「鉄道から信号機が消える日」と銘打って始めた連載も、今回が最後です。いろいろな話をしましたが、なぜ将来的に信号機という存在はなくなっていくのか、つまりタイトルの回収をしなければいけませんね。
過去3回の記事を簡単に振り返ったのが↓です。忘れた方はお読みください。
第1回
そもそも信号機とは何のための設備かを説明しました。トイレのカギの例えを出しましたね。「赤信号なら進入禁止・青信号なら進入してよい」という情報を、運転士に伝えるのが信号機です。
第2回
現在の日本で主流になっている、軌道回路を使って信号機の色を変える仕組みを説明しました。
第3回
情報通信技術(無線)を使って、列車を制御する方法を説明しました。軌道回路で信号機を制御する方法は、設備が大規模でコストがかさみます。無線方式ならば、地上設備を大幅に削減でき、コストも減らせます。
無線方式が発達すれば信号機は役割を失う
将来的に信号機は消えていく運命にある。これはすなわち、信号機の果たしている役割が今後は不要になっていく、という意味です。
現在の信号機方式では、運転士は信号機を見て運転します。赤なら信号機手前で停まり、青なら先へ進む。つまり、信号機は運転士に対して、「この先へ進んでよいか否か」という情報を伝える役割を持つわけです。
次に、第3回で説明した無線方式を思い出してください。無線によって「先行列車まで距離○m」という情報──どこまで列車を進めて大丈夫かを伝達します。その情報は、運転台のモニターに表示されます。
どちらの方式も、運転士に対して「どこまで進んでよいか?」という情報を伝えているのは同じです。しかし、情報伝達ルートが違います。
- 信号機方式では、「信号の色」を介して運転士に情報伝達する
- 無線方式では、「列車に直接」情報を届ける
今後は、コストや運行の効率面から、無線方式が普及していくでしょう。線路脇に信号機を建て、色で運転士に情報伝達するのではなく、無線で情報をダイレクト送信する方式が主流になっていく。
そうなると、信号機は不要になります。信号機を使わなくても、列車(と運転士)に必要な情報を届けることができてしまうからです。
こうして、情報伝達用の設備であった信号機は、その存在意義を失い、将来的に線路から消えていくことになるでしょう──
【余談1】鉄道に宇宙時代到来!? GNSSで制御を行う
あとは補足というか余談を二つ。
無線によって列車を制御する方式では、ようするに「いま列車がどこを走っているか?」という情報が必要です。
対象物の位置をリアルタイムで検出する──
これ、我々の周りでも使われていますよね。携帯電話の位置情報サービスや、車のカーナビです。みなさんご存じのように、位置の特定には人工衛星が使用されています。GNSS(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム)と呼ばれる仕組みです。
(※GPSとGNSSの違いですが、GPSはGNSSの一種という位置付け)
将来的には、GNSSで列車制御を行う方法が誕生するかもしれません。船舶や航空機では、すでにGNSSが活用されていますし。
課題としては、まず安全性です。車のカーナビなら、位置検出に誤りがあっても安全上問題ないですが、列車制御の場合は衝突の危険があるので、位置検出の誤りは許されません。
誤差を確実に潰し、万一エラーが発生した場合には、どういう論理で列車の安全を確保するか。
それから、コスト面の問題。運用中の既存設備をわざわざ取っ払ってでも、GNSS方式を導入した方がコスト削減につながるのか。ようは「単純に安いから」ではなく、差し引きトータルでのメリットが求められます。
宇宙から列車を制御する時代が来るかもしれない……。うーん、不思議な気分です。
【余談2】運転士の視力要件が緩和される可能性も
余談その2。視力の話です。
運転士になるためには、目が良くなければいけないことは、ご存じかと思います。2022年現在、省令で定められている視力要件は以下の通り。
片眼0.7以上 & 両眼で1.0以上
そもそも、なぜ運転士に視力が求められるかというと、ある程度の距離から信号機を見通せなければいけないからです。目が悪いと、直前まで信号を確認することができず、対応が遅れるかもしれません。
しかし、信号機ではなく無線方式──運転台のモニターに情報が表示される仕組みなら、遠くの信号機を正確に見分ける視力は不要です。したがって、「信号機がない路線の乗務に限る」という条件付きで、視力要件が緩和されるかもしれません。
もっとも、そうした見直しが行われる頃には、自動運転が発達して、運転士が不要になっている可能性も高いですが……。
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(前)情報通信技術を活用した「無線式列車制御」 ~鉄道から信号機が消える日~(3)