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列車が駅間停車して立ち往生 避難誘導の際はどのような課題があるか?

停電や車両故障、線路設備の故障などで、列車が駅間に立ち往生してしまった。運転継続は不可能なので、乗客を線路に降ろし、駅まで徒歩で避難誘導する──

近年、これはどの鉄道会社においても、対応を整備すべき案件になっています。

2023(令和5)年1月には、JR西日本で、駅間立ち往生による長時間の車内閉じ込めがありました。対応に不手際があり、JR西日本が猛烈に批判されたことを憶えている人も多いでしょう。8月には、JR東日本でも停電による駅間立ち往生が発生しました。

避難誘導の際はどのような課題があるか?

乗客を車両から降ろし駅まで歩いてもらう。言葉にすると簡単ですが、実際はそう単純ではありません。細かく見ていくと、いろいろ課題が出てきます。今回の記事では、それを五月雨式ではありますが書いてみます。

津波警報や炎天下 梯子等で一人ずつ降ろす暇がないとき

「車両から線路に降りる」といいますが、具体的には、どうやって降りるか? おそらくみなさんは、ドアを開けて梯子等を設置し、一人ずつ降りていく方法を思い浮かべるでしょう。それで正解です。

ところが、状況によっては、そんな悠長なことをしている暇がない場合もありえます。たとえば、

  • 海の近くを走っているときに大地震で停車 → 津波警報発令
  • 真夏の炎天下、停電して冷房が切れた状態で駅間停車

こういうケースは、一刻を争います。乗客の人数にもよりますが、悠長に梯子で一人ずつ降りる時間はないです。そういう「一斉降車」が求められるときはどうするか? という点は課題です。

現実的には、「ドアを開けて直接線路に飛び降りてもらう」の一択になります。あ、飛び降りると言っても「とおっ!」とジャンプするわけではなくて、↓図をご覧ください。

ドアを開け、床に腰掛けて降りる

知っておけば、役に立つときがくるかもしれません。なお、先に外に脱出した人が、今から降りる人の両脇を支えて(補助して)あげると、より安全です。

ちょうどよい映像がYoutubeにあったので、貼っておきますね。

梯子で降りられない人がいるとき

もう一つ、車外へ降りる際の話。

降車の際は梯子を使うと前項で書きましたが、それができない人もいます。たとえば、視覚障害者や車椅子を利用されている方。「梯子で降りてください」と言うのは無茶ですよね。そういった乗客には、どう対応するか?

降りた後も、一人で駅まで移動することは不可能です。

現実的には、乗務員だけでの対応には限界があり、他の乗客による協力・介助が不可欠です。これを読んでいるみなさん、もしこの手の事象に巻き込まれたときは、周りで困っている人を助けてくれると嬉しいです。ご協力をお願いします。

指令が逐一指示を出せる範囲はどこまでか?

そもそも、駅間立ち往生時の対応整備が叫ばれるようになったきっかけは、2018(平成30)年6月に発生した大阪府北部地震です。このとき、発生時刻が朝ラッシュ時だったこともあり、JR西日本では約150本の列車が駅間停車しました。

最初は、乗客の避難誘導について、指令が一本ずつに(各列車ごとに)指示を出していたそうですが……150本も個別に逐一指示を出していくようなやり方では、当然パンクしますよね。

結局、途中から「いちいち指示を仰がず、あとは現場でやってくれ」となったそうです。

指令と現場乗務員が連携した方がいいのは、言うまでもありません。ただ、指令側にもキャパシティがありますから、あまり連携にこだわりすぎると、かえって作業を阻害する可能性もあります。言い換えると、「列車は全部止めたんで、あとは現場でよろしく」と乗務員に丸投げした方がよいケースもあるわけで、そのへんの線引きをどうするか?

