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トンネルの断面積は大・小どちらがよいのか?

2021年4月2日に発生した台湾の特急脱線事故ですが、ついに工事関係者が起訴されました。

操作誤りで線路脇の繁みに工事車両が突っ込んでしまい、それを引き出そうとしたが失敗、工事車両が線路に転落した。どうやら、これが真相のようです。

「トンネルが小さい(狭い)せいで被害が拡大した」との見解も

ところで今回、「現場のトンネルは断面積が小さい(狭い)が、それが事故の被害を大きくした」との見解がありました。

トンネルが狭かったせいで、列車が激しく壁に衝突した。また、車外への脱出や救助作業も難航した。(ただ、トンネルがなかったら、脱線→横転して被害が大きくなった可能性もあるので、何とも言えないですが……)

現場の映像を見た感じ、確かに小さい(狭い)トンネルです。ひょっとしたら日本統治時代の機構かもしれません。

昔に造られたトンネルは、概して狭いです。昔の路線は電化されていないことが多かった、イコール車両の上に設ける架線分のスペースが不要だったため、その分、トンネル断面積が小さかったわけ。

そのへんはさておき、「トンネルが小さかったから被害が拡大した」という見解を拡大解釈して、「小さいトンネルは悪だ」と考える人がいるかもしれません。今回の記事では、そのあたりを解説します。

トンネル断面積が小さいことのデメリットとは?

まず、トンネル断面積が小さいことで発生するデメリットを説明しておきます。トンネル素人の私でも考えつくデメリットは、以下の4点です。

デメリット① トラブル時の対応が難しくなる

今回のような脱線事故の他にも、車両故障によりトンネル内で停まるとか、トンネル火災とか、そういうトラブルがありえます。その場合はトンネル内を避難誘導しなければいけませんが、やはり狭いのは不利です。広い方がよいのは間違いありません。

近年開通した世界の長大トンネルに、スイスのゴッタルドベーストンネル、チェネリベーストンネルがあります。写真で見ると、中は広いです。理由はいろいろあるでしょうが、やはりトラブル時の対応を念頭に置いてあるのでしょう。

デメリット② 圧力変動や微気圧波の影響が大きい

続いて、空気力学的な問題。

トンネル内を車両が高速移動すると、圧力変動微気圧波の問題が生じます。

詳しい説明は省略しますが、圧力変動はいわゆる「耳ツン現象」を、微気圧波はトンネル出口付近で大きな音が出る「トンネルドン」を発生させます。広いトンネルよりも、狭いトンネルの方が、これらの問題が起きやすいと読んだことがあります。

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高速でトンネルに突入すると、さまざまな問題が生じる

デメリット③ パンタグラフが対応しきれない車両もある

トンネルが狭いと、そもそも車両(電車)が通れないこともあります。具体的には、パンタグラフが狭いトンネルに対応できないことがあるのです。

狭いトンネルを電車が通る際、↓の図のようになります。

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トンネルが狭いと、架線も低くしないといけない

狭いトンネル内では、パンタグラフは「く」の字が上から押し潰された形になります。ところが、電車によっては、この変形に耐えられずにパンタグラフが下がって(降りて)しまうことがあります。パンタグラフが下がると架線から電気を受け取れないので、電車は走れなくなってしまいます。

狭いトンネルを通るためには、パンタグラフに高い柔軟性・架線への追従性が必要ということです。日本でも昔は、「この形式の電車は、狭いトンネルだとパンタグラフが降りちゃうから通しちゃダメ」という運用制限がありました。

ちなみに、車両設備による運用制限は、現代でも数多くあります。簡単な例だと、ワンマン運転する路線には、ワンマン設備が整った車両しか入れないとか。他には、この区間を走らせる列車はトイレ付の車両じゃなきゃダメ、というのもあります。

デメリット④ 列車から落ちた氷が跳ね返って車両を傷つける

狭いトンネルのデメリット、ちょっとマニアックな内容も一つ。降雪地帯での話です。

降雪地帯では、走行しているうちに車両に雪が付着します。付着した雪は、走行中に受ける風で冷え固まってになります。

で、車両にくっついた氷が線路に落ちることがあるのですが、狭いトンネル内を走行中に落ちると大変。落下した氷が地面で跳ね返ったあと、ビリヤードのように、トンネルの壁 → 車両とぶつかります。

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イメージ図:トンネルが狭いと、こういう現象が起きる危険が高くなる

高速走行する列車から落ちた氷なので、跳ね返りの威力がすごいです。氷が激突して窓ガラスが割れ、車両交換に至るケースも。

そういうこともあって、降雪地帯の狭いトンネルでは、線路(地面)に氷の跳ね返り対策を施すようになった……と聞いたことがあります。

トンネルは大きい方がよい? それはそれでマイナスが生じる

このように、トンネル断面積が小さい(狭い)と、さまざまなデメリットが発生します。

ではトンネル断面積は大きい方がよいかというと……話はそう単純ではありません。トンネルを大きく造ると、次のようなデメリットがあります。

  • 掘り出す土の量が多くなるので、工期が伸びる
  • 工期が伸びれば人件費が高くなる
  • 掘り出した土の運搬コストも高くなる
  • トンネル整備のための必要資材量も増える

ようは、トンネルを大きく造ると建設コストが高くなるよ、ということ。

新線開業の際、高額な建設費が経営を圧迫し、赤字体質に陥ることがあります。赤字が慢性化すれば、安全への投資ができなくなり、結果として事故を招きます。日本でも、経営が苦しい地方の鉄道会社に事故が多かったりしますが、これは決して偶然ではありません。

建設コストを抑えることは、巡り巡って、安全のために必要なのです。

大小どちらが良いかはケースバイケース

じゃあ結局、トンネル断面積は大小どちらがいいんだ? と思うでしょうが、これはケースバイケースとしか言いようがありません。

たとえば、山岳路線でたくさんトンネルを掘るのであれば、全体の建設コストを抑えるために、断面積は小さい方がいいでしょう。断面積を小さくすることによるデメリットは、車両側の工夫で解決します。日本の新幹線は、こちらの考え方です。

逆に、トンネルが少ない路線なら、車両に高い耐トンネル性能を持たせるのは無駄ですね。したがって、トンネル断面積を大きくすることでデメリットを消した方が得です。

ようは、発生するデメリットを、車両側・トンネル側のどちらで解決した方がトータルで得か? という話。

トンネル断面積の大小は難しい問題

話が長くなりました。
とにかく、トンネルの断面積ひとつとっても、いろいろと考えるべき要素があるとわかってもらえればOKです。トンネル断面積は大小どちらが良いのかは、スパッと断言できるような簡単な話ではないのですね。

したがって、「小さいトンネルは悪なのか?」というテーマ、これは「何とも言えない」です。

最初に書きましたが、台湾での脱線事故、トンネルの小ささが被害拡大の一因とする見方もあります。日本にも小さいトンネルはありますが、もしかすると今後、「まずいんじゃない?」と議論になるかもしれません。その際の参考になれば幸いです。


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