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蓄電池の話 安全性その他に優れる「全固体リチウムイオン電池」が次代を担う

先日の記事で、搭載した蓄電池の力で走る電車「蓄電池車」について説明しました。

いわばリアルプラレールとも言える車両ですが、その蓄電池車で重要なパーツが蓄電池(バッテリー)です。電源の蓄電池こそが、蓄電池車の生命線。いやまあ、当たり前ですが……

ところで、その蓄電池たるものについて、みなさんはどれくらいのことをご存じでしょうか。蓄電池はスマホやパソコンにも使われており、普段から大変お世話になっているにもかかわらず、よく知らないという人が多いのでは。

そこで今回の記事では、鉄道とは直接関係ないですが、「最近の蓄電池情勢」について書いてみます。ワタクシそっちの分野は素人ですが、頑張りまっす。

繰り返し充放電できる二次電池 代表格はリチウムイオン二次電池

電池には、「使い切りタイプ」と「繰り返し充放電できるタイプ」がありますよね。前者を一次電池といい、後者は二次電池と呼びます。

  • 一次電池 → リモコンや玩具など、日常生活でお馴染みの使い切りタイプ
  • 二次電池 → スマホやパソコンに搭載されており、繰り返し充電して使える

蓄電池車に搭載されるのは、もちろん繰り返し使える二次電池です。

この二次電池の代表選手が、リチウムイオン電池(※)です。みなさんは今、この記事をパソコンやスマホ等で読んでいるでしょうが、その内部にもリチウムイオン電池が入っているはず。

(※リチウムイオン電池は、LIBと表記されることが多い。Lはリチウムの元素記号から、Iはイオン、Bはバッテリー)

1990年代に登場したリチウムイオン電池は、軽量・小型・急速充電可能といったメリットを多く備え、現在もっとも普及している二次電池といえます。実際、現行の蓄電池車に搭載されているのもリチウムイオン電池です。

鉄道車両に搭載する蓄電池は高い性能が求められる

ただ、鉄道車両に蓄電池を搭載するのは、実はかなり大変です。使用環境がけっこう過酷で、それに耐えうるよう、いろいろな基準をクリアする必要があります。我々が日常生活で電池を使うのと同レベルで考えてはいけません。

たとえば、振動や衝撃。

電池に振動や衝撃を与えることがよくないのは、なんとなく想像できると思いますが、列車が走行する際は、どうやっても振動や衝撃が発生します。それらに強い電池であることが、車両に載せるためには求められます。

それから、気温に影響されにくいこと。

鉄道車両は外を走るので、真夏の酷暑・真冬の厳寒をモロに受けます。特に低温環境下では、電池の働きが悪くなります。

リチウムイオン電池には、内部にリチウムイオンが存在しますが、低温だとイオンの動きが鈍ります。ようは化学反応の効率が下がると。我々も、寒くなると動きが鈍くなりますよね。それと同じイメージです。

そして安全性。

「スマホから発火した」というニュースを聞いたことがありませんか? 発火元は、スマホ内部に搭載されているリチウムイオン電池です。つまり、リチウムイオン電池には発火の危険があります。

車両の床下に積んだ電池から発火……なんてことになったらシャレにならない。そのため、蓄電池車に使われる電池には、高い安全性が求められます。

液系リチウムイオン電池は有機溶媒に発火の危険がある

鉄道車両に搭載するものに限った話ではないですが、この安全性を高めるのが大変みたいです。

先ほど「リチウムイオン電池には発火の危険がある」と書きました。具体的には、電池に用いられる有機溶媒というものが可燃性です。アルコールなんかが有機溶媒の一種ですね。

そもそも電池の仕組みに触れると──電池の内部には、電解液というものが入っています。電解液とは、電解質が溶け込んだ液体。電解液の中をリチウムイオンが移動し、プラス極とマイナス極を行き来することで、充放電を行うのがリチウムイオン電池です。

電池の内部をプールに例えるとすれば、プールに電解液が満たされており、その中をイオンが泳いで移動するイメージでしょうか。

なお、電解「液」を使っていることから、このタイプを液系リチウムイオン電池と呼びます。

そして、電解質を溶かすための液体として、リチウムイオン電池では可燃性の有機溶媒が使われるのが一般的です。

安全性その他に優れる「全固体電池」が次代を担うと目されている

というわけで、安全性向上のためには、材料が可燃性のものではなく、難燃・不燃であることが望ましい。

安全性をはじめとした、現行の液系リチウムイオン電池が抱える課題。それを解決する方法として有力視されるのが、全固体リチウムイオン電池です。単に「全固体電池」と呼ばれることが多いです。

