「働き方改革」という言葉がすっかり定着しましたが、「ぶっちゃけ、鉄道会社の労働条件ってどうなの?」と気になる人も多いでしょう。
『鉄道会社の労働条件を説明するシリーズ』の第2弾です。今回は年次有給休暇(以下、有休と表記)について触れます。いわゆるブラック企業の指標の一つに「有休が取れない」がありますが、はたして鉄道業界の実態は?
ブラック企業対策としても知っておこう 有休の基礎知識
社会人には釈迦に説法ですが、これから社会に出ていく学生が読んでいると想定して、有休の基礎知識から書いていきます。「知ってるよ」という人は、この見出しの内容は読み飛ばしてください。
有休とは、「賃金を貰いながら就労義務がない日」です。「賃金を貰いながら」というのがポイントで、賃金を貰えない普通の休日との違いはそこです。
勘違いしている人が多いですが、有休とは「会社から与えられるもの」ではなく、「法律で保障された労働者の権利」です。つまり、労働者が「有休を使いたい」と申請すれば、会社側は(原則)拒むことはできません。そういう基礎知識を知らないと、ブラック企業に騙されてこき使われるハメになりますよ。
さて、有休の年間付与日数は労働基準法で定められています。
初年度は10日。
2年目は11日。
3年目は12日。
以降、14→16→18→20と増えていきます。20が上限で、以降は毎年度20日の有休が与えられます。
もっとも、この日数は労働基準法で定められた最低基準であって、会社側が独自に増やすことはOKです。実際、そういう鉄道会社も少なくありません。
このように、有休は労働基準法で定められている部分が大きいので、どこの鉄道会社、というよりも世の中どの会社でも大差ありません。
というわけで、問題になるのは付与日数ではなく、「有休の取りやすさ・消化率」ですね。
鉄道現場の有休の取りやすさは「部署の人数」による
では、「有休の取りやすさ・消化率」は、いったい何に左右されるのか?
社風? 部署の雰囲気? 上司の性格?
一般的に言われることが多いのは、こうした要素ですよね。しかし、車掌・運転士といった職種は、ズバリ部署の人数が有休の取りやすさを左右します。
これらの職種が特徴的なのは、「毎日、必要となる人数が決まっていること」です。
たとえば、事務仕事を行う部署だと、「今日は一人休んでいます」でも問題ないですよね。他の人が、休んだ人の分も仕事をカバーすれば済みます。また、定期異動の際に人員が削減されて、そのまま補充がないけどなんとか回している……という場合もあるでしょう。
つまり、事務系の職種は「一日に絶対に○人いなければ仕事が回らない」という事態にはなりません。
乗務員は「一日に必要な頭数」が決まっている
ところが、車掌・運転士は一日に必要な人数が決まっています。その日に何本の列車が運転されるか決まっており、それに応じて「誰がどの列車の乗務を担当するか」が割り振られているからです。ようはシフト制。
一人でも乗務員が欠けたら、その人が担当するはずだった列車に穴があきます。事務系の仕事みたいに、欠勤者が出たからといって、その穴を他の人でカバーできません。
「本日必要な運転士の数は100人。でも頑張って99人で回そう」
こういうことができないのです。もし、病気などで欠勤が出たら、必ず代わりの人が必要になります。
「余裕分」の乗務員には逆に仕事がない
このように、車掌・運転士は「一日に絶対に○人必要」と決まっています。そして、「一日に絶対に○人必要」とは、逆に言えば仕事があるのは○人だけで、それ以外の人には仕事がありません。
そういうわけなので、部署の配属人数に余裕があれば有休は取りやすいです。しかし逆に、ギリギリの人数で回している場合は有休が非常に取りにくい。
単純な話ですが、こういう構図になっています。
時期・部署・会社によっても状況は異なる
昔、私が乗務員をしていた頃、人数がギリギリの状態に陥ったことがあって、そのときは大変でした。有休どころではなく、10日以上連続で乗務したこともありました(←遠い目)。
まあ、10日連続程度は普通という鉄道会社も存在しますが……。
現在はもう乗務員をしておらず、別部署に異動している私ですが、そこは(現在は)人数に余裕があるので、有休が取りやすいです。それに加えて、有休消化率が悪いと会社側から何か言われるため、労務管理をする私の上司は「ちゃんと有休使え」と推奨しているんですね。
そういう雰囲気ですので、現在、私の部署の有休消化率は高いです。もちろん消化率100%とはいきませんが、世間一般の消化率(約50%)に比べたら、格段に高いと思います。
対して、ウチのお隣の鉄道会社(大手です)で、私と同じ仕事をしている部署は、人数がギリギリのため有休消化率が非常に悪いようです。年度終わりが近づいても、年度開始時の有休残数とほとんど変わってない社員もいるようです。
(多少の交流があるので、そういう情報も入ってくる)
このように、同じような仕事をしていても、時期によって、部署によって、そして会社によって状況が全然違います。つまり、「業界内の相場」がないのですね。志望会社ではどうなっているか、OB・OG訪問でちゃんと情報を仕入れましょう。
公開されたデータはあくまで参考程度に
採用情報のページには、有休消化率・平均取得日数が書いてあったりしますが、これは鵜呑みにせず参考程度に見ておくべきでしょう。あくまで「平均」であって、大多数の人が該当する「中央値」ではないからです。
ウチの会社も採用情報のページで有休消化率を公開していますが、その数字は私の所属する部署よりも低いです。有休をあまり取得しない他の部署の数字が加味されて、下方に引きずられているのだと思われます。
こういう“数字のマジック”がありますから、下手に数字を鵜呑みにして「有休が取りやすそう・取りにくそう」などと先入観を持たないことです。そうしておけば、入社後に「話が違う」とギャップを感じることもないでしょう。