通信途絶で乗務員が指示を仰げない場合

前項と似た話。

列車の乗務員は、列車無線や業務用携帯電話を使って、関係箇所と連絡をします。無線や携帯電話は、「基地局」を介して電波をやり取りします。

ですので、たとえば大地震で基地局が倒壊し、無線や携帯電話が使えなくなる可能性はあります。こうした通信途絶のときにどうするか? 基地局は、付近のどこか一箇所が生きていれば有効なので、通信途絶する確率は低いはずですが……。

通信途絶まではいかなくても、指令側がキャパオーバーして、一部の列車に対応が行き届かなくなる可能性はあります。乗務員が無線や電話で指令を呼び出しても、誰も通話に出ない、という具合。

ようするに、「乗務員がどこからも指示を仰げない場合」にどうするか? という話です。

通信に列車無線が使えなくなる手間

もう一つ、通信の話。

運転室には列車無線が搭載されていて、乗務員と指令員は、普段はコレでやり取りします。しかし、避難誘導の際は(当然ですが)乗務員は運転室を離れて作業するので、列車無線は使えません。

業務用携帯電話を使うしかないのですが、指令員目線だと、これは極めてメンドクサイんですよ。

列車無線は、回線をオープンにすれば「一対多」の通話ができます。つまり、一度に多くの乗務員と同時にやり取りが可能。が、携帯電話は「一対一」の通話しかできないのが弱点です。時間節約の観点からすれば、このデメリットが案外バカになりません。

トンネルや橋梁など危険箇所の把握

駅間停車してしまった。前方の駅までは約1㎞の距離。対して、後方の駅までは約2㎞もある。当然、前方の駅(1㎞)に向かいたくなりますよね。

ところが、その途中にトンネルや橋梁があった場合はどうするか?

トンネルや橋梁は危険なので、乗客を歩かせるのは基本的にNG。そのため、危険箇所を把握できる情報が必要です。

また、危険箇所とは違いますが、無人駅と有人駅だったら、少しくらい距離があっても有人駅に向かった方が良いケースもありえます。避難経路の選定は、単に近い・遠いだけでは決められないのですね。

以前は、そういう情報は紙媒体で作成して、乗務員に配布する(または車両に備え付ける)しかありませんでした。近年は、乗務員用タブレットが普及してきています。タブレットに地図を入れておいて、トンネルや橋梁などの情報も併せて載せておくのが、これからのやり方になっていくでしょう。

避難誘導の途中に踏切等から外に出ていく乗客

線路に降りて駅まで歩いていく途中に、踏切があったとします。……そこから外に出たくなりませんか?

実際、これまでの事例でも、駅まで行かず、途中の踏切から出ていった乗客はいたそうです。それを是とするか非とするか。非ならば、対応はどうするか。

まあ現実、踏切から「漏れる」乗客のカバーまではできないので、消極的な是として諦めるしかないでしょう。

線路からホームに上げる扉の開放

駅ホームの端は、旅客が線路に進入しないよう、金属製の扉がカギで閉められていることがあります。避難誘導の際は、この扉を開放しなければいけません。

簡単なだけに、案外盲点になりやすい事項です。どのタイミングで誰が開けに行くか? 閉めるときも同様です。

避難完了報告の方法

避難誘導、最終的には、乗務員から「全員○○駅に避難しました」と完了報告が必要です。どのような方法で報告をするか?

「そんなん普通に電話で報告すりゃあいいじゃん」と思うでしょう。列車本数が少なければ、それでいいです。しかし、前述のJR西日本のように、150本も対象列車があれば手間はバカになりませんし、漏れも起きやすくなります。

避難経路選定の話でも触れましたが、近年は乗務員用タブレットがだいぶ普及してきたので、これを使う方法はあります。タブレットに報告用アプリを入れておくのですね。

運転再開時の安全確認の方法

乗客を線路に降ろして避難誘導を行なったあとは、線路内に人が残っている可能性があります。そのため、運転再開前に線路内の安全確認は必須ですが、これをどうやるべきか?

係員を徒歩巡回させてチェックすべきか、それとも最初の列車を徐行させればそれでヨシとするか。

課題への対応は鉄道会社ごとに異なる

以上、五月雨式ですが、乗客を線路に降ろして駅まで避難誘導する際の課題について述べました。

課題をどのように解決するかは、鉄道会社ごとに状況が違うので、一概に何が正解だとは言えません。

  • 運転士だけのワンマン列車か、車掌も乗っているツーマンか
  • 有人駅が多いのか、それとも無人駅ばかりか
  • 設備レベルはどの程度か

これらを考慮して、鉄道会社ごとに最適解を探っていくことになります。

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