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昔の鉄道車両は窓が開いた マンガ『スパイラル ~推理の絆~』でのシーンを解説

今の若い人は知らないでしょうが……などと書き始めるのもアレですが、実際、若い人の多くは知らなさそうな鉄道知識。

昔の鉄道車両は、客室の窓が開くようになっていた

普段みなさんが通勤などで利用している列車、客室の窓はガッチリ固定されていて、開かない仕様のはずです。いや、厳密には100%開かないわけではなく、一部の窓が少しだけ開くようになっているケースが多いでしょう。

現代の車両では、それが当たり前ですが、昔はそうではありませんでした。客室の窓は普通に開けることができたんですよ。私のように、ある程度歳を喰った人間でないと、客室の窓を開けた経験はないと思います。

なぜ昔の鉄道車両は窓を開けられるようになっていた?

なぜ昔の鉄道車両は、客室の窓を開けられるようになっていたのか? 目的をザックリ言いますと、

  • 車内に風を入れるため
  • 換気のため

現代の感覚では信じられないでしょうが、昔は冷房を備えていない車両が少なくありませんでした。冷房ナシ + 窓が閉め切られた状態だと、夏場の車内は暑くてヤバくなるのは想像つきますよね。ですから、車内を涼しくするために、窓を開けて風を入れられるようにする必要がありました。

換気も同様で、閉め切られたままだと車内の空気が悪くなりますから、窓を開けて外気を取り込めるようになっていたわけです。

しかし、時代は変わりました。冷房(空調)を搭載した車両がスタンダードになり、同時に換気機能も備わっているのが現代の車両。窓を開ける必要性というものが、そもそもなくなったのです。

となると、客室の窓が「閉」で固定されていくのは自然の流れ。かくして、客室の窓が開く鉄道車両は、過去のものとなっていきました。

昔の小説やマンガでは「窓が開く」が前提になっているシーンも

昔の小説なんかを読んでいると、こうした時代背景が反映されていておもしろいです。

たとえば、鉄道系のミステリーで有名な西村京太郎氏の作品でも、「客室の窓が開く」ということを前提にしたトリック(殺しの手段)が出てきます。客室の窓が開かない車両ばかりの現代では、およそ不可能な殺し方というわけ。

小説だけでなく、昔のマンガなんかでも同様。窓が開くことを利用した演出が存在します。たとえば↓のシーン。

『スパイラル ~推理の絆~』第75話より抜粋

これは『スパイラル ~推理の絆~』という2000年代前半のマンガ。走行する列車の窓を開けて、ちぎった紙を外に投げ捨てています。過去との訣別みたいな雰囲気が出てますよね。

さて、この『スパイラル』はいわゆる頭脳バトルモノなのですが、ある話に、 客室の窓が開くことを利用した面白いシーンが存在します。せっかくですので、それを紹介しましょう。

『スパイラル ~推理の絆~』では爆弾解除の話が出てくる

まずはマンガのストーリーを簡単に紹介。

『スパイラル ~推理の絆~』の物語には、ブレード・チルドレンという少年・少女たちが登場します。特殊な生い立ちによって、高い知能や運動能力を持つ子どもたちです。

序~中盤にかけて、主人公の鳴海歩(なるみあゆむ)は、このブレード・チルドレンと何度も対決します。中には、負ければ命を落としかねない「ゲーム」も。歩は頭脳を駆使してブレード・チルドレンに、そして自らの運命に立ち向かっていく……という感じの話。

歩には心強い味方もいます。ヒロインの結崎ひよの(ゆいざきひよの)です。彼女は類まれなる情報収集力や機転・度胸で、何度も歩を助けます。歩はひよのを「あんた」と呼び、邪険に扱ってはいますが、なんやかんやで頼りにしています。

鳴海歩と結崎ひよの。二人の関係は「相棒」が一番しっくりくる。第7話より抜粋

そんな二人ですが、あるときタッグを組んで、ブレード・チルドレンと「ゲーム」を行います。そのゲーム中、歩は首に爆弾を装着させられます。ゲームの勝利を目指しつつ、制限時間内に首の爆弾を止める作業も同時並行で進めなければいけない、という状況。その辺りの駆け引きがゲームのキモ。

