今回の記事は、冬にまつわる鉄道雑学です。北海道や東北、日本海側などの雪が多い地域において、厳寒期に鉄道を悩ませる問題について紹介します。
一言でいうと、車輪が回転しなくなる問題です。
車両構造の知識 車輪と制輪子
厳寒期になると、車輪が回転しなくなる。これ、どういうことでしょうか?
簡単に言えば、夜中の低温で車輪が凍結・固着するのです。
これを理解するためには、鉄道車両の構造を少し知っておく必要があります。↓図をご覧ください。
車輪はおわかりですね。
「制輪子」とはブレーキのための部品です。ブレーキ時は制輪子を車輪に押し付けることで、摩擦によるブレーキ力を発生させます。
車輪と制輪子に付着した水分が夜中の低温で凍結する
夜間停泊で車両を置いておく際は、ブレーキを掛けた状態にしておきます。ノーブレーキだと、車両が動いてしまいますからね。
ブレーキを掛けた状態、つまり、制輪子を車輪に押し付けた状態です。
ところが、車輪と制輪子の周辺に付着した雪や水分が、夜間の低温で氷になります。朝を迎えるころには、車輪と制輪子がすっかり凍結・固着状態……というのが、厳寒地での“お約束”です。
この状態になると、車輪が回転不能に陥ってしまいます。当然ですが、車輪が回転不能だと、車両を動かす(起動させる)ことができません。始発列車を運転できなくなってしまいます。
車輪が固着したまま無理に走ると「フラット」が生じる
回転不能な車輪が一部だけなら、正常な車輪のパワーで強引に起動させることはできなくはありません。が、それはNGです。
というのも、車輪が固着したまま車両を走らせると、固着車輪を引きずってしまいます。引きずりながら走ると、車輪とレール、金属同士が強く擦れるので、キズや異常摩耗につながるのですね。
車輪が部分的に平らに削れてしまうフラットという現象も発生します。
フラットが生じた車輪は円形でなくなるので、スムーズに回転しなくなり、走行時に振動が発生します。乗り心地が悪いのはもちろん、下手をすると振動で機器が故障したり、最悪、床下機器が落下して大事故につながりかねません。
(というか、実際そういう事故事例は存在します)
というわけで、凍結・固着した車輪は、頑張って回転可能な状態にしなければいけません。乗務員は、氷結部分を棒で叩いて氷を落とし(剥がし)たり、温風機で氷を融かしたりと、朝から重労働。たたでさえ睡眠不足なところに、寒い外気に晒されながらの作業になります。
対応策の一つ 耐雪ブレーキの摩擦熱で水分を蒸発させる
朝から乗務員が重労働になったり、最悪始発列車が運転できなくなったりと、車輪の凍結・固着問題は重大です。何か防ぐ方法はないのでしょうか?
水分があるから凍る。裏を返せば、そもそも水分がなければ凍結は起きない。であれば理屈的には、車輪と制輪子の間に水分を介在させない、つまり乾燥した状態にしておけば、凍結は起きないわけです。
「車輪と制輪子の間の水分を飛ばす」ためのテクニックがあります。耐雪ブレーキを使用しながら走ることです。
耐雪ブレーキという言葉が出てきましたが、これは自転車でたとえれば、ブレーキレバーを軽く握りながら(=軽いブレーキを掛けながら)走行することです。
耐雪ブレーキをONにすると、ブレーキシリンダーに少しだけ空気が入り、車輪と制輪子が軽く触れた状態になります。早い話、ごく軽いブレーキが掛かるわけです。
この「車輪と制輪子が軽く触れた状態」を作る目的は何か? 第一義としては、走行中に巻き上げた雪が車輪と制輪子の間に入り込み、ブレーキが効かなくなる「雪噛み」を防ぐためです。
で、この雪噛みを防ぐのが耐雪ブレーキですが、実は副次的な効果もあります。それが車輪と制輪子の間の水分を飛ばすこと。
どういうことかというと、車輪と制輪子が軽く触れたまま走行するので、摩擦熱が発生します。この摩擦熱で付着した雪を融かしたり、水分を蒸発させたりできるのです。
夜間停泊する駅の十数㎞くらい手前から、耐雪ブレーキを使用しながら走っておくと、摩擦熱で車輪・制輪子の水分を蒸発させることができ、翌朝の凍結を軽減させる効果があります。
寒冷地のダイヤを守る鉄道マンに敬礼 (*`・ω・)ゞ
車輪凍結への対抗策を紹介しました。これはあくまで一例で、研究や工夫は他にもいろいろあります。
北海道や東北、日本海側のように大雪が降る地域では、冬の早朝にダイヤを守るため、鉄道マンが苦労しています。こうした苦労は表立って伝えられることはないですが、そのような事実を知ると、冬の鉄道を見る目が少し違ってくるかと思います。