現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

鉄道関係の記事が約460。鉄道好きや、鉄道業界に就職したい人は必見! ヒマ潰しにも最適

近年登場した「電気式気動車」 従来の「液体式気動車」と比べて優れている点は?

今回のテーマは気動車(ディーゼルカー)です。

日本の幹線では、線路の上に架線を張り、そこからパンタグラフで電気を受け取って走行する「電車」が一般的です。対して、田舎のローカル線では、ディーゼルエンジンを搭載して走行する「気動車」が多いです。

ブオオォォと唸りを上げ、煙を吐きながら走行する気動車。エンジンを使って走行するという点では、自動車と同じですね。

近年の新造気動車 従来の「液体式」から「電気式」へ

この気動車ですが、従来から液体式という仕組みが一般的でした。たとえば、国鉄時代に開発されて全国で使われた代表的な気動車・キハ40形も「液体式気動車」です。

f:id:KYS:20210823232239p:plain

キハ40形

しかし近年、新造される気動車は電気式というタイプが増えてきました。最近投入されたJR東日本のGV-E400系や、JR北海道のH100形は「電気式気動車」です。

f:id:KYS:20210823232405p:plain

GV-E400系

新造気動車に、従来からの「液体式」ではなく「電気式」を採用する。それはつまり、「電気式」の方がいろいろメリットがあるということですね。

技術の進歩によって「電気式気動車」を実用化できるようになったのですが、それでは「電気式」のメリットとは何でしょうか?

気動車の動力系システムを解説!

いきなり「電気式のメリットは○○だ!」と説明してもワケわからんと思うので、まずは基礎知識。気動車の仕組みを説明しましょう。鉄道に詳しくない人にも理解できるよう、細かい部分の説明は省きました。

液体式気動車の仕組み

まず、昔からある「液体式気動車」ですが、動力系のシステムは↓図のとおり。

f:id:KYS:20210819044337p:plain

「液体式気動車」の床下機器イメージ図

ディーゼルエンジンで発生させた運動エネルギーを、液体変速機 推進軸 減速機 → 車輪……という順で伝達していきます。これによって車輪が回転し、車両が走ります。

「液体変速機? 推進軸? 減速機? なにそれ?」という人、深く考えなくていいです。そういうモノがあるんだと、ひとまず割り切ってください。なお、エネルギーの変換過程を示すと↓図のようになります。

f:id:KYS:20210819044650p:plain

電気式気動車の仕組み

対して、近年導入が進んでいる「電気式気動車」の動力系は↓図のとおり。

f:id:KYS:20210819045009p:plain

「電気式気動車」の床下機器イメージ図

まず、ディーゼルエンジン発電機を回します。そこで生み出した電気を使ってモーターを動かし、車輪を回転させます。「電気を使ってモーターを回転させ車両を走らせる」という点では、電車とまったく同じですね。

電気式気動車のエネルギーの変換過程は、↓図のようになっています。

f:id:KYS:20210819045102p:plain

  • エンジンとは、熱エネルギーを運動エネルギーへ変える機関
  • 発電機とは、運動エネルギーを電気エネルギーへ変える機関
  • モーターとは、電気エネルギーを運動エネルギーへ変える機関

電気式のメリット コスト削減効果や機器の扱いやすさ

はい、ここで電気式気動車のメリットがひとつ出てきました。

先ほど、「電気を使ってモーターを回転させ車両を走らせるという点では、電車とまったく同じ」と書きましたが、これこそがメリット。ようするに、電気式気動車には「電車」と同じ部品が使えるのです。

「電車」と「気動車」で部品を共通化できれば調達コストが下がりますし、予備部品も確保しやすくなります。また、部品が共通だと検査や修繕も楽になるので、メンテナンスコストも下がります。

他にもメリットはあります。

液体式気動車で使われる液体変速機や推進軸は、運転中は高速回転します。そういう高速回転する機器は、もし異常が発生した場合に安全上あまりよろしくありません。また、減速機などは部品数が多くてメンテナンスも大変だそうです。

それに比べると、電気式気動車で使われる機器の方が、総体的にはシンプルで扱いやすいのです。

このように、各種コストや機器の扱いやすさなどをトータルで比べると、「電気式」に優れている点が多いのですね。こうしたメリットを勘案して、最近の新造気動車は「液体式」から「電気式」にシフトしているのです。もちろん、それができるのは技術の進歩が背景にあります。

気動車の変化は非電化構想を推し進めると思われる

いろいろ説明してきましたが、簡単にまとめれば、気動車を運用する際のコストや手間が、昔よりも軽減できるようになったということです。

ところで、2021(令和3)年8月、JR東日本が「磐越西線・会津若松~喜多方間を非電化する」との構想を発表しました。

現在、磐越西線は「気動車」と「電車」の両方を使って運行されています。電車が走れるということは、つまり架線設備が存在するのですが、会津若松~喜多方間は架線設備を撤去してしまい、そこの区間は使用車両を気動車に統一しようというもの。言うまでもなく、これは業務の効率化やコスト削減のためです。

こういう構想を打ち出せるのも、気動車運用のコストや手間が軽減できるようになったことが背景にあります。今後も、磐越西線のような非電化構想が出てくるでしょう。

関連記事

銚子電鉄のコスト削減策 気動車に転換するのはどうか?


銚子電鉄 気動車への転換が難しい理由とは?


→ 鉄道の豆知識や雑学 記事一覧のページへ


⇒ トップページへ

本記事の写真提供 tomoさん

本記事内のキハ40形とGV-E400系の写真は、はてなブロガー・tomoさんが運営する『乗り物好きによる旅行ブログ』から拝借しました。写真使用の許可をいただき、ありがとうございました(^^)

『乗り物好きによる旅行ブログ』は、鉄道旅だけではなく、飛行機旅も取り上げているのが特徴です。記事のボリュームもちょうどよい感じで、文章もサクサク読めます。個人的には「宿泊記」のジャンルの記事が好きですね。ブックマも複数しています。