今回の記事は、線路のマクラギに関する雑学です。
あまり鉄道に詳しくない人でも、さすがにマクラギは知ってますよね。二本のレールの下に敷き並べているアレです。
現代のマクラギは木を使うことは少ない
マクラギを漢字で書くと「枕木」。
つまり、マクラギの素材は木なのです。
……というのは昔の話。
現在では、マクラギの素材として木材を使うことはあまりなく、コンクリートを使うことが一般的。PCマクラギという単語を知っている人も多いでしょうが、あれもコンクリート製マクラギの一種です。
もちろん、木のマクラギが絶滅したわけではありません。田舎のローカル線とかでは、まだまだ利用されています。
また、都市部の路線でも、場所によっては木のマクラギが残っています。車両基地内のように、あまりスピードを出さないとか、列車の通過本数が少ないとか、ようするに高負荷が掛からない場所にです。
木のマクラギには何の木材が使われている?
今回の記事では、少数派となった木製のマクラギに焦点を当てます。
突然ですが、木のマクラギって、何の木材が使われているか知ってます? もちろん、使われている木材は一種類だけではありませんが、ここでは代表的な木材を一つ紹介します。
栗です。
栗の木は、マクラギの主材料の一つなのです。
へぇー何か意外だな、と感じませんか? 栗というと食べ物のイメージが強く、木材のイメージはあまりないですよね。しかし、実は栗は優れた木材。「食べてよし、建ててよし」の便利な植物です。
栗は「腐食」と「虫害」に強く耐久性にも優れる
なぜ、マクラギに栗という木材が用いられるのか? その謎を解くため、私は図書館で木材の本を読んできました(笑)
簡単に説明すると、木材の天敵は「腐食」「虫害」ですが、栗はこの二つに強いからです。
365日野ざらしにされるマクラギは、腐食(腐朽)しにくいものでなければなりません。この点、栗は腐食しにくい木材なのだとか。虫害についても、苦み成分であるタンニンが含まれているため、虫が寄り付きにくい。つまり、技術が未発達だった昔でも、防腐処理や防虫加工をせずに使うことができる木材だったわけです。
また、マクラギには列車の荷重が掛かりますが、栗は摩耗しにくく、耐久力にも優れています。日本で穫れる木材では、トップレベルの耐久性を誇るそうです。
以上をトータルで考えると、栗はマクラギとして非常に適した素材です。みなさんの栗を見る目が、少し変わったのではないでしょうか?
栗という木材は日本人の生活を支えてきた
鉄道とは関係ないですが、図書館の本で得た知識を書いておきます。
太古の昔から、日本人は栗の木の優秀性を知っていたようで、人々の生活を支えてきました。特に、縄文時代は栗の利用率が非常に高く、ある書籍によれば、
「縄文人の木材利用の特徴を一言でいうなら、栗を多く利用していること」
「栗の木が縄文人の生活を支えたといっても過言ではない」
だそうです。
もちろん、木材としての利用だけではなく、食糧確保的な意味でも使い勝手が良かったことは言うまでもありません。
東日本では特に多く使われていて、青森県の三内丸山遺跡の櫓が栗の木でできているのが有名です。また、平安時代に制定された『延喜式』には、栗の産地として丹波国が記されているそうです。
近年の脱線事故で多い原因は「マクラギの劣化」
さて、栗の話はここまでにして……あとは少し補足。
近年の日本の列車脱線事故で、よくある原因がマクラギの劣化です。
木製マクラギはコンクリート製よりも劣化しやすいので、長く使っていると、どうしても傷んできます。それが原因で、レールの幅が広がる軌間拡大という現象が起き、列車の車輪がレールの「内側」に落ちて脱線……というケースがあります。
国鉄から第三セクターに転換されたようなローカル線では、コンクリート製ではなく、木製マクラギを使い続けていることが多いです。そういう鉄道で起きる脱線事故は、たいていが「マクラギの劣化」によるものです。
そのあたりは↓関連記事で詳しく解説しているので、興味がある人はどうぞ。