現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職等で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

運転士になるまで(15) 運転シミュレーターでの訓練風景

こんにちは、現役鉄道マンのKYSです。
運転士になるまでシリーズの続きです。

運転士の学科講習の話が続きますが、今回は「運転シミュレーター」について語ろうと思います。
教習所には『電車でGO!』のような運転シミュレーターがあり、研修生たちはそれを使って訓練するのです。

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シミュレーターで訓練する目的は?


そもそも論になりますが、運転シミュレーターで訓練する目的とは何でしょう?

運転の腕前・運転テクニックを磨くことが目的……ではありません。
運転シミュレーターは、しょせん画面上で風景が動くだけであり、それをいくらやってもリアルでの運転操作の腕前は上がりません。
『電車でGO!』だと、上手な運転をすること自体がゲームの目標になりますが、それとは目的が根本的に異なります。

では何のためにシミュレーターで訓練するかというと、「トラブル対応を経験させるため」です。

鉄道ではさまざまなトラブルが発生します。

・信号機が故障して赤のまま
・走行中に車両のドアが開いた
・駅でのオーバーラン
・人身事故や踏切事故
・動物との衝突
・故障した車両を助けに行く

こうしたトラブルには、それぞれ対応のための規程やマニュアルが定められていますが、それらをリアルの現場で“実設訓練”するのは非常に難しい。
そのため、運転シミュレーターを使ってトラブル体験をさせ、経験値を積ませるわけです。

親機で訓練内容を設定 子機で実践


運転シミュレーターには、「親機」と「子機」が存在します。

親機は、講師の側で扱うもの。
たとえば、信号機故障や車両故障などのシナリオがあり、研修生に体験させるものを選択します。
その他、運転時刻や天気、列車の両数などの要素を設定変更することもできます。

こうして親機側で設定した内容に基づき、子機側のシミュレーターで研修生たちが訓練するのです。

信号機関係のトラブルを訓練


さてさて、ここからは、運転シミュレーターでどんなトラブルが体験できるか、いくつか説明しましょう。

信号機が故障して赤のままというトラブル。
運転シミュレーターの中でも、スタンダードな訓練ですね。

いつもは青の信号が、今日に限って赤のまま。
あれあれー? と思って手前に列車を止めて指令所(仮想)に連絡すると、「信号機故障が発生しました」と告げられてトラブル対処スタート、という具合です。

ちょっと話が脇道に逸れますが、信号機というものは、故障したときは赤になるようになっています。
信号が赤ならば列車は動かないですから、事故になることはありません。
つまり、故障時には赤信号になって列車を止めることで、“安全側に転ぶ”ようになっているわけ。

このように、「異常が発生したときには安全側に働く仕組み」のことをフェールセーフといいます。
鉄道のシステムには、このフェールセーフの概念が用いられています。

他の例をあげると、たとえば踏切もそうです。
踏切というものは、故障すると遮断機が「下りっぱなし」になります。
遮断機を下りっぱなしにしておけば、踏切内に人が立ち入らないので安全、というわけです。

さて、話を戻します。

信号機は故障した場合、赤になると説明しました。
このフェールセーフの仕組み、列車を止めて事故を起こさないという点では安全なのですが、放っておいたら列車はずーっと止まったまま。
つまり、お客様に迷惑をかけてしまう。

というわけで、信号機が赤のまま変わらない場合、一定の手続き(※)を踏むことで運転を再開できる決まりになっています。
その一定の手続きを、シミュレーターで体験するわけです。

車掌と打ち合わせたり、指令所から必要事項の指示を受けたりするのですが、このやり取りがなかなかによくできています。

親機で見守っている講師が車掌役や指令役となり、運転士役の我々と喋る……のではありません。
シミュレーターから自動で機械音声が流れるようになっていて、それに対して、運転士役の我々がマイクに向かって喋り返すという仕組みです。
こちらが喋った内容は機械側で認識・判定されているらしく、必要事項を言い損ねたりすると、喋り直しになります。
けっこう本格的なのです。

(※)
専門的な用語になりますが、この一定の手続きには、「代用閉そく」や「無閉そく運転」というものがあります。
故障した信号機の種類によって、手続きの内容は異なります。

信号機トラブルはいろいろなパターンがある


その他、信号機関連のトラブルだと、

・列車の通過直前に信号機が突然赤になる
・信号機の球切れ

こうした訓練も行います。

列車の通過直前に信号機が突然赤になる。
信号が赤になるということは、信号の先で何か異常が起きたのかもしれません。
そのため、運転を再開するには安全確認が必要になります。

