みなさんは、「コンテナを積まずに、貨車だけ引っ張っている貨物列車」を見たことがありますか? 別の言い方をすると、空の貨物列車。
そもそも貨物列車とは、モノを運ぶために運転される列車。それが荷物空っぽの状態で走っている……。不思議に思いませんか?
「貨車の回送」というものが存在する
簡単に言えば、「空」列車は貨車を回送するためのものです。
貨物列車は、出発地に機関車 + 貨車が揃っていなければ荷物を運べませんから、必要な場所に向けて機関車や貨車を移動させることが必要になる場合があります。
年末年始やお盆、ゴールデンウィークなどの大型連休には、大部分の貨物列車が運休になるのですが、連休明けの動き出しに備えて「空」列車で貨車を回送することがあります。「空」の貨物列車の撮影を狙うなら(そんな人いないと思いますが)、連休明け前日~当日がよいでしょう。
「空」列車は軽いのでブレーキがよく効く
さて、JR貨物の運転士経験者によると、この「空」列車、運転の勝手がかなり違うそうです。
勝手が違う部分その1。
「空」列車は軽いので、ブレーキがめちゃくちゃ効く。
そもそも貨物列車のブレーキには、単弁と自弁の2種類があることをご存知でしょうか?
貨物列車は、機関車 + 貨車という構成です。「機関車のみ」がブレーキを掛ける単弁。「機関車 + 貨車の編成全体」に効かす(=つまり貨車もブレーキを掛ける)自弁。
貨物列車は、この2種類のブレーキを備えています。
貨車をくっつけて引っ張るときは、当然ですが、自弁つまり編成全体に効かすブレーキを使います。重い荷物を載せた貨車が後ろから惰性で押してくるので、機関車のブレーキ力だけでは、当然止まれませんよね。
しかし、荷物なしの「空」列車だと編成全体が軽いので、単弁つまり機関車の単独ブレーキだけで止まれてしまうくらいなのだそうです。
軽い「空」列車は下り坂で勢いがつかない
勝手が違う部分その2。
「空」列車は軽いので、下り坂で勢いがつかない。
貨物列車は、普段は重い荷物を後ろにくっつけていますから、下り坂の惰行でよく転がっていきます。しかし、「空」列車は後方から押されないため、なかなか勢いがつかないそうです。
勢いがつかないままチンタラ走っていたら遅延してしまうので、加速(クルマでいえばアクセルを踏む)しますよね。しかし、加速の加減を間違えると、今度は下り坂の勢いがつきすぎてブレーキを使う羽目になる。下手な運転士だと、そういうことがあるそうです。
……ということからもわかるように、貨物列車の運転は“職人芸”に頼るところが多々あります。
いろいろな鉄道会社で自動運転の研究が進んでおり、将来は運転士の仕事はなくなると言われていますが、貨物列車の自動運転化は最後でしょうね。「俺は自分の手で列車を運転し続けたいんじゃあ」という人は、JR貨物で運転士を目指すのも一つの手かもしれません。
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本記事の写真提供 marunkunさん
本記事内の写真は、はてなブロガー・marunkunさんが運営する『マルーンの部屋』から拝借しました。写真使用の許可をいただき、ありがとうございました(^^)
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