広島焼きのことを「お好み焼き」「広島風お好み焼き」などと言おうものなら、広島出身者から叱られるのではないでしょうか。「広島焼きとお好み焼きは別物だっつーの。混同すんな」と。
これと似たようなのが、たこ焼きと明石焼き(玉子焼き)。
この二つを混同しようものなら、大阪人と兵庫人、双方から迷惑がられると思います。たこ焼きはたこ焼き、明石焼きは明石焼き。両者は別物。もし「明石焼風たこ焼き」などと言おうものなら、なんやねんそのどっちつかずの中途半端は! と突っ込まれるでしょう。
ところが……その中途半端を許されている存在が、兵庫県の姫路駅にある。しかも、半世紀も昔から。
姫路駅の地下街に昔からある「明石焼風たこ焼き」
現在は消滅してしまいましたが、かつて姫路駅には地下街があって、そこで食事ができました。いや、地下街は現在もありますが、これはリニューアルオープンしたもの。私が言っているのは姫路駅の「旧」地下街です。
あ、私は姫路っ子じゃないです。ただ、姫路は親戚の家へ行くときの通り道で、子どもの頃から何度も降りていました。
そして、姫路駅で降りると必ず地下街へ行き、家族みんなで食べていたもの。それが「明石焼風たこ焼き」です。これを食べるのが姫路旅の楽しみでした。
私にとっては、子ども時代の懐かしい味なのです。
先ほども書いたように、かつて存在した姫路駅(旧)地下街は消滅。しかし、明石焼風たこ焼きを出す店は移転して生き残っており、現在でも「昔からの味」を食すことができます。
店の名は『姫路タコピィ』。姫路駅の中央改札口を出て北方面へ徒歩2~3分です。初見だと少し迷うかも。
柔らかい + 出汁で食すところが明石焼き風
タコピィは、券売機で食券を買う方式です。紙ではなく、プラスチック製の食券が出てくるのがレトロ。私のような年代だと、ノスタルジー感じちゃいます。
食券をオバチャンに渡しましょう。人気商品なので供給が追い付かず、待たされることもありますが、たこ焼きの調理作業を眺めていれば退屈しないと思います。
最後の盛り付けが面白いです。
餃子だと、フライパンにお皿をかぶせ、ひっくり返して直接お皿に盛り付けるワザがありますよね。この明石風たこ焼きも同様に、上から皿を押し当て、鉄板をひっくり返します。
10個のたこ焼きが、わりと等間隔に盛り付けられているのは、そのため。
明石焼き風ということで、お椀に入った出汁も供されます。味はカツオベースです。
たこ焼き本体は、明石焼きほどフワフワではないですが、柔らかいです。生地に卵を多く入れてあるのでしょう。下手に持ち上げると崩れます。しかし、たこ焼きらしい適度な固さもある。「明石焼風たこ焼き」とは、言い得て妙ですな。
出汁にソースが溶け込んで味変していくのが美味しい
さて、この明石焼き風たこ焼き、どうやって食せばよいか? 出汁が提供されますが、机の上にはソースも置かれており、刷毛で塗れるようになっています。したがって、
- 普通のたこ焼きのように、ソースを付けて直接食べる
- 明石焼きのように、出汁に入れて食べる
この二つの食べ方が考えられます。実際、最初の方は、これでいいでしょう。ただし、ある程度食べ進めたら、次の方法をオススメしたい。
- たこ焼きにソースを付けてから、出汁にダイブさせて食べる
ソースを付けたたこ焼きを出汁にinさせる? うわっ変な食べ方。カツオが効いた上品な出汁にソースが混ざったら、良い香りがケシ飛んで台無しだろう。下品だ!
そう思った人。
下品? ハァ……(溜め息)
やれやれ、何もわかってないな
┐(´д`)┌
『ドラゴンボール』の人造人間17号が、わざわざ時間のかかる方法で目的地に行こうとして「時間のムダ」と指摘されたときに、「そのムダが楽しいんじゃないか」と言っていた。これを拝借して主張させてもらう。
その下品が美味しいんじゃないか
ソースが混ざることによって、お上品さが漂っていた出汁は下品に変身するが、それが美味しい。その出汁をすすりながら、浸したたこ焼きを「飲む」。そう、たこ焼きは飲み物だったのです!
食べ進めるにつれ、出汁に溶け込んだソースがだんだん増えていき、味が変わっていく。これこそが、たこ焼きでもない、明石焼きでもない、明石焼風たこ焼きの醍醐味。
個人的には、ソースをたっぷり塗ることをオススメします。上の写真くらいでは控え目だと思っていいです。もう遠慮なくやっちゃってください。
姫路駅は新快速の拠点ということもあり、青春18きっぱーのような在来線長距離客が多く降りる駅です。接続の時間が取れるスケジュールなら、改札を出て、ぜひ明石焼風たこ焼きを食べに行っていただきたい。
曜日や時間帯によっては行列ができて時間が読みにくいですが、姫路着時刻 → 次に乗る列車の姫路発時刻まで50分くらいを見とけばOKだと思います。
【昔話】たこ焼きと御座候が隣り合っていた旧地下街時代
たこ焼きの話はここまで。あとは姫路の余談。
「姫路駅のグルメを挙げよ」と言われたときに、御座候(大判焼き)を思い浮かべる人、います?
この御座候も、姫路を代表する名物です。旧地下街の頃は、たこ焼き売場の横で、御座候が焼かれていました。「隣同士」だったわけです。甘い物が好きな私の父親は、たこ焼きを食べたあと、御座候をお土産に買っていました。
旧地下街がなくなったあと、御座候の店は、JR在来線改札内に移って営業しています。
明石焼風たこ焼きと御座候。現在は隣同士ではなくなりましたが、私にとっては両者でワンセットのイメージが未だにあります。