これはまた珍しい遅延理由で……(^^;) このニュースですが、前提知識として以下の二つを知らないと、理解しにくいと思います。
- 乗務員が持っている「カギ」
- 運転室の扉の仕組み
運転士は「マスコンキー」と「忍び錠」の二つを持っている
前提知識その1。
まず、JRの運転士・車掌が持っているカギについて説明しましょう。
みなさんは、自動車のカギについては知ってますよね。「扉のカギ」と「エンジン始動のためのカギ」が共通、つまりカギは一種類だけです。
しかし、鉄道車両は違います。「運転室の扉のカギ」と「運転操作に使うカギ」が別物、つまりカギが二種類あります。それぞれ忍び錠・マスコンキーと呼びます。
- 運転室の扉のカギ ⇒ 忍び錠
- 運転操作に使うカギ ⇒ マスコンキー
運転士は列車を操縦するときにハンドルを操作しますが、あのハンドル、デフォルト状態ではロックされていて動かせません。運転台にマスコンキーを挿入することで、動かせる(操作できる)ようになります。
さて、↓の図をご覧ください。
運転士は、二種類のカギを持っています。
運転室に入るための忍び錠。
操縦に必要なマスコンキー。
対して、車掌は操縦をしないのでマスコンキーは不要。持っているのは忍び錠だけです。ワンマン運転だと↓の図になりますね。
運転室から出るときはカギを使わなくても施錠できる
カギの種類・役割についてはわかったと思います。続いて、前提知識その2。運転室の扉の仕組み。
運転室の扉ですが、運転室内側には、取っ手のそばに「開」と「閉」のツマミがあります。
たとえば、車掌が車内巡回をするため、運転室から客室に出るとしましょう。そのときは、ツマミを「開」位置にして取っ手を回せば扉が開きます。
で、扉がロックされていないまま車内巡回に行ったら、誰かが運転室に入るかもしれませんよね。当然、扉は施錠しなければいけません。どうやって施錠するかというと……扉が開いた状態でツマミを「閉」位置にします。
ツマミを「閉」位置にしたまま扉をバタンと閉じれば、それで施錠完了です。
つまり、運転室から出るときは、いちいちカギを鍵穴に差し込まずとも施錠できるわけです。一種のオートロックですね。もちろん、車内巡回を終えて客室から運転室に戻るときは、鍵穴にカギ(忍び錠)を差し込んでロックを解除しなければいけませんが。
忍び錠を運転室に置き忘れたまま外に出てしまった模様
前提知識として、二つの説明をしました。
- 乗務員が持っている「カギ」
- 運転室の扉の仕組み
さて、ここから今回のトラブルの説明。まず、列車が終点に到着します。
運転士は折返しのため、反対運転室に移動します。その際、扉を開けるための忍び錠を、先ほどまでいた運転室内に置き忘れてしまったのでしょう、たぶん。
忍び錠がないと扉を開けられませんから、反対運転室に入れません。つまり、折返し列車を発車させられない。
先ほどまでいた運転室に戻ってカギを取って来たいのですが、そこの扉も、すでにロックされていて入れません。運転室から出る際に、ツマミを「閉」位置にして、先ほど説明したオートロックをしたのですね。これで両運転室から締め出されてしまった、というのが事の真相でしょう。
ワンマン運転ならではのトラブル
さて、今回のトラブル。相方の車掌がいれば、車掌も忍び錠を持っていますから、「開けて~」と頼めばOKです。
しかし、ワンマン運転だと、運転士以外にカギを持っている人がいませんよね。誰でも一度は経験がある「オートロックの部屋内にカギを忘れて締め出された」状態になると、万事休す。
自分で予備キーを持っているとか、駅務室に予備キーが配備されているとか、そういうのもナシだと完全にお手上げです。他の列車が到着し、その乗務員が所持する忍び錠で、運転室を開けてもらうしか手がありません。