『列車 vs 動物シリーズ』の第4弾です。今回は、地上動物のシカやイノシシではなく、鳥がテーマです。
みなさんはバードストライクをご存知ですか?
「鳥が飛行機とぶつかる現象だっけ? 運が悪いとエンジンが壊れたりするんだよね」
そうですね。バードストライクというと、鳥と飛行機との衝突が一般的なイメージです。ただ、広義には「鳥と人工構造物との衝突全般」を指すそうです。
多いパターン 線路を横断する鳥の横っ腹に衝突
鉄道でも、このバードストライクはよくあります。私も、運転士時代に何度か経験しました。
どういう形で鳥とぶつかるかですが、正面衝突、すなわち列車に向かって鳥が突っ込んでくることは皆無でしたね。「鳥頭」なんて言葉もありますが、鳥もバカではないですし、概して視力も良い動物です。正面から突っ込んできて衝突、なんて間抜けなマネは、そうそう犯しません。
多かったのは、高架区間を運転しているときに、鳥が線路を横断する形で飛んできて、その横っ腹に列車が衝突するパターン。つまり、歩行者が道路へ飛び出して車にぶつかるのと同じ形です。
運転士目線でいうと、「おっ前方の線路を鳥が横断しているなあ」→「おっ近づいてきたぞ」→「あれっぶつかる!」→ 運転室の前面ガラスにドーン! こういう流れです。
鳥とは高速で衝突するので衝撃はなかなか
さて、鳥はシカやイノシシに比べると小型ですから、ぶつかっても大したことないように思えます。ところがどっこい、バードストライクの衝撃は侮れません。
シカやイノシシの場合は、線路にいるのを発見してブレーキを掛けますから、一応それなりに減速した状態でぶつかります。
ところが鳥の場合、シカやイノシシと違って、発見してもブレーキを掛けることは普通ありません。目の前に鳥がいるからといって、いちいちブレーキを掛けていたんじゃ仕事にならないので(笑)
そのため、ぶつかるときは基本的にノーブレーキの状態。100㎞/h以上とか、全力で走行しているときにぶつかることもあります。
衝突音もすごいですよ。
「ベチッ」みたいな生易しい音ではありません。
バンッッッ!!
机に思い切り手を叩きつけたときのような、すごい音です。私、初めてぶつかったときは、ビックリして「うおっ!?」と声が出ました。それくらい強烈な勢いでぶつかるので、運転室の前面ガラスに白っぽい衝突痕がくっきり残ります。
運が悪いと、ガラスにヒビが入ることも。かなり稀ですが、ヒビのせいで「運行継続不能」と判断され、列車が運休になった事例もあります。2020(令和2)年7月25日、JR東北線でそういうことがあったようです。「たかが鳥じゃん」と侮ってはいけません。
ちなみに、鳥の死体(さすがに生きてないはず)は線路周辺に墜落しますが、そのまま放置しておくと腐敗してアレですよね。というわけで、「どこどこで鳥とぶつかった」と後で報告します。その情報を受けた保線係が、線路巡回の際に回収します。夏なんか腐敗が早いから死体回収はホントに嫌、と保線の知り合いは言っていました。
だいたいの“被害者”はハト カラスがぶつかるのは稀
衝突する鳥は、ハトが多いです。まあ、そのへんに普通にいる鳥といえばハトですからね。
スズメはどうだったかなぁ。記憶が怪しいですが、少なくとも私はぶつかった経験はなかった気がします。
「身近な鳥」でも、滅多にぶつからないのがカラス。私も、カラスと衝突した経験は一度だけ。同僚に聞いてみても、カラスと衝突したことはほとんどないようです。こういうエピソードからも、カラスの賢さや知能の高さが垣間見えますね。
新幹線の速さについていけず逃げ遅れた鳥たち
最後に、本で読んだエピソードをひとつ紹介。日本が技術協力した台湾新幹線の開業時の話です。
新線開業のときって、設備が完成したら試験走行(試運転)をしますよね。もちろん台湾新幹線も試験走行をしたのですが、その際、バードストライクが何度もあったそうです。
線路上にたむろしている鳥たちが、新幹線が接近してきたのに気が付いてバサバサと飛び立つ。ところが、台湾の鳥たちにとって、高速走行する新幹線は初めて見る物体。今まで見たことのない速さで近づいてくるため、逃げ遅れてドーン。せっかくの新車が鳥の血で赤く染まる。
バッティングセンターで140~150㎞/hの球を打ったことのある人、いませんか? 新幹線の約300㎞/hというスピードは、あれの2倍近いのです。いくら反射神経が良い鳥でも、在来線の感覚でタイミングを計っていたら、そりゃー逃げ遅れるわな……
列車 vs 動物シリーズ 記事一覧
線路上に動物を発見! 衝突の回避率が最も高い意外な方法とは?
本記事の写真提供 エストッペルさん
本記事内の台湾新幹線の写真は、駅員経験のあるはてなブロガー・エストッペルさんが運営する『旅と鉄道の美学』から拝借しました。写真使用の許可をいただき、ありがとうございました(^^)
『旅と鉄道の美学』は単なる鉄道旅の紹介にとどまらず、営業規則や切符、鉄道部品などにも触れています。「鉄道旅に一味加えるお役立ち辞典」という雰囲気で、鉄道に関する蘊蓄が好きな人なら、かなり面白く読めるはずです。