる能力を持った人」のことです。

これは私の指令員としての経験から言えるのですが、異常事態が起きたときに、「こうしよう」とバシッと決断して方向性を示してくれる人がいると、本当にスムーズに事が進みます。

もちろん、処理すべき課題があちこちに転がっていて、デコボコ道を進む難しさは存在しますが、それでもチームが一丸となって確実に前進します。

反対に、「誰が決めるの?」「いやいや俺じゃねーし」「うーん、どうしようかねぇ」状態になってしまうと、だいたい悲惨なことになります。止まったまま動かないだけならまだマシで、各々が勝手にバラバラの方向に進み始める危険すらあります。

実際、そういう事態に陥った経験が私もあります(^^;) もうね、チームがチームとして機能してないというか。事態が全然前に進んでくれなくて、それでいてトラブルの渦にはグルグル巻きこまれているので、頭がフラフラしてくるんですよ。

という話はともかくとして。

バシッと決める人がいたなら、さすがに決定だけで2時間は要しないはずです。個人的な経験とも照らし合わせると、今回のケースは「個々の能力不足」ではなく「リーダー不在体質」の方を強く疑います。

「想定外」だったため道具の準備に時間がかかったのでは?

もう少し事態を進めると、救援方法を決定してから、実際に救援列車が最寄駅(本州側の児島駅)を発車するまで、さらに約3時間を要しています。
(補足しておくと、救援列車を発車させる前に、現場の安全を確認するための「試運転」を兼ねた貨物列車を一本走らせている)

うーん、これもどうなんだ。先ほど用語を出しましたが、「伝令法」を施行するなら、多少時間がかかるのは理解できます。いや、伝令法でも3時間はかかりすぎですけどね。

しかし今回は伝令法をやっておらず、救援列車の発車自体は全然難しくありません。

これはおそらく、「橋」を用意するのに手間取ったのではないでしょうか。

今回、救援列車を横付けしたあと、車両間に金属の板で「橋」を渡し、乗客を移動させています。救援列車の発車準備は早々にできたけど、「橋」の調達や運搬、積み込みが遅れた。正直、それ以外に時間を要する理由が思い浮かびません。

今回のような事態をJR四国が想定していれば、「橋」の準備にそこまで手間取ることはなかったでしょう。ということは、JR四国にとって、今回の事態は想定外だった可能性が高いです。

今回は条件が良かった方だと思う 今後の改善を期待

部外者の勝手な想像ではありますが、思うところを書いてみました。

今回の事故は、朝~昼間・晴れ・熱中症の心配がない秋の季節・反対線路に列車を走らせることは可能……と、条件は良かった方だと思います。夜間や天候不良だったら、もっと時間がかかっていたのは間違いありません。

好条件で5時間半は、やはり改善の余地が大いにあるでしょう。

いや、橋の上で立ち往生という事態そのものが条件悪いやろ、と言われればそうかもしれませんが……。

隣接し列車を相互に行き来させる鉄道会社は、境界駅付近でトラブルが起きたときに備え、合同で訓練会を開催していることが多いです。JR四国とJR西日本(の岡山支社)も、たぶん定期的に合同訓練をやっているはずで、次回の訓練のネタはコレで決まりではないでしょうか。

関連記事

雪の影響で15本の列車が立ち往生したJR西日本の事象を考察


列車が駅間停車して立ち往生 避難誘導の際はどのような課題があるか?


→ 鉄道ニュース 記事一覧のページへ


⇒ トップページへ