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京都丹後鉄道のインシデント 鉄道会社を悩ませる動物との衝突

2020(令和2)年10月4日、京都丹後鉄道で、列車のブレーキが効かなくなるトラブルが発生。ブレーキ部品の一部が破損してエア漏れし、ブレーキが効かなかった。トラブル発生直前に異音を感知しており、車両には動物の毛が付着していたとのこと。

普通に考えれば、動物にぶつかった衝撃でブレーキ部品が壊れたのでしょう。

列車と動物の衝突。
有効な解決策が見つからず、鉄道会社を長年にわたって苦しめているこの問題。今回から、『列車 vs 動物シリーズ』として合計5本の記事をお届けします。

シカやイノシシとの衝突は毎日のように起きる

山の中を運転していれば、シカやイノシシとの衝突は日常茶飯事です。「山の中」とは田舎のローカル線だけではなく、たとえば、JR東海道線なら関ヶ原(=岐阜県)付近で、JR山陽線なら上郡(=兵庫と岡山の県境)付近というように、幹線でも普通にあります。

特に上郡付近は、夜間にシカとの衝突が多く、夜間の運転本数が多い貨物列車泣かせの場所です。

JR貨物のホームページには、遅れ貨物列車の一覧を表示した「現在の運行状況」というページがあります。遅れ理由が表記してあるのですが、けっこうな頻度で「鹿(動物)との衝撃」という文言が出てきます。というか、見ない日の方が少ないくらいです。

田舎のローカル線だと、毎日のように衝突が発生する路線もあります。そういう路線では、夜になるとフツーに動物が線路脇にいるそうです。動物は目がキラリと光っているので、簡単にわかるのだとか。
(私はそういう路線を運転した経験がないので、ナマで見たことないですが……)

動物との衝突は「輸送障害」だけで年間704件

国土交通省が発表している数字も見ておきましょう。『鉄軌道輸送の安全に関わる情報』という資料によると、2018(平成30)年、動物が原因の輸送障害は704件。

「全国トータルで年間704件? 少ないじゃん」と思った人、さにあらず。

さきほど出てきた「輸送障害」という用語を説明しておきます。輸送障害とは、以下のどれかに該当する事象です。

  1. 列車の運休が発生したもの
  2. 旅客列車の場合は、30分以上遅れたもの
  3. 旅客列車以外(貨物列車とか)の場合は、1時間以上遅れたもの

①②③いずれにも当てはまらない事象は、輸送障害にカウントされません。ということは、たとえば「動物に衝突して20分遅れた」ようなケースは、この704件には含まれていない(=遅延が30分未満だから)のです。

実際には、30分以内に運転再開する場合も少なくありません。そういうケースも含めると、おそらく、全国で年間数千件は動物との衝突が発生しているはずです。1日10件としても、年間で3,000件以上という計算になります。
(統計資料がないので推測しかできませんが)

対策の決定版は存在しない 開発したら表彰間違いなし!

この「動物支障」は鉄道会社の悩みのタネで、列車が遅れるのはもちろん、運が悪いと車両の床下機器が破損することもあります。今回の京都丹後鉄道の件も、おそらくコレでしょう。

数年前に読んだ話なので今はどうかわかりませんが、近畿日本鉄道では、動物支障による被害額が年間2~3,000万円にもなるのだとか。三重県と奈良県の県境あたりがスポットらしいです。

各社でいろいろな対策が研究されているのですが、効果は限定的で、決定版は出ていないのが現状です。決定版を開発できれば、間違いなく社長賞モノでしょう。いや、社長賞などはるかに通り越して、業界団体や協会から表彰されるはず。

農業での動物被害は一般的によく知られていますが、鉄道会社での被害も相当なものです。農業団体と共同で対策などを編み出せないものでしょうか。

【余談】動物はグルメ 不味いモノには手を出さない

余談ですが、田舎で畑を持っている同僚の話によると、農作物を荒らす動物は非常にグルメなのだそうです。

毒がある植物はもちろん、まだ熟していない果実や、育ち切っていない野菜は食べません。「人間的に見ても美味しい状態」のものだけを食べていくそうです。柿を食い荒らすサルも、渋柿には手を出さないのだとか。

うーむ、賢い。

また、ピーマンやゴーヤも苦いのであまり食べないらしいです。人間と一緒ですな(笑)

轢き殺した動物の有効活用もできない

シカやイノシシなどの厄介者を、どうにか有効活用できないものか? たとえば、こう考える人がいるかもしれません。

「その衝突したシカやイノシシって、食べられないの?」

農業被害を及ぼす動物を駆除して、食肉(ジビエ)として利用する、というのはよく知られています。鉄道でも同じことができないか?

天然シカ肉 ~山陽線で貨物列車が捕獲しました!~

みたいなキャッチフレーズで、駅弁の材料にしたり、地元の道の駅で取り扱うとか(笑)

しかし残念ながら、鉄道で轢き殺された動物は食べられないですね。

食肉として利用するためには、殺した直後に適切な血抜きが必要。血抜きを上手にしないと、肉が臭くて食べられないことは、比較的よく知られた話です。

鉄道の場合、この血抜きができません。動物を轢き殺したときは、その死体は線路脇にどかされます。その後、線路の保線係がやってきて死体を処理・処分するのですが、10~20分では来れないのは容易に想像がつくと思います。しかも、鉄道会社に血抜きのノウハウなんてないし。

死んだ直後に適切な処理ができないので、食肉としてはとても利用できない。結局はそういうことですね。

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