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運転士が乗務中に熱中症! これは労災になる?

今日も暑いですね。最近は、夏の暑さと鉄道に関する記事を投稿していますが、今日もその話題です。

テーマはズバリ、「運転士が乗務中に熱中症になったら、労働災害になるのか?」

運転士の熱中症というと、列車の遅延・運休がニュースで報じられたり、乗務中の水分摂取の良否について議論されたりします。が、「労働災害」という法律的な観点で論じられることは、まずありません。

だったら、鉄道現場の仕事紹介に高い専門性のある当ブログの出番だ! と思い立ち、記事を書いてみました(^^)

これくらい知っておくべき! 労災の基礎知識

鉄道とは直接関係ないですが、まずは労働災害の基本的な知識から。社会人には常識かもしれませんが、まだ社会に出たことのない学生が読んでいると想定し、基本から書きます。社会人になるなら、これくらいの知識は自己防衛のためにも知っておくべきですよ。

労働災害(以下、労災と表記)とは、「仕事中に仕事が原因で発生したケガ・病気等」です。

……と簡単に書きましたが、この「仕事中に」「仕事が原因で」という言葉の解釈が難しい。たとえば、休憩中にケガをした場合は、「仕事中に」といってよいのか? また、仕事とは直接関係ない行為をしていた場合は、「仕事が原因」といえるのか?

説明のためによく使われるのは、次の二つの用語です。

  • 業務遂行性
  • 業務起因性

業務遂行性 仕事の最中か?

まず、業務遂行性。
業務遂行性とは、ケガや病気は業務を遂行中、つまり仕事をしている最中のものだったか? ということ。

「仕事をしている最中」というと、机に座ってパソコンをカタカタしているような場面を思い浮かべるかもしれませんが、ここでいう仕事中とは、そういった限定的な狭い範囲ではありません。

たとえば、休憩中やトイレに行くときも、業務遂行性は認められています。休憩やトイレは仕事を行う上で必要な付随行為みたいなものですから、そこも業務遂行中と認めてくれるんですね。ぶっちゃけ、よほど業務から逸脱しているのでなければ、ほとんどの行為について業務遂行性ありと認められるはずです。

業務起因性 因果関係があるか?

続いて、業務起因性。
業務起因性とは、業務とケガ・病気等の間に関連性、つまり因果関係があるのか? ということ。

たとえば、自分で職場に持ち込んだ弁当が痛んでおり、そのせいで食中毒になった。これは業務と食中毒の間に因果関係はないですよね。

たとえば、個人的な感情のもつれから同僚とトラブルになり、職場で取っ組み合いのケンカになってケガをした。これも明らかに、業務とケガとの間に因果関係はないですね。

たまにニュースになりますが、駅員が酔客から暴行を受けてケガをした。この場合は、業務とケガの間に因果関係アリと認められるはずです。

このようにいろいろなケースがありえますが、あえて固い言葉を使えば、「業務行為に潜む危険が顕在化したものであるか?」とでもいえるでしょう。

遂行性と起因性、両方を満たしていれば労災になる

ケガや病気は、仕事中に発生したものか → 業務遂行性
ケガや病気は、仕事と因果関係があるか → 業務起因性

この二つの要素をともに満たしていると、労災と判定されます。

運転士の熱中症で労災認定は難しい

労災の基礎知識を説明しました。では本題に戻って、「運転士が乗務中に熱中症になった場合、労災になるのか?」を考察します。

復習ですが、労災と認められるか否かの判定基準は、「業務遂行性」「業務起因性」をともに満たしていることでしたね。

乗務中に熱中症になった場合、業務遂行性は「あり」で間違いありません。列車に乗務している最中に熱中症を発症したのですから、バリバリ業務遂行中です。

では、業務起因性は?
別の言い方をすれば、運転士の仕事と熱中症の間に因果関係は認められるのか?

これはケースバイケースですが、業務起因性は「なし」と判断されることがほとんどだと思います。

なぜかというと、一般的に運転士の仕事は「室内作業・冷房あり・水分補給OK」という条件が揃っているからです。たまに外に出ることもありますが、数十分~数時間も屋外で連続作業することは、通常業務の範囲ではまずありません。運転室は冷房が効いていて、少なくとも汗ダラダラになるほど暑くはないし、水分補給も自分の判断でしてよい。

こうした条件が揃っている以上、運転士の仕事は、熱中症の危険性は低いと判断するのが妥当でしょう。熱中症になっても業務起因性は「なし」と判定される、つまり労災とは認定されないケースがほとんどだと思います。

これが、保線係員が暑い中を徒歩で線路巡回していたケースなら、業務起因性「あり」の可能性が高いのですが……。

実際の事例でも労災認定はされなかった

ウチの会社でも、過去に運転士が熱中症(軽度で済みましたが)と診断された事例があります。しかし、発症前に暑い場所に長時間いたわけではなく、いつも通りに乗務しているだけだった。というわけで、「まず労災とは認められないでしょう」で終了しました。

一応、社外のしかるべき組織にも問い合わせたらしいですが、「労災の申請をするのは構いませんが、このケースではまず認められませんね」と言われたらしいです。

ただし、条件によっては労災認定される可能性もあるでしょう。

たとえば、運転中に線路上の障害物と衝突し、対処のために高温の車外に長時間出ていた。運転室の冷房が故障しており、暑い空間の中で乗務をしていた。「乗務中の水分摂取はダメ」という会社のルールがあり、適切な水分補給ができなかった。

こうした要素があったのならば、「労働環境と熱中症との間に因果関係あり」と判断されて労災認定される可能性もあると思います。ようするに、労災と認められるか否かはケースバイケースなんですね。

【余談】京アニ放火事件は労災認定される?

ここから先は、鉄道とは関係ない余談なので、興味がない人はスルーしてください。

労災というキーワードで私が今気になっているのは、先月(=2019年7月18日)に発生した「京アニ放火事件」の被害者の方たちが、労災認定されるかどうか? という点です。

事務所で仕事中に被害に遭ったので、「業務遂行性あり」は間違いありません。問題は「業務起因性」です。

ケースバイケースではありますが、個人的な恨みで襲われたような場合は、業務との関連性・因果関係はないので、「業務起因性なし」と判断されることが一般的です。

しかし今回、どうも労災認定する方向で話が進んでいるようです。かなり特殊な扱いで、「マジか!」というのが私の正直な感想です。

労災認定されると、労災保険という保険から、治療費の支給や遺族への補償などが行われます。労災保険は、この支給・補償が非常に手厚いのです。

もちろん、労災認定やカネが支給されたからといって、被害者や遺族の方の心が救われるわけではないでしょう。

ただ、現実問題として、犯罪に巻き込まれて被害者になってしまった場合、金銭的な問題がついて回ることが多いのです。そのあたりの心配が解消されて、被害者や遺族の方の負担が少しでも減るのであれば、良いことだと思います。
(労災認定することが法的に適切な取り扱いかどうか? という問題は横に置いといて)

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