ホームを歩いていた旅客が、何らかの原因でフラついて列車に触車したり、誤って線路に転落したりする人身事故。
こうした事故を防ぐ最強の武器は、何と言ってもホームドア(ホーム柵)でしょう。
これがあることによって、物理的にホーム上旅客の触車や転落をほぼ防ぐことができます。鉄道の安全度をグッと高めてくれる、まさにホームドア様様です。
ホームドア設置にはクリアすべき課題が少なくない
こうした防御力の高さから、ここ10年くらいでホームドアの設置が大いに進みました。今後まだしばらくは、都市圏の鉄道でホームドアの新設が続くでしょう。
問題は、都市圏以外の路線・駅です。
JRや大手私鉄でも、ホームドアを備えるのは都市圏の、しかも乗降客数がかなり多い駅に限られています。たとえばJR東日本だったら、群馬や栃木、茨城や千葉の方にまでホームドア駅が出現しまくることは、常識的に考えてありえないですよね。
地方鉄道ならなおさらで、1時間1本のローカル線にもホームドアを完備しろ! などと言うのはバカげています。結局のところ、ホームドアを新設するには、コストや工事の手間に見合うのか? が問題になるわけです。
ホームドアは重量がそれなりにあるので、既存のホームに筐体を乗っければそれで済む、という話ではありません。設置の際は土台から改修が必要になるケースもあります。
また、ホームドアはドア開閉を車両側と合わせなければいけません。そのための仕組みが必要です。そもそも論として、ドア位置が異なる車両が混在している路線では導入が難しい。
このように、ホームドアの設置には、鉄道会社の頭を悩ませる要素がいろいろあります。ホームドアの重量削減や、さまざまな扉位置に対応できるタイプの開発など、いろいろな工夫が行われてはいますが……。利用者が多くない路線・駅にまで行き届かせるのは難しい。それが現実です。
センサーや画像認識技術を利用した安全対策が発達してきた
というわけで、別の方法を使った安全対策も考えなければいけません。最近よく見るようなってきたのが、センサーや画像認識技術を活用した安全対策です。
線路への転落対策として、よく知られているのが、ホーム上に設置されている非常停止ボタンでしょう。ホームから線路に人が転落した際、目撃者がこれを押すと、赤信号が点灯して列車に知らせる設備です。
ただしコレ、迅速な対応はなかなか難しい。転落を目撃しても、咄嗟の事態に頭が真っ白になって動けなかったり、非常停止ボタンが近くになくて押せなかったり……。
そこで、転落検知を自動化しようという発想になります。
たとえばJR西日本では、赤外線センサーによって線路への転落を自動検知 → 赤信号を点灯させる仕組みが存在します。転落発生から数秒以内には赤信号を点灯させることができるようです。人の手で非常停止ボタンを押すよりも、ほぼ間違いなく早い = より安全度が高いでしょう。
~駅のホームの安全性向上にむけて~ 「ホーム安全スクリーン」の開発、実用化に向けた検証を進めています
やはりホームドア設置に比べれば、数十分の一程度のコストで済むようです。
センサーだけでなく、画像認識技術を使用した安全対策も開発が進んでいます。JR東日本やJR東海が発表しているのが↓こちら。
お客さまの車両への接近を検知するシステムの開発について ~車両側面カメラを用いた人物検知機能の開発~
車両側面にカメラを設置した315系の営業運転開始及び画像認識技術の検証について
車両側面にカメラを設置し、それでホームを監視する。列車に接近する人影を検知した場合、「危ないよー」と運転室の乗務員に警報を発する仕組みです。
こうしたセンサーや画像認識を使った仕組みは、検知の精度が問題になってきますが、技術の向上によって可能になってきているようです。無線式列車制御なんかもそうだけど、最近の技術はすごいなぁ……。オジサンは付いていけないよ(泣)
費用対効果を意識した安全対策が求められる
なお、「触車や転落といった危険がそもそも発生しないようにする」がホームドアならば、センサーや画像認識技術の活用は、「危険が発生した際、迅速に係員に知らせる」という発想といえます。
安全確保の面からだけ見れば、そもそも危険を発生させないホームドアの方が優れているに決まっています。ただ、どんな対策も、実施するにはカネと手間がかかります。安全対策は確かに鉄道会社の最重要課題ではありますが、無限にカネをつぎ込めるわけではありません。会社が潰れてしまうので。
ようは費用対効果です。メリットとデメリットの比較、バランスの問題と言ってもよいでしょう。
鉄道業界はコロナ禍で大打撃を受け、また、将来的にも少子高齢化や人口減少によって収益減が予想されています。いくら安全対策だからといっても、あまりたくさんのカネをかけられる状況ではなくなっています。中堅路線・中堅駅にまでホームドアを行き渡らせるのは、過大な負担になるので避けたい。
そうした場合に、本記事で紹介したようなセンサーや画像認識による対策が、うまく補完する形になってくれるのが理想です。