液系電池では、電解質を有機溶媒で溶かし、電解液にして電池に仕込みます。しかし全固体電池はそうではなく、電解質自体を固体化します。

ようは、電池内の液体を固体に置き換えます。

固体電解質と呼ばれますが、これが難燃・不燃性に優れているそうなので、より火災を起こしにくい安全な電池ができる、というわけ。

もちろん課題があって、性能面のアップ。いくら全固体電池は安全性が高いといっても、性能がショボければ採用できません。

具体的には、イオン電導率(プール風に言うなら泳ぎやすさ)というものを、現行の液系電池と同等かそれ以上にすることが必須。どういうふうに固体電解質を作れば、リチウムイオンが流れやすくなるか? さまざまな研究がされています。検索をすると、その手のニュースがけっこう出てきますよ。

というわけで、この全固体電池が次代を担うと目されています。実用化はもう少し先で、ニュース等を見ると、2030年前後が一つの目途でしょうか。

鉄道で使うとしたら、鉄道特有の環境に対応するために課題を克服する必要があるので、2035年とか2040年とか、そのくらいになるかもしれません。

液系電池も研究が続く 一例が「水系リチウムイオン電池」

全固体電池の話をしました。ただし、全固体電池によって液系電池は過去の遺物になりそうかというと、そんなことはなくて、安全性や性能を高めるための研究は続いています。その一つが、水系リチウムイオン電池です。

これは読んで字の如く、水を使用したリチウムイオン電池のこと。電解質を水で溶かすことで、安全性が高まるのです。

と言っても全然わからないでしょうから、例え話。

みなさんが家で揚げ物を作るとき、危ないから注意しますよね。揚げ物調理の何が危ないかというと、取扱いを誤ると、油が発火すること。油は可燃性の物体ですから。

そこで、まあ実現可能性はないでしょうが、仮に「水を使って揚げ物をする技術」が開発されたとしたら、グッと安全になります。水からは火が出ないので。

水系リチウムイオン電池も、これと同じイメージです。

先ほど「液系リチウムイオン電池に使われる有機溶媒に可燃性がある」と書きましたが、有機溶媒に代えて水を使い、難燃性を高めたのが水系リチウムイオン電池です。従来のものより安全性が高いとは、そういう意味です。

東芝さんが実用化に向けて頑張っているようですが、はたしてどうなるか。

まとめの図。本文では説明しなかったが、全固体電池で使われる固体電解質には有機系と無機系がある

将来は蓄電池の性能向上だけでなくワイヤレス給電も併用?

蓄電池情勢をいろいろ解説しましたが、難しいと感じた方が多いと思います。専門外だから書いてても難しかったよ(ヽ´ω`)

最後は、息抜きも兼ねての話。

蓄電池は現実世界だけでなく、アニメなどの空想世界でも頻繁に登場します。たとえばガンダム。作品によっては蓄電池で動く(=バッテリー駆動の)機体が登場します。

ロボットではないけどエヴァンゲリオンもそう。アンビリカルケーブル(有線)から電力を供給されていますが、ケーブルが切断されて内部電源に切り替わる描写、ありますよね。内部電源ということは、すなわち蓄電池が搭載されているはずです。

ガンダムもエヴァも、あれだけ重量のある機体を激しくファイトさせています。そのエネルギーを生み出すだけの電力を、蓄電池で賄っていますから、現代技術では想像もつかない超高性能な蓄電池を使っているのは間違いない。しかも、使用環境が電車とは比べ物にならないほどハードですが、それにも耐えてるし。
(エヴァの舞台は2015年なので、すでに過去になっていますが)

空想世界とは、一種の未来予測とも言えます。すごい蓄電池が登場するシーンを見ていると、「現実世界でも、蓄電池がひたすらパワーアップしていくのかなぁ」と想像しがちです。

ただ、蓄電池の高性能化だけでなく、他の方向性も存在するのではないでしょうか。たとえば、ワイヤレス給電という技術が存在します。ケーブルのように有線を使わずとも、無線、つまり非接触で給電(充電)できてしまう技術です。

もちろんこれからの技術ですが、これが発展すれば、少なくとも蓄電池の容量については超高性能化を求める必要がなくなるはず。

スマホって、基本コンセントのある場所でしか充電できませんよね。つまり、充電には場所的制約が存在しますが、ワイヤレス給電が発達すれば、街中を歩きながら充電、なんて未来があるかもしれません。気軽に充電できるとなれば、「電池にどれだけ電気を貯められるか?」はあまり気にしなくてよくなります。

蓄電池容量の問題をカバーするために、ワイヤレス給電を活用するという発想です。ガンダムでも、母艦からビームでエネルギーを送り、バッテリー残量を回復できる機体があります。ようは活動時間を長くできると。

MG 1/100 フォースインパルスガンダム (機動戦士ガンダムSEED DESTINY)

蓄電池車も同じで、架線がある場所でしか充電できないのが現在ですが、ワイヤレス給電によって充電の場所的制約や活動時間の制約を緩和できれば、運用の幅が広がります。

蓄電池とワイヤレス給電の組み合わせによって、100年後には、電車の仕組みがまったく変わっているかもしれません。

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