現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職等で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

電車の天井で火花がバチバチ!? 冬の電車を脅かす大敵「霜」

こんにちは、現役鉄道マンのKYSです。

暖冬と騒がれる今冬ですが、ここ数日でようやく寒くなってきましたね。
さて、今回の記事では、この季節特有の大敵「霜」について語ります。

よく冷えた朝だと、架線に霜がビッシリとくっつき、これが電車の運行を阻害することがあります。
雪と違って見えにくい分、タチが悪い。

 

アーク放電 電車の天井でスパークが散る


なぜ、霜によって電車の運行が阻害されるのか?

突然ですが、みなさんは「アーク放電」をご存知でしょうか。
アーク放電とは、空気中を電流が流れる現象の一種です。

電車が走っているのを眺めていたら、パンタグラフと架線の間にスパークが発生した、という現象を一度くらい見たことありませんか?
あれがアーク放電です。

電車は屋根上のパンタグラフを通して、架線(トロリー線)から電気を受け取っています。
ところが、架線に霜が付着すると、パンタグラフと架線の間に霜が挟まり、スムーズな通電ができなくなります。
こういう場合に、アーク放電が発生することがあります。

アーク放電は、ようするにパンタグラフと架線の接触がスムーズにいかないときに発生する現象です。
霜による通電不良以外にも、たとえば架線の表面がデコボコしていて、パンタグラフとの接触が不安定なときにも起こりえます。

パンタグラフや架線を損傷することも


霜の影響でアーク放電が発生する。
これ、私も自分の乗務する列車で経験があります。

冬の始発列車の時間帯で、まだ真っ暗だったのですが、花火みたいに頭上が明るくなりました。
もちろん、乗務員はアーク放電についてレクチャーを受けているので、「なんだこの現象は!?」と焦ることはありませんでしたが、いざ本物に遭遇すると「うおおおおいコレ本当に大丈夫なの?」と心配になりました。

いや、ごく稀ですが、大丈夫じゃないことがあります。

アーク放電、だいたいの場合は瞬間的な現象なので、放置で問題ありません。
ただし、アーク放電の際には大きな熱が発生するため、ごく稀にパンタグラフの破損や架線の溶断につながることがあります。
アーク放電時に発生する大きな熱を利用して溶接する「アーク溶接」という技術もあるくらいです。

このように、霜の発生はパンタグラフや架線の損傷につながる可能性があります。
そのため、鉄道会社には霜対策のノウハウがいくつかあります。

霜の発生メカニズムとは?


そもそも、なぜ架線に霜が付着するのでしょうか?
そのメカニズムを簡単に説明しておきましょう。

空気中には水蒸気が含まれていますが、含むことのできる水蒸気の量は、気温によって変わってきます。
気温が高いほど、たくさんの水蒸気を含むことができる、でしたね。

気温が下がると、空気が含むことのできる水蒸気量は減ります。
飽和した水分は水蒸気として空気中にとどまっていられないので、液体(水滴)や固体(氷)になります。

いわゆる放射冷却が発生すると、金属でできている架線はキンキンに冷やされます。
架線の温度 < 空気の温度 になるのです。
そのキンキンに冷えた架線に、飽和した水蒸気が付着して氷の結晶ができる……。

これが架線に霜が付着するメカニズムです。

霜の発生はある程度予測できる


霜が発生しやすいのは「低温+多湿」のとき
です。

気温が高ければ、空気中にたくさんの水蒸気を含むことができるので、霜は発生しにくいです。

また、湿度が低ければ、そもそも空気中の水蒸気量が少ないため、気温が低かったとしても水蒸気として空気中に収まり切ります。
やはり霜は発生しにくい。

そういう理屈なので、気象情報から霜の発生はある程度予測できます。

大手の鉄道会社だと、しかるべきところから気象情報を収集しています。
たとえば、気象庁からの情報が直通で入るようになっていたり、ウェザーニューズなどから情報を買ったり、という具合です。

始発の前に「霜取り列車」を走らせる


前日の夕方の段階で、「明日の朝は霜が発生しそうだ」となった場合、鉄道会社はどのような対策を取るのでしょうか?

もっともシンプルな方法は、「霜取り列車」を走らせること。
これは始発列車の前に電車を走らせ、パンタグラフで架線に付着している霜を剥がす、という方法です。
それによって、営業列車のための“露払い”を行うわけ。

「おいおい、霜が付着しているところに電車を走らせたら、アークが発生して危険って話だったんじゃ」

そうしたリスクを軽減するため、パンタグラフが2以上あれば、前のパンタグラフからは集電せず、霜取りに専念させます。
集電は後ろのパンタグラフから行います。

ただ、霜取り列車を走らせるためには、けっこう手間がかかるのが欠点。

みなさんは、臨時列車を一本走らせるくらい簡単にできると思うかもしれませんが、実際は大変なんですよ。
運転士や車両の手配、ダイヤの設定などなど。
また、夜間に工事をしていることもありますから、工事計画に抵触しないよう調整も必要です。

いろいろな霜対策


霜取り列車のような“場当たり的”な対策ではなく、もっと根本的な対策はないのでしょうか?

① 凍結防止剤

本格的な冬季を迎える前に、架線に「凍結防止剤」を塗る方法があります。
これは比較的安価にできるのが長所。
欠点としては、効果が一時的なもの(永続しない)なので、時間の経過とともに効果が薄れることです。

② 架線ヒーター

霜が発生するのは架線が冷えてしまうからで、ならば架線を温めればよい、という話になります。
仕様を特殊なものにして、電熱ヒーターの要領で加熱できる架線もあるらしいです。
ただ、これは架線の仕様を特殊化するため、設備コストが問題だとか。

③ パンタグラフの押し上げ力強化

アーク放電が発生するのは、パンタグラフと架線の間に霜が挟まるから、と説明しました。
そのため、パンタグラフの「押し上げ力」を強化して架線への密着度を高めれば、霜を剥がしやすくなるので、アーク放電の発生リスクは減ります。
ただしこの方法、あまり「押し上げ力」を強くすると、架線の摩耗を早めてしまうのが欠点。

……というように、霜対策はいろいろありますが、費用対効果のバランスが取れた「決定版」はないのが現状です。
うーむ、自然現象の相手は難しいですね。