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原因は「マクラギの劣化による軌間拡大」か? 長良川鉄道の脱線事故

2020(令和2)年3月18日、岐阜県を走る第三セクター鉄道・長良川鉄道で脱線事故が発生しました。

脱線の原因については、現時点では報道等による情報がないので不明です。が、おそらくこれ、レールの幅が広がって車輪がレール間に落ちたのだと思います。置き石やスピードの出し過ぎのセンは薄いです。

軌間が拡大してレールの「内側」に脱線?

読者のみなさんは、脱線というと、列車がレールの外に飛び出すのをイメージするでしょう。『きかんしゃトーマス』でよく見る、スピードの出し過ぎでカーブを曲がり切れずに脱線、というケースですね。

ところが、脱線にはこのような「外への脱線」だけではなく、「内への脱線」というものがあります。

ご存知のように、鉄道は2本のレール上を車輪が沿って走っていきます。2本のレールの間隔、俗にいう「軌間」は、日本では1067ミリまたは1435ミリが一般的です。

もし、何らかの原因で2本のレールの間隔が拡大してしまったら、たとえば1067ミリが所定のところ1200ミリに広がってしまったら……レールの内側に車輪がストンと落ちてしまいますよね。

これが「内への脱線」です。今回の長良川鉄道の脱線事故も、おそらくこのケースと推測されます。近年の脱線事故は、何かと衝突して脱線というケースを除けば、多くがこの「レールの間隔が広がって間にストン」です。

なぜ軌間拡大が起こるのか?

レールの間隔が広がってしまう軌間拡大。なぜそんなことが起きるのかを説明しましょう。まずは写真をご覧ください。

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写真の赤丸部分に注目

マクラギ&レールの写真です。ここで重要なのは、レールはマクラギ上に単に置かれているのではなく、クギを使ってマクラギと締結されている、ということ。別の表現をすると、クギを打ちつけてレールをマクラギに固定してあるのです。(写真の赤丸部分)

レールとマクラギを締結・固定することで、左右2本のレール間隔を保持しているのですね。

もし、レールとマクラギが固定されていなかったら、つまり、レールがマクラギ上に単に置かれているだけの状態だったらどうなるか?

鉄道車両は重いですから、レール上を通過したときに、レールがグラグラしてしまいます。レールがグラつくことにより、所定1067ミリの軌間が一時的に広がってしまう。

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運輸安全委員会の調査報告書から抜粋

ようするに、クギによるレールとマクラギの締結が不十分だと、レールがグラついて軌間が拡大してしまう。軌間拡大にはいろんなパターンがありますが、これが一例です。

木のマクラギが腐食してクギが緩む

クギによるレールとマクラギの締結が不十分なために、レールがグラついて軌間が拡大する……。この事象を引き起こす代表的な原因がマクラギの腐食です。

マクラギの材質はいろいろな種類がありますが、文字通り「木」でできている場合は、腐食することがあります。マクラギが腐食してボロボロになると、しっかり打ち込んだはずのクギが緩んできます。そのため、クギによるレールとマクラギの締結が不十分、なんて事態が起きるのです。

マクラギを更新したくてもカネや人手が足りない

特に国鉄やJRから転換された第三セクター鉄道だと、木のマクラギが多く残っています。そういう鉄道で、「レールの間に落ちる」脱線事故が数多く発生している現実があるのです。

「木のマクラギだから腐るんでしょ。PC(プレストレスト・コンクリート)マクラギとかを導入すればいいじゃん」と思うでしょうが、カネがかかります。地方のローカル線だと、カネが不足しており、従来からの木マクラギを使い続けるしかない、というケースが少なくありません。

「木のマクラギでも、線路点検をじゅうぶんに行なっていれば大丈夫では」という意見もあるでしょう。しかし、やはり地方ローカル線は人手不足が深刻化しているため、検査が不十分になりがちな現実があります。

まだ原因が判明していないのでなんとも言えませんが、今回の長良川鉄道の脱線事故も、もしかするとこうした背景があったのかもしれません。続報が待たれます。

カネの切れ目が安全の切れ目

以前、「カネの切れ目が安全の切れ目」という記事を書いたことがあります。

木マクラギをPCマクラギに変えたくても、そのための予算がない。人手不足も、突き詰めればカネの問題。こうしたカネの問題は、鉄道の安全を直撃します。

「鉄道の安全って、結局はカネの問題かよ」と思うかもしれませんが、その通りです。地方の鉄道会社に事故が多いのは、赤字経営と無関係ではありません。「カネがあれば安全を確保できる」わけではありませんが、「カネがなければ安全は確保できない」は紛れもない事実です。

脱線事故を起こした鉄道会社を「安全への意識が低い」などと責めるのは簡単ですが、事はそう単純ではありません。事故の背景には、こうした“経済格差”もあることをぜひ知っていただきたいと思います。

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