コロナ騒動、まだまだ拡大していますね。
こういう状況ですから、鉄道会社の社員が感染する可能性もあります。列車を運転する乗務員や、指令室で列車運行を管理する指令員が感染した場合、列車運行に支障が出る可能性が指摘されているのは、みなさんご存知でしょう。
もちろん、運転士や指令員が感染したらヤバいのですが、実はそれ以外にも「感染者が出たらヤバい部署」は存在します。
車両基地で車両の検査を担当する社員です。
巷では「乗務員が感染したらヤバい」とばかり言われていますが、鉄道マンの私に言わせれば、車両検査の部署も感染者が出たら相当にヤバいです。
【前提知識】鉄道車両にも「車検」が存在する
車両検査の部署から感染者が出たら、なぜヤバいのか? まずは前提知識の話からさせてください。
自動車と同じように、鉄道車両にも車検が存在します。
人間の健康診断に、簡単なものから人間ドッグまでいろいろあるように、鉄道車両の検査にも数種類があります。簡単な目視や打音で済ませられる検査もあれば、車両をすべてバラしてしまう本格的な検査まであります。
会社によって多少呼び方が異なりますが、「仕業検査」「交検検査」「列車検査」「月検査」「重要部検査」「全般検査」などと呼ばれます。
さて、これらの各種検査を行うための基準は、「時間」または「走行距離」です。
- 時間 = ○日(○年)以内に一回
- 走行距離 = ○㎞走行する前に一回
もし、これらの検査基準を超過してしまうと、いわゆる車検切れの状態になってしまいます。
ぶっちゃけ、車検切れになっても、走らせようと思えば物理的には可能です。検査期限を超過したら車両が壊れるわけではないですから。しかし、検査基準というものは、鉄道車両の安全を守るために定められたルール。車検切れの車両を走らせることは、安全面から言えばNGです。
検査の社員が感染したら車両が「車検切れ」になる!
さて、コロナの話はここから。
コロナウイルス、一人が感染すると、同じ場所で働く他の社員も“道連れ”で自宅待機になってしまいますよね。
コロナの潜伏期間は、最長で約2週間といわれています。つまり、感染していないかどうかを見極めるため、および感染していた場合に周囲を巻き込まないためには、約2週間の隔離が必要です。
もし車両検査の社員が一人感染すると、同じ車両基地で働く社員たちが、約2週間の自宅待機になります。そしてここが重要なのですが、さきほど紹介したいろいろな検査の中には、実は、検査周期が2週間よりも短いものが存在します。
つまり、約2週間、車両検査をする人がいなくなると、車検切れの車両が出てくることが避けられません。車両を動かすことができなければ、列車の運行が止まってしまう……。
これが考えられる最悪のシナリオです。
中小の鉄道会社は深刻な問題になりうる
JRなどの大手鉄道会社は車両基地が複数あるので、一つの車両基地がダメになっても、他の車両基地に検査を回すことが物理的には可能です。ですから、最悪の事態だけは回避できるかもしれません。
問題は中小の鉄道会社。
中小の鉄道会社は、車両基地および車両検査の担当部署が一つしかないことが普通です。そのため、コロナのせいで車両検査の社員が自宅待機になると、車両検査については完全にお手上げになってしまいます。「車両が使えないため全線で運休」という事態が発生するかもしれません。
うーん、実際に感染者が出た場合、中小の鉄道会社はどう対応するんだろうか……。正直、自分にはまったく策が思いつきません。感染者が出ないことを祈るのみです。
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