今回の記事も、JR東日本・西日本が来春(2021年春)から施行を予定している終電繰り上げに関する内容です。
終電繰り上げの目的の一つは、「夜間工事の時間を拡充すること」。
ただし、東海道線のような線区だと、夜中も貨物列車や寝台特急サンライズが走っています。終電を繰り上げても、それがどこまで工事時間の拡充につながるか、微妙なところです。
そういった疑問に対して、以下のような意見も見受けられます。
終電を繰り上げた分、その空いたところに貨物列車を走らせればいいのでは? 終電を30分繰り上げたら、その後の貨物列車も30分繰り上げられるはず。そうすれば貨物列車は今までより早く通過し終えるから、工事の開始も早められるでしょ。
一見、「なるほど」と思えます。
が、実際にはそれほど単純な話ではありません。貨物列車の時刻繰り上げには、パッと思い付くだけでも、次のような課題があります。
- ダイヤの問題
- 乗務員と車両の問題
- 貨物ターミナルでの問題
今回の記事では、これらを説明していきます。
① ダイヤの問題 「部分」ではなく「全体」として大丈夫か?
課題その1は、ダイヤの問題。
たとえば、岡山を22時に発車して、翌朝東京に到着する貨物列車があるとします。これくらいの時刻だと、JR西日本の京阪神エリアの通過は、ちょうど現行の終電前後になります。
JR西日本が京阪神の終電を30分繰り上げるなら、貨物列車は岡山を21時半に発車すればよいのでは?
しかし、その考え方は部分に捉われて全体を見失っています。
その貨物列車は、京阪神エリアだけを走るのではありません。したがって、岡山・名古屋・静岡・東京といった京阪神以外のエリアでも、ダイヤ的に問題ないかを検討しなければいけません。
ようするに、貨物列車の時刻を繰り上げるのは、京阪神という「部分」的には問題ないかもだけど、「全体」として見たときに大丈夫? という話です。
② 乗務員と車両の問題 列車ダイヤに追随できるか?
課題その2。
乗務員と車両の手配です。
列車というものは、ダイヤ(運転時刻)だけ決めれば走れるものではありません。ダイヤ・乗務員・車両という3要素が揃って、初めて動けるものです。
いくら「ダイヤ的にここが空いているから、ここで走らせたい」と思っても、乗務員・車両の都合がつかなければ実現しません。
その運転時刻で、乗務員の手配は可能か?
休憩時間など、労務管理に問題ない作業ダイヤにできるか?
始発駅の出発時刻までに、機関車・貨車の両方が揃うように、車両の使用スケジュールが組めるか?
……という具合に、いろいろ検証する必要があります。
重ねて言いますが、列車とは、ダイヤを決めればそれで走れるものではありません。「乗務員や車両の手配が、そのダイヤに追随できるか?」という点は非常に大切です。
③ 貨物ターミナルでの問題 作業容量がオーバーしないか?
課題その3。
貨物ターミナルでの作業の都合。
貨物列車の到着や出発時刻が変われば、それに伴って、コンテナの積み込み・下ろし、貨車の連結・切り離し作業なども、時間や動線が変わるはず。そういった変更が、作業の容量的には問題ないか?
みなさんの職場でも、「午前中にやる仕事」と「午後にやる仕事」みたいな振り分けがあると思います。それを全部午前中にやれとなったら、「キャパ的に無理です」という問題になりかねませんよね。作業容量というのは、そういう意味です。
また、貨物列車への積み込み作業には、「この時刻までに荷物を持ってきてね」という締切時刻があります。出発時刻を早くするということは、締切時刻も今までより早まるわけで、ようは荷主側にも影響があります。
もしかすると、「締切時刻が変わると困るなあ。それなら鉄道利用は考え直さないと」という荷主(や荷主から荷物を預かる運送事業者)が出てくるかもしれません。
JR貨物はなかなか首を縦に振らないのでは
……とまあ、こんな感じで、貨物列車の時刻を根本から変えるのは、いろいろ調整すべき事項があります。「終電を繰り上げたから、その分、貨物列車のダイヤも繰り上げたらいいじゃん」みたいな施策が簡単に実現するくらい単純なら、我々の仕事も楽なんですが……。
「夜間工事の時間を確保したいので、貨物列車もダイヤを変えてほしい」というJR旅客会社の要望に、JR貨物がはたして首を縦に振るか。正直、なかなか難しいと思います。来春以降の貨物列車のダイヤに注目です。
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