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銚子電鉄のコスト削減策 気動車への転換が難しい理由とは?

前回の記事では、経営難がなにかと話題になる銚子電鉄について書きました。
「電車は設備を維持するのにカネがいるので、コスト削減のために気動車に転換するのはアリ?」という話でした。

電車をやめて気動車に転換。

言うのは簡単ですが、現実的には問題が多すぎて、かなり難しいです。
問題を解決できる見通しがなければ、国土交通省も「銚子電鉄は気動車に転換してもいいよ」と認めないはずです。

気動車への転換には、どのような問題があるのでしょうか?
ザッといえば、以下の三点です。

① 免許の問題
② 車両調達の問題
③ 設備やノウハウの問題

 

問題① 電車と気動車は免許が違う


初っ端から大きく立ちはだかるのが、免許の問題。

鉄道車両にはいろいろ種類があり、車両ごとに免許が違うのです。
これは自動車の世界と一緒で、たとえば普通乗用車とトラックでは、必要な免許は違いますよね。

現在、銚子電鉄の運転士が所有しているのは、電車を運転できる「電気車」という免許です。
気動車の免許区分は「内燃車」というもので、電車の免許では運転できません。

ということは、銚子電鉄が気動車を使う場合、運転士に新たに内燃車の免許を取らせる必要があります。

電気車の免許を持つ運転士に、新たに内燃車の免許を取らせて二刀流にする。
これ自体はJRなどで普通にあり、業界用語では「転換」と呼びます。
電気車の免許を取得して数年、次のステップアップとして気動車も運転できるよう、内燃車の免許を取って……という具合です。

転換については↓の記事で詳しく説明しています。

キーワード解説 運転士免許の「新規」「転換」とは?

内燃車免許取得の教育ノウハウがない


仮に、運転士が「内燃車の免許を取ります!」とヤル気になったとします。
しかし、銚子電鉄は電車オンリーの会社なので、社内には内燃車の免許を取得するためのノウハウがない(はずです)のが問題です。
ようするに、誰がどうやって運転士に教育するんだ? ということ。

気動車を運転する近隣の鉄道会社に、いろいろ教えてもらうしかなさそうです。

運転士を教育している間の代打要員は?


教育ノウハウの問題が解決したとしても、まだまだ困難はあります。
運転士を教育している間、誰が代わりに列車を運転するんだ? という話です。

まさか「社員教育のために当分は運休します」とはいきませんよね。

銚子電鉄社長の竹本氏は、なんと自ら電車の免許を取得して(!)、実際にときどき営業運転を行なっているそうです。
というわけで、いちおう代打要員が一人はいるわけです。

運転士一人をシフトから外し、その人を教育する。
一人への教育が完了したら、次の人への教育を行う。

うわあ、非効率……。
しかも、竹本氏の社長業に差し支えることは必至。
でも、やるならそれしかなさそうです。

問題② 車両をどこから調達する? 費用は?


気動車転換の問題②は、車両の調達について。

鉄道車両って一両あたり何円くらいするか、ご存知でしょうか?

いや、実際のところ、私も詳細な値段は知りません(^^;)
ただ、俗に「電車」のお値段は一両あたり約1億円といわれます。
そして気動車は、電車よりも高額になる傾向がある、と聞いたことがあります。

仮に新車を3両購入するなら、4億円くらい必要になるのでは……。

そんなカネはないはずですから、どこからか中古の気動車を安く購入するしかないでしょう。
銚子電鉄が現在使用している電車も、他社から中古で買ったものです。

しかし、電車に比べると、気動車の中古購入はハードルが高いかもしれません。
具体的には、中古車を売ってくれる会社が都合よく見つかるかどうか。

というのも、日本では電車が主流なので、気動車は絶対数が少ないのです。
たとえばですが、JR東日本が保有する車両は、電車が約10,500両に対して、気動車は約500両に過ぎません。
(2020年4月1日現在)

この数字を見るだけでも、中古気動車を探すのは大変そうだと予想できます。
探すのが大変ということは、調達コストが膨らんでしまうかもしれません。
それだけのカネが銚子電鉄にあるかどうか。

問題③ 気動車特有の設備やノウハウは?


気動車転換の問題③は、設備やノウハウの問題。

気動車に転換できれば、電車を走らせるための設備(変電所・架線・電柱等)は不要になります。
これによるコスト削減効果は少なくないはずです。

しかし世の中、そう一方的には都合よくいかないもの。

気動車には気動車なりの設備が必要です。
たとえば、ディーゼルカーは軽油を燃料として走りますが、そのためには燃料を補給するための設備がいります。
これを新しく作らなければいけません。

また、整備や検査のノウハウも、電車と気動車では異なりますから、それができる人材を確保しなければいけません。

余談 気動車を整備できる人材は減っている


余談ですが、JRでも気動車の保有数は減ってきているので、整備できる人材が少なくなっている、という話を聞いたことがあります。
たとえば、ディーゼルエンジンが故障したときに自社内で対応できず、メーカーにお願いするしかない、という具合です。

昔、JR貨物では、若手社員をコマツ(小松製作所)に出向させて技術を学ばせていたと聞いたことがありますが、今はどうなんでしょうか。

気動車への転換は難しいが現状でもジリ貧は免れない


長くなりましたが、まとめましょう。

① 免許の問題
② 車両調達の問題
③ 設備やノウハウの問題

以上のような問題があるので、電車を気動車に転換するのは非常に難しいです。
(おそらく、国土交通省も容易に認めてくれないはず)

しかし、難しいといえば、現状のまま路線を維持することも同じくらい難しいでしょう。

たとえば、銚子電鉄では2021(令和3)年に変電所の更新費用として2億円が必要だそうですが、これを気動車転換の費用に充てたほうがいいのでは? という考え方もアリといえばアリです。

このままではジリ貧は免れません。
どっちに転んでも難しいのなら、勝負をかける選択があってもいいと思います。


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