『ラーメン発見伝』というマンガをご存じでしょうか?
ラーメンの知識や技術に長けた主人公・藤本浩平が、ラーメンに関する様々なトラブルを解決していくストーリーです。まあアレです、『美味しんぼ』のラーメン特化版みたいな内容と思ってもらえれば。主人公の藤本クンは、美味しんぼの山岡さんに相当します。
この手のマンガは、しばしば飲食店を舞台にします。登場する店は、基本的に空想の存在ですよね。
ところが、まれに現実世界の店が、マンガ内に登場することがあります。
ラーメン発見伝では、長野県の上田駅に店を構える『麺将武士』(読み方:めんしょうもののふ)というラーメン屋が登場しますが、この店は実在します。
マンガで読んでから「この店、行ってみたいな~」と思っていましたが、実は先日、訪れる機会がありましたので、食レポをするのが今回の記事です。
上田駅のラーメン屋『麺将武士』がマンガ内に登場
ラーメン発見伝では、どういった経緯で『麺将武士』が劇中に登場したのでしょうか?
──ラーメン好きの主人公・藤本浩平は、商社に勤めるサラリーマン。会社では、主に飲食関係の仕事をしています。ある日、藤本クンの会社に、「長野のご当地ラーメンを創りたいので手伝ってほしい」という仕事依頼が舞い込みました。
藤本クンは、長野県のラーメン事情をリサーチするため出張します。ヒロインで同僚の佐倉サン(=美味しんぼの栗田さんに相当)と、今話のゲストキャラ・高城サンも一緒です。
3人がリサーチの一環で訪れたのが、上田駅改札外の駅ビルに入居するラーメン屋『麺将武士』です。
藤本クンたちが入った店に、私も入ってみましょう。カウンター席・テーブル席・座敷があります。居酒屋のような雰囲気が漂っていました。
いや、実際、居酒屋に近いかもしれません。ラーメン以外に、一品物・アルコール類・定食類も豊富です。ラーメン屋ではなく、中華料理屋と呼んだ方が適切な気がします。
アッサリ味「幸村」と濃厚味「左近」が同時に味わえる
席に座ってメニュー表を眺めます。券売機方式ではなく、口頭で店員さんに注文するスタイルです。
マンガ内では、アッサリ醤油ラーメンの「幸村」と、濃厚豚骨ラーメンの「左近」が紹介されていました。私も、この二つを食べることにします。
なに? お前はラーメン2杯も食べるつもりかだって? いやいや、そんなわけないっしょ。実は、この店には嬉しいメニューがあります。「幸村」と「左近」の食べ比べです。
こんなの初めて見た。細胞分裂直前のような形をした面白い丼に、「幸村」と「左近」の両人気メニューが盛られています。ありそうでなかった発想です。
まろやかな「幸村」 しっかり美味いと思わせてくれる
いざ実食。まずはアッサリ味の「幸村」からいただきます。ちなみにマンガ内では、「幸村」を食べた佐倉サンが、こう感想を述べていました。
この「幸村」、凄く美味しいです!!
いろんな素材の旨味を白醤油が優しく包み込んでいるような味わいで……
さて、私の感想。
この「幸村」、凄く美味しいです!!
いろんな素材の旨味を白醤油が優しく包み込んでいるような味わいで……
パクリ? 人聞きの悪いこと言わないでください!(怒) ラーメンの味、マジで佐倉サンの言う通りなんですよ。たまたま感想が被っただけです。
「優しく包み込んで」の表現なんか、ドンピシャ。塩分のとげとげしさが全然感じられず、まろやかなスープです。ガツンと来るパンチ力はないものの、しっかり「美味いっ」と思わせてくれます。
魚介の風味が立っていますが、露骨に魚介魚介しておらず、ほどよいところで抑えられた、バランスの良いスープとの印象を受けました。麺ともよくマッチしており、んーッ、美味しい。
逆に言うと、物足りなさを感じる人もいるかもしれませんが。
濃厚豚骨の「左近」 後味がクドくないのが良い
続いて、濃厚豚骨の「左近」を食します。マンガ内で「左近」を食べたのは、ゲストキャラの高城サンでしたが、彼は次のように述べていました。
ボクの頼んだ、トンコツ味の「左近」もイケますよ!
