みなさんは、2019(令和元)年9月に発生した京急の脱線事故をご存知でしょうか? 踏切内に進入したトラックに列車が衝突 → 脱線した大事故です。
この事故は、トラックが適切に踏切を横断できなかったことが一因です。つまり、踏切事故を防ぐには、鉄道会社側だけではなく、踏切利用者である国民全体の理解や協力も必要なのです。
今回は、踏切の安全に関する話を書いてみます。テーマは第4種踏切道の廃止です。
【基礎知識】第4種踏切道ってなに?
踏切というと、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか? 列車が接近すると警報機がカンカン鳴って赤色灯が点滅し、遮断機が降下する。そんな感じだと思います。
しかし、実は世の中には、警報機や遮断機がない踏切も存在します。↓の表をご覧ください。
警報機・遮断機の有無によって、踏切は三種類に分類できます。この中で、第4種踏切道というやつには警報機・遮断機がありません。
警報機も遮断機もない第4種踏切は、事故の危険性が高いです。実際、列車の接近に気付かずに踏切に進入し、列車と衝突して亡くなる事故は少なくありません。
第4種踏切ですが、都会にはほぼ存在せず、だいたいはローカル線にあります。第4種踏切というものを知らない都会の子どもが、田舎のじーちゃん・ばーちゃん家に遊びに行ったときに、事故に遭う可能性もあります。
お子さんがいらっしゃる方は、「警報機や遮断機がない踏切もあるんだよ」と教育してあげてください。
そういう交通安全教育が、鉄道安全対策の一つであり、記事冒頭で書いた「踏切利用者である国民全体の理解や協力」につながります。
第4種踏切は「廃止」か「第1種への昇格」をするべきだが……
さて、次の話です。事故の危険性が高い第4種踏切は、以下のどちらかの措置が望ましいです。
- 踏切自体を廃止する
- 警報機と遮断機を設置し、第1種に昇格させる
こういう措置をした方が安全上望ましいのは、異論ないですよね。
ところが、安全のためには良いと誰もが理解しているにもかかわらず、いざ実行しようとすると、話はそう簡単に進みません。具体的には、住民の反対で頓挫するケースがあります。
踏切を廃止すると不便になるので住民の反対が多い
なぜ住民が反対するのか? まず、「① 踏切自体を廃止する」について。
住民からすれば、踏切が廃止されると、線路を渡る際に遠回りを強いられる不便が生じます。それを嫌って踏切廃止に反対するわけです。
私も、よく通る踏切(第1種)がありますが、そこが廃止されたら、買い物に行くときなどにクソ不便になって困りますね。同様に、読者のみなさんにも「廃止されたら困る踏切」があるでしょう。
第1種への昇格は警報機の騒音や鉄道会社側の都合で大変
踏切の廃止が嫌なら、「② 警報機と遮断機を設置し、第1種に昇格させる」はどうか?
実はこれも、住民の反対を喰らうケースがあります。簡単に言えば、「警報機のカンカン音がうるさいから」です。
前述のように、第4種踏切の多くはローカル線、もっと言えば田舎に存在します。都会と違って基本的に静かなので、カンカン音が余計にうるさく感じるのでしょう。だから警報機の設置はヤダ、という理屈です。
また、これは鉄道会社側の事情ですが、第1種踏切に昇格させるとなると、警報機・遮断機だけではなく、それを動作させるための信号回路も新設する必要があります。私は技術系の人間ではないので詳しくは知りませんが、優に1,000万円以上かかると聞いたことがあります。
中小の鉄道会社だと、この負担がバカになりません。また、いったん設置した以上は継続的に保守せねばならず、手間や費用が大変です。
人が亡くならないと事態が動かないケースも多い
……という感じで、第4種踏切の対策は簡単ではないのが現実。地元住民と鉄道会社、はたまた市や県などの道路管理者が集まって協議しても、合意形成できないケースが少なくないようです。で、結果的には協議が長引き、なんやかんやで有耶無耶になると。
こうした膠着状態は、どうすれば動いてくれるのか?
これはイヤな話ですが、膠着した事態が動くのは、人が死んだときです。第4種踏切で事故が起き、人が亡くなると、「こりゃーさすがにマズい」となって話が進むわけです。
しかし、膠着した事態を動かすために、誰かを“人柱”に捧げるなんてマネはできませんよね。となると、第4種踏切を利用する人は、結局のところ自衛するしか方法がないわけです。
こういう状況がよろしくないのは言うまでもありませんが、残念ながらメスを入れにくいのが現実です。
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