前回の記事では、「コロナ騒動による業績低迷で、鉄道会社は潰れたりしないの?」という考察をしました。
内容を簡単に振り返ると、
- 会社が潰れるか否かは「資金繰り」で決まる
- 「売上が即現金化」する鉄道会社は資金繰りに強い業種
- したがって鉄道会社が潰れる事態は考えにくい
こんな内容でした。
いわば、コロナ騒動と鉄道会社の会計を結びつけた記事ですね。
今回の記事では、コロナ騒動と鉄道の安全を結びつけた記事をお届けします。題して「コロナ騒動が鉄道の安全面を脅かす?」です。
鉄道の設備更新には莫大なカネが必要
鉄道会社は、安全確保のために、さまざまな設備やシステムを保有しています。
- レールや架線などの線路設備
- 信号機やATSなどの信号設備
こうした設備やシステムには、当然ながら寿命があるため、更新が必要になります。更新にはスケジュール管理や予算(カネ)が必要ですが、そのために更新計画を作ります。
鉄道の設備やシステムは、非常に大きなものです。したがって、時間的にいえば数年単位、金額的にいえば億単位というのが、設備更新では当たり前です。
まあ、設備更新について計画を立てて予算を確保するのは、鉄道会社に限らず、どの業種でも同じですよね。
設備更新は会社の資金繰りと一体で考えなければならない
設備更新の計画を立てる際には、会社の予算や資金繰りとの兼ね合いを考慮する必要があります。
というのも、いろいろな設備更新を同じ時期に集中させてしまうと、業者への支払いが一気に膨らんで、会社の現金・預金が枯渇してしまいます。そうなると、会社の資金繰りが苦しくなります。
設備更新の計画を「単に寿命が近いから」だけで決めるのではなく、会社の資金繰りとの兼ね合いも考えなければいけないのは、そういう理由です。
設備を更新する際は、「一括更新」が望ましいのは言うまでもありません。ただし、一括更新だと業者への支払額が大きくなるため、資金繰りに悪影響を与えることがあります。そのため、「数年単位で小分けに更新」することで、業者への支払いも小分けにし、資金繰りに悪影響を与えない方法も使われます。
【余談】技術系部署と経理は接点が多い
余談ですが……
設備更新を計画するのは、土木や電気などの技術系の部署。対して、会社の予算や資金繰りを担当するのは、経理部などの事務系の部署。というわけで、技術系の部署と経理って、仕事上での接点がけっこうあるんですよ。
ついでに言っておくと、技術系の部署はいろいろな資産を管理していますから、「決算時の棚卸し」でも経理との接点があります。
そういうわけで、鉄道会社に技術系での就職を考えている人は、会計の知識を多少は身に付けておいた方がいいかもしれません。
私のような、駅員→車掌→運転士というコースの「運輸系の現業職」は、経理との接点は全然ないです。せいぜい備品や消耗品の決済処理くらいのもんです。
設備更新が延期になると安全面に悪影響
話を戻しましょう。
「設備更新の計画」と「会社の資金繰り」が密接に関連していることは理解できたと思います。
で、ここで問題になってくるのが今回のコロナ騒動。
今回のコロナ騒動で、客足や売上はガタ落ちになっているので、鉄道会社の資金繰りにも影響が出るでしょう。そのため、設備更新の計画も立て直さなければならない、というケースが出てくる可能性があります。
平たく言えば、「近々更新する予定だった○○だけど、カネの都合がつかなくなったから延期ね」というわけです。
設備更新とは、寿命が迫っていて必要だからこそ行われるもの。それを先延ばしにするのは、鉄道の安全・安定輸送を脅かすものです。
しかし、そうは言ったところで、ない袖は振れない……。
コロナ騒動、もしかすると我々の予想以上に長引き、鉄道会社の財政面に大打撃を与えるかもしれません。その場合、これからの数年で「線路設備の老朽化が原因で列車が脱線」とか「信号機故障により運転を見合わせ・ダイヤ大混乱」という事例が増えるかもしれないのです。
「カネがなければ鉄道の安全は保てない」
「カネの切れ目が安全の切れ目」
これが私の持論なのですが、コロナによる業績低迷で、こうした言葉が現実味を帯びてくるかもしれません。そうならないよう、一刻も早くコロナ騒動が終息してほしいものです。