歩の首の爆弾を止める解除キーは、ひよのが持たされました。爆弾を止めるには、歩とひよのが合流する必要があるわけです。

ゲームを行うことになった経緯や、詳しいルールの説明は省きます。覚えておいてほしいのは、 歩は首に爆弾を着けられ、その解除キーを持っているのがひよのだということ。

「客室の窓が開く」を利用して爆弾の解除キーを手に入れる歩

ゲームスタート。最初、二人は離れた場所にいます。ひよのは携帯電話で歩に連絡し、「すぐ合流して爆弾を外そう」と提案しますが、歩は断ります。

というのも、ゲームに勝つためには、自分の首の爆弾を外すよりも優先して処理しないといけない(と判断した)事項があったからです。それを片付けてから、後半で解除キーの受け渡しをすると決めます。

というわけでゲーム前半の間、歩の指示により、ひよのは敵から逃げることに専念します。もし敵に捕まったら、爆弾の解除キーを歩に渡せませんから。

敵に捕まらないために選んだ手段が、列車に乗ること。 走行中の列車に外からは手出しできないので、中にいれば安全、という理由です。

列車に乗って適当な区間を行き来しつつ時間を潰し、最後に歩と打ち合わせた時刻に指定された駅で降りる。そこで歩と落ち合い、爆弾の解除キーを渡すという計画です。

──ところが、ひよのは敵の妨害によって、意図しない列車に乗せられてしまいます。これによって、爆発時刻までに、歩と落ち合う予定だった駅へ着くことが不可能になりました。

爆発時刻までに、合流予定ポイントへ着けなくなった。第18話より抜粋

東海道新幹線で例えると、新横浜~小田原間を「こだま」「ひかり」で往復して時間調整をし、頃合いを見計らって新横浜に戻ろうと思っていた。ところが、名古屋までノンストップの「のぞみ」に乗せられてしまい、時間内に新横浜に戻れなくなったような感じでしょうか。

解除キーを持つひよのと合流できなくなった歩。「敵さんは爆弾の解除スイッチを持っているはず」と読み、敵を呼び出して策略で奪おうとしますが、あと一歩のところで失敗。

──爆発まであと1分。爆弾を止めるためには、ひよのから解除キーを受け取るしかありませんが、彼女は列車の中。万策尽きました。嗚呼、さようなら鳴海歩。主人公が死んだら打ち切りdeathね。

しかし、歩は最後の手段を残していた。

このとき、歩(と敵さん)は川岸にいました。その上には鉄道の鉄橋。ガタンガタン……なんか列車が来た。その列車には、解除キーを持つひよのが乗っており──

第20話より抜粋

ひよのは客室の窓を開けて、解除キーを落とし(投げ)ます。それを鉄橋下にいた歩がキャッチ → 爆弾解除に成功。歩とひよの、駅で直接会って解除キーを受け渡しすることは不可能でしたが、「客室の窓が開く」ことを利用した方法で窮地を脱しました。

携帯電話を使い、二人の間で打ち合わせを済ませてあったのは言うまでもありません。

走行中の列車からピンポイントの位置にカギを投げるのはまず不可能

列車の窓からキーを投げて、橋の下にいる人へ渡す。このトリッキーな方法には、敵さんのブレード・チルドレンも唖然。

いや、私も唖然です。というのは、歩はその場からほとんど動かず、キーをダイレクトキャッチしていました。つまり、ひよのは歩が立っている(ほぼ)ピンポイントの位置にキーを落としたことになります。走行中の列車から。

 無理だろ

そんなに難しいことでしょうか? 列車が歩の真上を通った瞬間にキーを手放せば、キーは歩の頭上に落ちてくるのでは?

いえいえ、世の中には慣性の法則というものがありまして……。動いている乗り物からモノを落とした場合、手放した位置の真下には着地しません。モノの落下地点は、少し前方になります。

歩の真上でキーを手放すと

こうなる

ようは垂直に落下するのではなく、斜めに落ちるわけ(=より正確に言えば、カーブを描いて落ちてくる)。これを考慮すると、ひよのがキーを落とすのは、歩の少し手前からでなければなりません。

しかし、これは至難の業。ひよのの乗る列車が仮に72㎞/h──秒速20mで走っていたとしたら、タイミングが0.1秒ズレただけで、カギの着地点は2mも変わります。

歩の立っている位置ドンピシャにキーを落とすためには、歩との距離(水平距離・高さ)、列車の速度に風速風向。これらを正確に把握したうえで、キーを投げる方向・角度・タイミングすべてが完璧でなければいけません。もちろん物理的には可能ですが、現実的には無理な話です。少なくとも一発で決めるのは。

たぶん、「2階から目薬」より難しいはず。

それをやってのけるのですから、結崎ひよのは只者ではありません。……いや、実際只者じゃなかったですけどね(^^;) 彼女の正体は、最終盤で明らかになります。

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