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マンガ『そばもん』から学ぶ 仕事をマニュアル化すると害もある

鉄道業界への就職を目指す学生さん向けに、たまには仕事の心得みたいな話をします。といっても、堅苦しい雰囲気では読んでもらえないので、私の好きなマンガを絡めて話しましょう。

今回紹介するのは、『そばもん ニッポン蕎麦行脚』というマンガです。

そばもんニッポン蕎麦行脚(2) (ビッグコミックス)

主人公の矢代稜(やしろりょう)は、有名な蕎麦職人だった祖父から蕎麦打ちの技をすべて伝授されていますが、自分の店を持たない「流れの職人」です。蕎麦に関するテーマや問題がいろいろ出てきて、蕎麦職人の稜がそれを解決していく物語。

まあアレだ、『美味しんぼ』や『ラーメン発見伝』と似た感じ。蕎麦に特化したバージョンといえるのが『そばもん』です。

美味しんぼの山岡さん・ラーメン発見伝の藤本クンは、一応アマチュア(=プロの料理人ではない)ですが、『そばもん』の矢代稜はれっきとした蕎麦職人というのが、違いといえば違いでしょうか。

教わった通りにやっているのに上手くいかない?

『そばもん』第8~9話では、脱サラして蕎麦屋開業を目指す田中さんが登場します。

田中さんは、蕎麦打ち教室(プロ養成講座)で知識・技術を学んだあと、さらなる修行のために、とある蕎麦屋に弟子入りします。1ヶ月ほど雑用をこなしてから、ついに蕎麦を打たせてもらえるようになりました。まあ、客に出す用ではなく従業員のまかない用ですが。

しかし(案の定と言うべきか?)、なかなか上手く蕎麦を打てません。以前の蕎麦打ち教室で教わった通りの分量の水を入れ、習った通りに作業しますが、できあがるのは失敗作ばかり。

教わった通りにやっているのに、なぜ上手くいかない……。

自分の教わった内容が間違っているのか。田中さんは、 「どれだけ水を入れるか? 何回混ぜるか?」 と修行先の御主人に質問しますが、なぜか教えてくれません。

行き詰まった田中さんは、主人公・矢代稜が登場する蕎麦イベントに出掛け、そこで稜に接触してアドバイスを求める……という流れ。もっとも、稜からも有効なアドバイスを得られませんでしたが。

店に戻った田中さん、蕎麦打ちの練習を続けます。依然として、教室で習った通りの分量の水を入れ、習った通りに捏ねる。そして失敗を続ける。

「こうやればこうなる」ではなく「こうなるためにどうするか?」

田中さんの何がいけないか?

ようは、蕎麦打ちという作業をマニュアル化しようとしているのです。

というのも、一口に蕎麦粉と言っても、みんな品質が違います。たとえば、乾いた蕎麦粉なら水分を多めに加えなければいけないし、湿り気のある粉ならその逆が必要。また、考慮すべきは蕎麦粉自体の品質だけでない。その日の温度や湿度によっても作業を微調整するべきでしょう。

だから「どれだけ水を入れるか? 何回混ぜるか?」について、唯一絶対の解などありえないのですが、それを求めているのが田中さんなのです。

こうしたマニュアル化思考から抜け出せない田中さんに対し、ようやく修行先の御主人がアドバイスをくれます。その内容とは、

「こうやればこうなる」じゃないんだ、蕎麦打ちは。
「こうなるためにどうするか?」だ!

前提となる諸条件が毎回違うので、こう打てば美味しい蕎麦になるという、絶対的なマニュアルなどありえない。しかし、最終的に完成した蕎麦は、毎回同じでなければいけない。日によって味(商品の品質)が違うようでは、プロとは言えないからです。

だから、毎日同じ品質を保つという「こうなる」を実現するには、逆算して「どうするか」を毎日考えながら作業しなければいけません。

鉄道の仕事も「こうやればこうなる」ではない

「こうやればこうなる」じゃないんだ、蕎麦打ちは。「こうなるためにどうするか?」だ!

これ、鉄道の仕事でも同じなので、すごく納得しました。

たとえば、運転士は列車を駅に停めるときにブレーキを掛けますが、「駅手前この地点から、この強さのブレーキを掛ければピッタリの位置に停まる」という唯一絶対の解は存在しません。というのは、同じ形式の車両でも、実はブレーキの強さが微妙に違うからです。

天候でもブレーキ距離は変わります。雨でレールが濡れていればブレーキ距離は伸びますし、向かい風ならスピードが落ちやすい。乗客の多寡でも変わってきます。

しかし、諸条件の違いを考慮したうえでブレーキ操作を調整し、正しいフィニッシュに持っていく。これが運転士の仕事です。まさしく、「こうやればこうなる」ではなくて、「こうなるためにどうするか?」なのです。

運転士のブレーキ操作に限らず、一つ条件が違うと、手順や考え方を変えなければいけない仕事はゴロゴロあります。そのあたりを臨機応変に対処できるかが、経験の差です。

まあ、そのあたりは鉄道に限らず、みなさんの仕事でも同じだと思います。

勘違いしないでほしいのですが、私はマニュアル自体は否定しません。見える化・明文化は大事だと思います。ただ、前提となる条件が毎回異なるので、マニュアルを絶対視して作業を進めると思わぬ落とし穴に嵌まるかもよ、と言いたいのです。

マニュアルは、あくまで指針・目安みたいなものだと私は考えています。

だから、部下や後輩から「こういうときはどうすればいいですか?」と質問されても、「条件による。ケースバイケースとしか言いようがない」と答えることがけっこうありますね。

もっとも、それだけでは上司失格なので、「たとえばこういう条件なら俺はこうする」「前に起きたときはこう対処したけど、こういうやり方もありえる」と一例を示すようにはしています。

なお、『そばもん』の田中さんが結局どうなったかは、みなさん自分の目で確かめてください。他にもビジネスの参考になる考え方がたくさん出てくる、オススメのマンガです。

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