鉄道で防がなければいけないのが、列車同士の衝突事故です。そのため、鉄道では閉そくという概念によって、衝突を発生させないようにしています。
それを説明したのが↓の記事です。鉄道に詳しくない人は、まずは↓の記事をご覧になることをオススメします。
そもそも鉄道の信号機って何のための設備? ~鉄道から信号機が消える日~(1)
簡単に説明しておくと……
線路を一定区間ごとに区切り、その入口に信号機を建てる。区間内に他の列車がいる場合、入口の信号機は赤になる。運転士はそれを見て、信号機手前で止まる。
区間内に列車がいなければ、区間入口の信号機には青(や黄色)が灯る。運転士はそれを見て、信号機を越えて進む。
このような仕組みによって、列車同士の衝突事故が起きないようにしています。
列車がいる・いないは「軌道回路」で検出している
この方法──専門用語では「自動閉そく式」という──で問題になるのが、次の点です。
その区間内に列車がいる・いないを、どうやって判定するのか?
「区間内に列車がいれば信号は赤・いなければ青」という仕組みを、どう実現するかという話ですね。まさか係員が目で見て判定し、信号の色を変えているのではないことは容易にわかりますが、ではどうやっているのか?
ここで登場するのが軌道回路です。
この軌道回路なるものを用いることで、そこに列車がいる・いないを判定し、信号機の色を変えているのです。
軌道回路とは? どういう形の電気回路?
理科の講義みたいになりますが、軌道回路の仕組みを説明しておきましょう。
「え~理科は苦手……」と思った人、簡単なので安心してください。電池・導線・豆電球を渡されて、豆電球を点灯させることができる人ならば、理解できるレベルです。
軌道回路とは、ようするに電気回路なのですが、次のようになっています。
線路上の2本(左右)のレールを電気回路の一部としています。つまり、レールには電気が流れているのですね。
(専門用語では信号電流と呼びます)
列車が軌道回路を短絡すると信号は赤になる
この回路に電気を流してみましょう。
信号機のところにリレー(継電器)があり、このリレーに電気が流れている状態だと、信号は青になります。別の言い方をすると、「リレーまで電流が届けば信号は青になる」です。
では、列車がこの区間に進入してきました。鉄道車両の車輪・車軸は鉄なので、やはり電気を通します。するとどうなるか?
信号電流は、リレーではなく車軸を通ってスタート地点に戻ってきます。電流は「楽をしたがる」ので、経路が二つある場合、ショートカットできる方を選びます。いわゆる短絡というやつです。
ここで思い出してほしいのですが、「リレーまで電流が届けば信号は青になる」でした。列車が進入して短絡が起きた場合、リレーまで信号電流が届かなくなるので、信号・青の条件を満たせなくなります。
つまり、列車がこの軌道回路内に存在しているときは、信号は赤になるのです。これが軌道回路の仕組みです。
軌道回路は信号機だけではなく、踏切を動作させるのにも使います。
踏切って、列車が近づけば動作開始、遠ざかれば動作終了しますよね。つまり、踏切には「列車の位置情報」が必要で、そのために軌道回路で位置を検出しています。
高度な知識ですが、信号機に使われる軌道回路は「閉電路式」といいます。対して踏切では、閉電路式に「開電路式」というものを組み合わせています。「ここを通ったら踏切が上がる」という動作が必要なためです。
軌道回路はコスト高 将来的には消滅する仕組み
軌道回路を線路に仕込むことによって、列車の有無を判定し、信号を赤や青に変える。これが日本でもっとも一般的な仕組みです。
しかし、この方法は将来、間違いなく廃れていきます。軌道回路を使って信号制御する方式は、コストがかかるからです。信号電流をレールへ流すために、大掛かりな設備が必要になります。
線路を眺めると、軌道回路関係の設備をいろいろ発見できます。専門用語が出てくるので理解できなくてけっこうですが、レール同士を電気的に接続するレールボンドや、信号電流と電気車電流を振り分けるインピーダンスボンドなどです。
こういう設備はもちろん保守点検しなければいけませんし、軌道回路の状態を常時監視するシステムも必要です。ようするに、固定費が莫大になるのです。
鉄道会社は将来的に、少子高齢化・人口減少による経営悪化を避けられないでしょう。今後も大きな固定費を抱え続けることはできません。ですから、軌道回路で信号機を制御する方法からは、早く脱却しなければいけない。
しかし、実は新しい方法にもすでに目途が立っており、一部では実用化されています。それはどのような方法なのか? ……は次回に続きます。
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(次)情報通信技術を活用した列車制御 ~鉄道から信号機が消える日~(3)
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