京都~鳥取・倉吉間で運転される特急スーパーはくと。関西圏と山陰を結ぶ代表的な特急列車ですね。
JR西日本と第三セクターの智頭急行が連携して運行している点も特徴的。北陸路の特急はくたかが消えた現在、JRと三セク鉄道が共同運行する特急列車の中では、もっとも成功していると言ってよいでしょう。
はくと姫路発着案には批判が多い模様
2022年6月現在、はくとは上下6本ずつの運転。おおむね2~3時間に1本運転されています。これを1時間1本に増発し、鳥取県への鉄道アクセスを向上させるのが政調会の案です。
ただ、単純に増発すると車両が足りなくなります。そこで、京都発着をやめて、より鳥取に近い姫路発着(姫路折り返し)に改める。運行区間を短縮することで、車両数そのままで増発に対応しようという目論見。
しかし、この案に対しては批判的な反応が多いようです。私もおおむね同意です。
① 姫路発着では大阪方面からの利便性が落ちる
はくとは大阪方面まで直通してこそ意味がある。鳥取に向かう列車では、京都からはともかく、新大阪・大阪・三ノ宮からの乗車がけっこうある。
姫路発着の場合、大阪方面からの利用客は姫路まで新快速で行き、はくとに乗り換えることになる。大きい荷物があれば乗り換えは面倒だし、姫路までの新快速で着席できるかも不明。
はくとの長所は大阪方面から列車一本・座りっぱなしで行ける点なのに、姫路発着だと利便性が落ちるのは明白で、高速バスに客を取られるのでは。
② 1時間1本を必要とするほど需要があるのか?
利用客が見込めるのか? 現行では2~3時間に1本のはくとだが、1時間1本にしても利用者が倍にはならないだろう。そこまで需要がないのに、供給を増やす必要があるのか?
③ 車両使用料の減少を智頭急行が受け入れるか?
姫路発着にすると、智頭急行は減収になる可能性が高いが、それを智頭急行が受け入れるか?
はくとに使用される車両は、JR西日本ではなく智頭急行の所有。智頭急行は自社車両をJR西日本に貸しており、その見返りに車両使用料を貰っている。貸した車両がJR線をたくさん走れば、それに比例して車両使用料もたくさん貰える。しかし、姫路発着にするとJR線の走行距離が減るので、貰える車両使用料も減る。
(逆に言うと、JR西日本側は支払額を減らすことができる)
他の列車をどかせば1時間に1本ねじ込めないこともなさそうだが……
これ以外に、ダイヤ的な問題もあります。早い話、「智頭急行のダイヤに、はくとを1時間1本ねじ込めるだけの余裕があるか?」です。
↓図は、智頭急行のダイヤ(列車運行図表)です。私は指令員なので、これくらいは余裕で自作できますよ ( ー`дー´)キリッ 画像サイズがデカいので注意。
青線がスーパーはくと。黄線が岡山~鳥取を結ぶスーパーいなば。黒線が智頭急行の普通列車です。特急が爆走する陰で、「間を縫うように」という表現がピッタリの普通列車。
今回の焦点は特急列車なので、はくと & いなばだけを抜き出したのが↓図。
はくと、確かに2~3時間に1本ですが、いなばが間を埋めています。乱暴に言えば、はくと・いなばが1時間おきに走っている感じ。
はくとを1時間1本に増やそうと思うと、いなばが邪魔です。いなばの本数を減らすか、脇にどかすか。個人的には、「1時間に1本はくとをねじ込めないことはない」という印象ですが、いなばや普通列車のダイヤが改悪されて著しく不便になることは避けられないでしょう。まあ現実的ではないですね。
言い換えると、現行ダイヤを維持したまま1時間に1本はくとを走らせるのは無理。やるのであれば、抜本的改正が必須です。
単線ってダイヤ組むのがシンドイんだよなぁ……。
三セクの智頭急行には、岡山県も出資しています。いなばが不便になる = 岡山からの利便性が損なわれる施策には、岡山県も難色を示すはず。強行した場合、岡山県が桃○郎を派遣し、関係者を闇討ちする可能性も。
また、普通列車が不便になると、沿線市町村も怒るでしょう。「我々も出資しているのに、地元住民が恩恵を受けられないダイヤにするな!」と。
運用計画 車両・乗務員があってこその列車運行
そして、仮にダイヤが成立しても、それだけで列車を走らせることはできません。「車両や乗務員が足りるか?」を考える必要があります。列車の運行とは、ダイヤ・車両・乗務員の「三位一体」で成り立っているからです。
なお、作成したダイヤに車両や乗務員を割り当てていくことを運用計画と呼びます。
報道によると、政調会の案は運用計画にも触れています。それによると、「全体で必要な乗務員数は変わらない」「JRの大きな負担にはならない」そうです。
運用計画は複雑です。車両運用だと、いつ・どこで検査や清掃を行うかの問題が、乗務員運用だと、休憩や連続乗務時間といった制約が生じます。外部の人間が、鉄道会社の協力なしに調べることは難しいです。
ということは、政調会がJR西日本に話を持って行き、案を作ってもらったはず。けっこう喰い込んだ調査をしたのですね。
智頭急行側の乗務員は足りるのか?
で、問題は、「全体で必要な乗務員数は変わらない」というのが智頭急行にも当てはまるのか?
JR西日本部分では、京都ではなく姫路折り返しにすれば、距離短縮のぶん乗務員に余裕が生まれるので、本数増にも対応できるでしょう。ようは、増える部分もあれば削れる部分もあるので、帳尻合わせは可能と。
しかし、智頭急行線内では純粋に本数が増えます。いなばや普通列車を削らない限り、もう絶対に必要乗務員数は増えるのですが、それを補えるか?
まあ「1時間1本ダイヤを2~3年後から始めます!」といった急な話にはならないので、足りない乗務員を増やす時間的余裕はあるでしょう。
ただ、先ほど少し触れたように、はくとを姫路発着にすると、智頭急行は減収になる可能性が高いです。会社の売上が落ちるのに、人件費を増やす方向に舵を切るのは難しいと思います。
「はくと1時間1本案」には鳥取県の平井知事も難色を示しているようですが、そのあたりも原因でしょうね。はくとは、智頭急行(と出資者の自治体)からすれば“売れ筋商品”なので、中身を変更するのはリスキーという判断が通常の感覚です。
本記事で触れたような中身をトータルすれば、あまり現実的ではないと私も考えます。
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