また、信号機の球切れ(信号の滅灯)ですが、これはフェールセーフの思想により「赤信号が出ているものとみなす」のです。

ただ、こうした信号機の異変をそもそも見落としてしまい、ブレーキをかけることなくそのまま走り続ける研修生もいます。
後述しますが、こうした「不適切な行為」をした場合、シミュレーターは強制終了します。

駅でのオーバーラン ~罠カード発動~


駅進入時、ブレーキ操作を誤って所定停止位置を行き過ぎてしまった、というオーバーランのトラブル体験もできます。

オーバーランをした場合は、バック(後進)して正しい停止位置まで戻らなければなりません。
運転台には「前進・後進を切り替えるレバー」(専門用語では「逆転ハンドル」「レバーサー」と呼びます)があり、通常の運転時には前進側になっています。
オーバーランしてしまってバックする場合は、これを後進側に切り替えるのですが……ここにが一つあります。

バックして正しい停止位置まで戻り、車掌がドアを扱って旅客の乗降が完了。
さあ、運転を再開するぞ。
加速のためのハンドルを操作したら……


列車が後ろに動いた!?


そうです、「前進・後進を切り替えるレバー」が後進側のままであり、それを前進側に戻すのを忘れていたのです!
ようするに列車の逆走です。

駐車などで頻繁にバックが発生する自動車ならいざ知らず、列車の運転では、バックする事態はほぼありえません。
(私の[ピー]年の運転士経験でも、バックしたことは一度もありません)
そのため、運転士には「列車は前に動くもの」という前提意識が刷り込まれており、そのせいでこういう単純ミスが起きるというわけ。

これ、だいたいの研修生がシミュレーター訓練で引っ掛かる「運転士あるあるネタ」。
みなさんの周りに、大手鉄道会社の運転士経験者(=運転シミュレーターって大手の会社しか置いてないと思うので)がいたら、尋ねてみてください。
きっと「ああ、あるある(笑)」という反応が返ってくると思います。

ちなみにこの逆走のミス、シミュレーターの中だけの出来事ではなくて、リアルでも起きたことがあるんですよ。
オーバーランだけでも日勤教育送りなのに、さらに逆走までやらかしてしまい、日勤教育の重ね掛けという悲惨な事態に……。
本番でそういうことがないように、ミスをしてもOKなシミュレーターで痛い目に遭ってもらう。
シミュレーターで訓練する意味は、そこにあります。

人身事故や踏切事故も再現


駅進入時に旅客がホームから転落してきて人身事故。
踏切を通過する際、車が踏切内に突っ込んできての踏切事故。
こういうエグい事例も、シミュレーターで訓練できます。

シミュレーターだとわかっていても、運転中に目の前に人が落ちてきたり、車が踏切を突破して列車の横っ腹に突っ込んでくると、「うわああああ」となりますね。

人身事故が起きると、シミュレーター画面が血で真っ赤に染まる……ことはありません(^^;)
また、リアルの人身事故や踏切事故だと、運転士は警察に事情聴取されますが、シミュレーターではさすがにそこまでは再現されません(^^;)

この手の事故が起きたときのポイントは、「列車防護がキチンとできるか否か?」です。
列車防護とは、事故が起きた際、二次災害を防止するため、他の列車に対して「ここは危ないから近寄るな!」と知らせること。
具体的には、防護無線という装置で周囲の列車に危険を知らせる信号を発信したり、信号炎管(発煙筒)に点火したりします。
シミュレーター訓練でも、列車防護がキチンとできないと減点対象になります。

防護無線についての解説はこちらの記事

ちなみに、目の前の線路に人が転落してきたにも関わらず、それに気付かずブレーキを掛けない研修生もいました。
いや、リアルでの事故と違って、シミュレーターって衝撃や衝突音が発生するわけではないので、ボケっとしていると異変を見逃すんですよ。

「不適切行為」は強制終了 そうやって痛い目に遭うのが大事


信号機に異常があるのに気付かず走り続ける。
オーバーランで停止位置を直した後の逆走。
人身事故や踏切事故が起きたときに列車防護を忘れた。

シミュレーター訓練で、このように「不適切行為」をやってしまった場合、「あなたは運転士として不適切な行為をしました」のような音声が流れ、シミュレーターが強制終了します。
早い話、ゲームオーバーです。

まあ、シミュレーターならどれだけミスをしても構わないので、むしろここで痛い目を見ておいた方が、のちのち自分のためになります。
「賢者は歴史から学び、愚者は経験から学ぶ」なんて言葉もありますが、どちらがより自分の血肉になるかというと、やはり「経験」の方ではないでしょうか。
もちろん、お客様を乗せた本物の営業列車で、あまりたくさんのトラブルが起きたのでは困りますから、シミュレーターで疑似体験をしておくことが大切なんですね。

今回の記事はここまでです。