前回の記事では、コロナ禍の影響で東海道新幹線の利用客が85~90%減っている、とお伝えしました。そのうえで、「この状況が仮に1年間続いたら、JR東海は数千億円の赤字になるのでは?」と想定してみました。
さて、ネット上では、「今回の売上大幅ダウンの影響で、リニア中央新幹線の開業が遅れるのでは?」という意見がポツポツ見られます。というわけで、今回の記事では、コロナ禍による利益減が、現在建設中のリニアにどのような影響を与えるかを考えます。
リニア開業が遅れるとしたら建設資金の都合
現在、リニアの建設工事を巡って、JR東海と静岡県が揉めているのは、みなさんご存知でしょう。「すでに開業予定の2027(令和9)年には間に合わない」との声もありますよね。また、コロナによる緊急事態宣言を受けて、工事を請け負った建設会社の中には、工事をストップさせているところも出ています。
そういう状況なので、予定通りにはいかない雰囲気がすでに出まくりです。ただ、今回の記事で考えたいのは、コロナによる売上減の影響ですので、↑の件については考慮しないことにします。
さて、もしコロナの売上減のせいでリニア開業が遅れるとしたら、その原因は何でしょうか?
「建設資金の都合がつかない」ということだと思います。
東京(品川)~名古屋間の工事費用は、5.5兆円と試算されています。したがって、数千億という単位で赤字が出れば、建設資金の確保にも影響が出る。それは開業の遅れにつながるのでは? という見解です。
……あくまで私の勝手な予想ですが、東京~名古屋間の開業は、やはり遅れてしまうと考えます。名古屋~大阪間についても、計画の見直しが発生する可能性は高いと思います。さらに最悪の場合、今回の影響が尾を引いて、2050(令和32)年あたりにJR東海は倒産の危機に瀕するかもしれません。
リニア建設の資金計画をおおまかに解説!
なぜか?
それを説明する前に、リニアの建設資金に関する基礎知識を知っておいてほしいと思います。というわけで、ここからちょっと退屈かもしれませんが、頑張って読んでください(笑)
リニアの計画は、いまから約10年前、2010(平成22)年の時点では↓のようになっていました。
東京~名古屋を開業させた後、間髪入れずに大阪までの工事を始めるのは、財政的にキツい。ある程度の時間をおいて、会社の体力を回復(=長期債務を圧縮)させてから、大阪までの延伸工事を始める。これが2010(平成22)年時点での青写真でした。
しかし2016(平成28)年、状況が変わります。国(政府)はJR東海に対して、リニア建設の資金調達を援助するため、3兆円!の融資を実行しました。「財政投融資」という制度によるものです。
この融資の目的・意図を一言でいえば、「東京~大阪の全線開業を早めるため」です。
リニアの経済効果は、東京~大阪の全線が開通してこそ発揮されるもの。東京~名古屋の部分開業では、経済効果がじゅうぶんに出ない。だから早く大阪まで開業してもらいたい。8年間も体力回復期間をおかなくて済むよう、資金調達を援助する。
簡単に説明すると、こんな感じです。というわけで、3兆円の融資を得たJR東海は計画を前倒しにして、
こうなりました。
ちょっと話が脱線しますが、この融資、3兆円という金額に加えて、金利も1%以下とかなり低いです。ついでに言うと無担保。つまり借金のカタもない。
常識的な感覚ではありえない好条件で、まさに政府の繰り出したウルトラCです。「これはさすがにJR東海を優遇しすぎでは」と批判する声もたくさんありますが、この融資の是非については、ここでは触れません。興味がある人は、調べてみてください。
リニア施設は何円分くらい出来上がっている?
こうして建設資金の目途も経ち、いよいよリニア建設が本格的にスタートしたわけです。
ところで、リニア関連の設備は、現時点でどのくらい(=何円分くらい)出来上がっているのでしょうか?
作りかけの建物や施設は、決算書(貸借対照表)では建設仮勘定というお題目で計上されます。もちろん、作りかけの資産 = 建設仮勘定のすべてがリニア関連ではないでしょう。リニア以外の物も混ざっているはずです。ただ、大部分はリニア関連の物だと思ってよいでしょう。
この建設仮勘定という数字、2020年3月末時点での最新決算書によると、9,318億円だそうです。東京~名古屋間の工事費用5.5兆円という数字には、まだまだ程遠い。つまり、本格的な工事はこれからということですね。
なお、参考までに、作りかけの資産 = 建設仮勘定の数字を示しておきます。この数字の増え方を見ると、やはりリニア関係だと思いますね。
2016年3月 1,661億円
2017年3月 2,679億円
2018年3月 4,189億円
2019年3月 6,459億円
2020年3月 9,318億円
工事に備えてJR東海は「貯金」に励んできたはず
本格的な工事はこれから。ということは、カネがばんばん出ていくのもこれから、ということになります。
東京~名古屋の工事費用5.5兆円。融資(借金)で3兆円を賄えたとはいえ、残り2.5兆円はJR東海の自己資金です。大きな支払いに備えて、JR東海は現金をたくさん用意しておかなければいけません。
ではJR東海、どれくらいの現金を保有しているのか? ↓の数字は、JR東海が保有する現金・預金額の移り変わりを示したものです。
2016年3月 1,571億円
2017年3月 2,317億円
2018年3月 4,625億円
2019年3月 5,801億円
いやー、すごい現金の増え方ですね。この増やし方は、もちろん行き当たりばったりの結果ではなく、リニア工事に備えての意図的なものであるはずです。逆に言うと、これくらいの現金はキープしておかないと、リニア工事の支払いに支障が出るということなのでしょう。
現金が大きく減れば工事計画変更は不可避
ところが、今回のコロナによる売上減は、そのあたりの計算を全部狂わせてしまうはずです。会計の素人である私の勝手な計算ですが、仮に売上減が1年間続いた場合、JR東海が保有する現金は、2~3,000億円程度は目減りしてしまうのではないかと……。
ようするに、数年間頑張って貯めてきた分が全部パーになるわけです。
もしそうなったら、工事の支払いを含めた資金繰りが大きく狂うのは間違いないでしょう。当初の計画通りに工事を進め、建設会社に支払いをしていったら、会社の現金が枯渇して倒産、なんてことになりかねません。
会社の現金を枯渇させないためには、建設会社への支払いを無理のないレベルまで下げなければいけません。あるいは、しばらく工事を凍結させて、おとなしく会社の体力の回復を待つか。
いずれにしてもそれは、計画の変更を意味します。もちろん、開業が遅くなってしまう方向に、です。
まとめ
説明が長くなってしまいました(^^;) ようするに、コロナによる売上減で、リニア工事の支払いのために積み立ててきたカネが崩れてしまう。したがって、工事計画変更および開業延期の可能性が高いのではないか?
ただし、この予想は、コロナによる売上減が1年間続くという、だいぶ極端な仮定に基づいています。正直なところ、この騒動が1年間続くとはさすがに思えませんが……。ですので、今回の記事で書いた予想が、すべて的外れになる可能性の方が高いです(笑)
といっても、最初の方で書いたとおり、JR東海と静岡県の揉めごとや、緊急事態宣言で工事がストップしている現実があるので、予定通り開業できるかはすでに怪しい状態ですが……。
さて、今回の記事は「リニア開業前」の話でした。次回は、「リニア開業後」について考察します。
続きの記事はこちら リニア開業が遅れるとJR東海は倒産の危機に瀕する?