コクはしっかりあるけど、全然クセはなく、後味はスッキリです!
さて、私の感想。
トンコツ味の「左近」もイケますよ!
コクはしっかりあるけど、全然クセはなく、後味はスッキリです!
パクリ? 違うって言ってるじゃないか!(怒)
ドロリとしたスープは濃厚で旨味たっぷり。しかし、変に口の中に残ることはなく、無駄に引っ張らない。高城サンの「後味はスッキリ」という表現は、やはりドンピシャ。
そのため、「左近」の直後にアッサリ味の「幸村」を食べても干渉が起きません。だからこそ、食べ比べが成立するのだと思います。
麺との相性もバッチリです。加水率低めで歯切れのよい細麺は、豚骨スープと一緒にすすると美味しい。
試しに、レンゲに「左近」のスープをよそい、そこに「幸村」の麺を付けて食べてみましたが……ミスマッチでした。いくらスープが良くても、麺との相性が悪ければ台無しになることが、改めて理解できました。
もう一つ実験。レンゲを2本使って、両方のスープを混ぜて飲んでみましたが……焦点がボケた中途半端な味になりました。
具は普通 スープと麺が美味いだけに落差を感じる
というわけで、「幸村」も「左近」も、スープと麺は美味しかったです。
正直言うと、具がちょっと……。
具は両者共通で、ネギ・チャーシュー・メンマ・味玉・海苔でしたが、これは普通だなぁと思いました。不味くはないですよ。ただ、「とりあえず載せとけ」的な無造作感が漂っているというか……。高レベルのスープと麺に、置き去りにされている気がします。
もっとも、スープと麺が美味いからこそ、具の落差が目立ってしまい、こういう感想が出てくるわけですが。
ちょっと批判的な内容も書きましたが、総合的には満足の一杯です。個人的には、「左近」の方が好みかなと。
なお、食後の会計はセルフ方式です。伝票に書かれたバーコードを会計機に読み込ませ、表示された金額を払うやつです。ごちそうさまでした。
【余談】真田「幸村」と「信繁」のどちらが正しいのか?
ラーメンの話はここまで。あとは余談。戦国時代ネタです。
アッサリ醤油ラーメン「幸村」は、地元出身の真田幸村からとったものですね。この真田幸村ですが、「幸村の名前は後世の創作で、本当の名前は信繁」というのが、近年の一般論です。
まあ実際、信繁が正しいのでしょう。ただ、幸村と名乗っていた時期も確かにあったのでは……と個人的には思います。
真田一族が、関ケ原合戦の際に東西に分かれた話は有名です。石田方に、父・昌幸と次男・信繁。徳川方に長男・信幸。で、結果はご存知の通り。昌幸と信繁は、紀伊国(現在の和歌山県)九度山に流されました。
徳川方についた信幸は、戦後に「信之」と改名します。改名の理由は諸説ありますが、とにかく真田家の通字「幸」を捨てています。
長男が「幸」の字を捨てて、たぶん昌幸はガッカリしたはず。そこで、信繁が昌幸を気遣って、自分が「幸」の字を受け継いで幸村と名乗ったのではないか──との説もあります。
ただし、その場合でも、幸村の名乗りは家族内だけのものであり、対外的には信繁のままだったのではないでしょうか。
というのは、昌幸と信繁は、数年経ってほとぼりが冷め、信之がとりなしてくれれば上田に戻れる、と期待していたかもしれません。
(もちろん、上田に戻っても城には入れないでしょうけど)
しかし、徳川に仕えた兄・信之が捨てた「幸」の字を使えば、「なんだコイツ」と徳川の心証を害する可能性があります。それはマズいと考えるでしょう。
結局、昌幸と信繁は上田に戻れず、九度山に押し込められたままでした。そして、信繁は大坂の陣で徳川に敵対します。もう徳川に遠慮する必要がなくなったわけです。そこで、リベンジ戦に挑む心機一転も兼ねて、家族内だけの名前だった幸村を正式に名乗った──
個人的には、こう考えるのが一番しっくりきます。
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