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上手い運転士と下手な運転士の差は「惰行」の使い方にある

およそ世の中の乗り物というものは、加速と減速という行為を繰り返して目的地へ向かいます。みなさんが普段使うクルマしかり、私の仕事である鉄道しかり。

ただ、クルマと鉄道とでは運転に大きな違いが一つあります。クルマの世界では馴染みが薄いけれど、鉄道では普通に出てくる概念。それが惰行(だこう)というものです。

惰行とは、加速操作または減速操作なしに、惰性に任せて車両を走らせること。

……などと書くと難しいですね。自転車でいえば、ある程度スピードがついたら漕ぐ足を止めてもシャーッと進み続けるじゃないですか。漕ぐ(加速操作)またはブレーキ(減速操作)を行わず、勢いに任せて走行する。あれが惰行です。

クルマでは難しい惰行運転 鉄道では比較的容易

この惰行ですが、クルマで行うのはなかなか大変です。

  • 摩擦の大きいゴムタイヤ
  • 鉄道に比べたら凸凹して抵抗の大きい道路
  • エンジンブレーキ

スピードの落ちやすい要素が多々あり、アクセルから足を放して惰行すると、あっという間に速度が落ちます。

クルマの運転において、惰行している時間は、あまりないでしょう。加速・減速という二つの行為が、運転時間の大部分を占めるはずです。

クルマに比べると、鉄道は格段に惰行がしやすいです。鉄の車輪・レールという、摩擦の少ない組み合わせを使っているため、スピードが落ちにくく、惰行で「流して」シャーッと進み続けることが可能。スケートみたいなもんですね。

惰行の割合を多くしつつ定時で走るのが上手な運転士

上手な運転士は、この惰行を最大限活用して走ります。駅を発車して加速 → 惰行 → 次の駅に停まるために減速。惰行で走るのがもっともエコ(節電)であり、機器への負担も少ないスマートな運転です。

惰行では、加速操作も減速操作もしないので、運転士の手は基本的に動きません(時刻表や信号機の確認行為は除く)。運転室の後ろで眺めていて、運転士がハンドルやレバーをあまりガチャガチャいじっていなければ、上手い運転士である可能性が高い。

逆に、加速 → 加速終了 → すぐブレーキ……みたいに、やたらハンドルやレバーを操作している運転士は、下手と思っていいです。そういうのは無駄が多いと言えるので。

(※ケースバイケースではあります。特急なんかだと「持ち時間」がギリギリの場合もあり、際どいラインを攻めるために加減速を細かく行わなければいけないことも)

いや、上手・下手の基準は人それぞれなので、私の考えだけで断言してしまうのは良くないです。ただ、加減速の操作をなるべく少なくし、惰行の割合を増やす。それでいて時刻表通りに走れるのが上手な運転操作だという意見は、かなりの割合で同業者に賛成してもらえると思います。

下り坂を上手く使うと惰行で長距離を走れる 関ヶ原のケース

重たい貨物列車などは、下り坂の勢いを上手く使うと、けっこうな距離を惰行で走り続けることができるそうです。

東海道線の難所に、岐阜県の関ヶ原があります。ようするに「山越え」ですが、勾配がきつく、貨物列車泣かせの場所。ただ、登っていくということは、逆に下り坂もあるわけで。

東京方面から関ヶ原を登って下り坂に転じ、滋賀県の米原へ向かう道のり。関ヶ原から米原まで20㎞以上あるのですが、下り坂を上手に使える運転士だと、ほとんど加速操作をせず、惰行で米原~彦根あたりまで到達できてしまうと聞いたことがあります。

と書いても読者のみなさんはピンとこないでしょうが、加速操作なし・惰行で20㎞以上も走るのは、私のような旅客列車の運転士からすれば、ホントかよ! という感じです。

なお、下手な運転士だと、次のような悪循環になります。下り坂を恐れてブレーキを掛けすぎる → スピードが足りなくなるので仕方なく加速 → 勢いがつきすぎてしまってまたブレーキが必要に。手元が忙しいですな。

新幹線では惰行の概念が薄い マスコンから手を放しても加速が可能

というわけで、鉄道の惰行に関する考え方や雑学を書いてきました。

ただし、以上は在来線での話で、新幹線になると、実は惰行という概念が薄いようです。それは運転台の機器にも現れています。

運転台には、加速操作のためのレバー(専門用語ではマスコンと呼ぶ)があります。↓のタイプでは、レバーを手前に引くと加速できます。

マスコン。クルマでいうアクセル。写真ではニュートラル位置となっており、アクセルが踏まれていない状態に相当

在来線車両では、マスコン操作中に手を放すと、バネ復帰みたいな感じで、ニュートラル(切)位置まで勝手に戻るのが一般的。クルマのアクセルペダルと同じです。踏む足を離すと、元の位置に戻りますよね。

したがって、列車を加速し続ける場合は、ずっとマスコンを握り(引き)続けなければいけません。

これが新幹線車両だと、手を放してもマスコンはその位置に留まります。マスコンが自動でニュートラル位置に戻らない仕様なのです。つまり、「加速 → 惰行」があまり想定されていないわけ。

私は新幹線の人間ではないので、そのへんの理由は推測になりますが、空気抵抗や速達の必要性が背景ではないでしょうか。

空気抵抗は「速度の2乗」に比例します。速度が2倍になれば空気抵抗は4倍になります。90㎞/hの在来線と、270㎞/hの新幹線では、空気抵抗が9倍も違うわけです(速度3倍 → 空気抵抗9倍。車両形状の違いを無視した単純計算)。

ようは、新幹線は空気抵抗が非常に大きい。

そして、新幹線は目的地までの速達が至上命題なので、最高速度を維持することが必要。空気抵抗によるスピードダウンを打ち消すために、加速し続けないといけない → マスコンから手を放しても加速を続けられる仕様になっているのではないでしょうか。

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